13 変人ペテル
「これだから、女は駄目なんだ。」「女なんかの元で働こうとしたのが間違いだったな。」
男達がぺらぺら喋りながら、ザンのお城から出てきた。それを聞きつけたザンが怒鳴って飛び出してきた。
「てめえらっ、聞こえてるぞっ。自分らに根性が無いのを人の所為にしてんじゃねえよっ。」
「ひえっ!?」「ザ・ザン様っ。」
「死んで後悔しろっ。」
ザンは叫ぶと殴りかかろうとした。その時。
「いけませんよー。そう簡単に殺したら。」
後ろから、いきなり抱え上げられた。
「な・なんだ、てめえはっ?」
ザンは吃驚して叫んだ。『気配がなかったぞ、今。』
「ペテルって言います。今日から、貴女様の部下にして頂こうと思いまして。」
アゲハの羽が美しい蝶々である男はそう言いながら、ザンのお尻を軽く叩く。無論痛くは無いが、ザンはムカッとした。しかも男達はその隙に逃げてしまった。彼女はいらいらしながら言う。
「部下にするかどうかは、俺が気に入るかどうかも重要だ。お前の所為で、あの馬鹿共が逃げやがった。…よって、不採用だっ。」
「そんなあ…。僕、頑張って鍛えたから、強いんですけど…。」
「うるせえっ。いいから下ろせっ。」
「部下にしてくれるなら、下ろしてあげますよん。」
ペテルは言いながら、ザンの背中を撫でた。「うーん、可愛い。やっぱり女の子はいいなあ。」
「ふざけてると首が胴体から離れるぞっ。」
「またまたあ。ザン様がお茶目さんだなんて、今、初めて知りましたよぉ。」
ザンはかっとなって、本当に手刀でペテルの首を叩き落そうとしたが、ペテルの手がやんわりとザンの腕を押さえた。
「!」
並みの強さなら、今の動きを見ることすらかなわないはず。ザンはペテルの顔をまじまじと見た。何を勘違いしたのか、彼はにこっと微笑んだ。
「そんなに下りたいなら、下ろしてあげないっと。」
「お前、…俺と戦え。」
「僕は部下になりたいって言いましたけど。ザン様、人の話は聞かなきゃ駄目ですよぉ。」
ぺんぺん。また軽く叩かれた。「いい子、いい子。可愛い子だあい好きっ。」
ペテルは、呆然としているザンを抱えたまま、お城の中に入っていく。
「新しい部下が増えたって聞いたんですけど、どんな人なんですか?」
フェルはジオルクに言った。
「強引に押しかけてきて居座ってるだけだ。ザン様に聞くなよ。機嫌が悪くなる。」
「そんな図々しい人は、初めてですね…。」
「えーっ、図々しくないよっ。僕強いもんっ。ザン様、俺と戦えって言ってたしね。」
ジオルクとフェルが吃驚して振り返る。ペテルがにこにこ微笑みながら、立っていた。
「いつの間に…。」
「君達って、こんな安全なお城の中で常に警戒してるの?神経が疲れちゃうよん。」
ペテルがふっとフェルの側に立った。
「は・速いっ。」
「君、可愛いね。このくりんくりんの髪がいいな。」
ペテルはフェルを抱き寄せ、はねているくせっ毛に優しく触れる。「わあ、尻尾可愛い。狐ってこれだから好きなんだ♪」
「止めてよっ。僕は女が好きなんだからっ。変態なんて嫌いだあっ。」
「抵抗しちゃ駄目だよ。せっかく可愛いのにぃ。ちなみに僕は女の子の方が好きだよん。ザン様も可愛いから、部下にしてもらうことにしたんだ。」
「ザン様が可愛い…?」
ジオルクが呟く。
「君は可愛くないや。僕人型が好きだから。」
「可愛いなどとは思ってもらいたくない。…そんなことより、ザン様が俺と戦えと言っただと?」
「君、駄目だねえ…。可愛い子を追い求める姿勢が無いよ。一番大事なのにぃ。」
ペテルは、嫌がるフェルを無理矢理撫でながら、ジオルクに微笑みかける。「あのね、ザン様は、僕が強いから戦いたくなったみたいだけどぉ、もし僕が勝っちゃったら、ザン様の部下でいられないし。」
「いい気になってんじゃねえぞ。」
背後から、ザンの声がした。
「わあ、ザン様だあっ。」
ペテルがザンに飛びつく。開放されたフェルは、ほーっと息をついた。
「お前は俺と戦う資格があるってだけで、俺に勝つ可能性なんてねえ!」
ザンはペテルを睨む。「それと、お前は俺の部下になっていないからなっ!早く出て行けっ!!」
「嫌ですぅ。僕は、ザン様もあそこにいる狐君も好きだし、僕にザン様と戦う資格があるなら、これから鍛えれば、ザン様の欲求不満も解決出来ますよぉ。」
「俺は不満なんてねえぞっ。…いつまでくっくついてるつもりなんだっ。さっさと放せっ。」
ペテルはザンを押し倒した。ジオルクとフェルが飛びあがった。
「だってぇ、ザン様はとっても戦闘向きの性格でしょ?第一者が腑抜けである以上、貴女様の心を満足させる相手はいないってことになりますよねぇ?」
ペテルはザンの頬にキスをする。「それにタルートリーさんが死んでから、寂しいでしょ?こっちも。」
「何すんだっ、殺されてえのかっ、てめえはっ。」
服を脱がされそうになったザンは叫んだ。ジオルクとフェルは、下手に手を出すと自分まで巻き添えを食うのではと恐れておろおろしている。その間にペテルは巧みにザンの服を全て脱がせてしまった。
「ザン様って猫の血も入ってましたよね?僕、猫は好きなんですぅ。可愛がると体を擦りつけてくるとこなんか。すりすりって。」
ペテルはザンを四つんばいにさせると、顎から首にかけてすすっと手を滑らせる。ザンの抵抗が止まる。ペテルは正座するとザンを膝に寝かせる。背中を撫でた。「ほら、もうこんなに大人しい。猫って可愛いでしょ?」
「は・裸にする必要無いでしょ?」
フェルが言うと、ペテルは、
「君、女の子を愛する時、服を着たままなの?」
「…。」
「ザン様ぁ、僕を部下って認めてくれますよね?」
「…。」
「あ、いい子にしないと二人の前でもっと可愛いザン様を見せちゃいますよ?威厳って大事だと思うな、僕。」
「わ・分かった。部下にしてやるから、止めてくれっ。」
こうしてペテルはかなり強引に部下になった。
ネスクリが部下になって、お城を良くした頃。ザンに気に入られたネスクリは、ザンの部屋に入り浸る日が多くなった。ネスクリは、彼女を撫でていた。ザハランが初めて部屋に入った時に、やっていたのもこれだ。
『今はこんな事しか出来ないが、いずれは俺に奉仕させてやる…。』ネスクリはそう考えていた。ザンに全て見抜かれていて、馬鹿にされているとは知らないで。ザハランに殺されるまで、ネスクリはザンの夫になれると信じていたのだった。
「どうですか?」
聞くまでもなく、ザンは喉をごろごろいわせていた。気持ち良さそうに体を擦り付けてくるザンをネスクリは愛撫し続けた。暫く後、すっかり満足したザンは、バリバリ仕事を始めた。ネスクリは部屋を出て、すぐ側にある番号つき部下の仕事部屋に入った。
ザンが仕事を負えて、一息ついていると、ペテルが入ってきた。真面目な表情だった。彼のこんな表情は初めて見る。
「どうしたペテル…?」
「ザン様は僕が可愛がるんだあっ!」
ペテルが飛びかかってきた。思わず身構えたザンのガードを軽く弾き、彼女のいい所をするっと撫でた。力が抜け、彼女は膝をついてしまった。ペテルはあっという間に彼女の服を脱がせてしまった。
「あーんな可愛くないネスクリなんかの好きにさせたままで我慢できないっ。ザン様は僕のなんだからっ。」
「お・俺は…お前の…物じゃね・えよ…。」
ネスクリに撫でられたばかりでもういいと思っていたのに、ペテルの撫で方は上手で自然に喉が鳴り出した。
「ほ〜ら、僕の方が上手だあ…。もう、ネスクリなんかに頼っちゃ駄目ですよ?」
「どう…しようが、俺の勝手だ…ろうが。」
「ああっ。そういう可愛くないことを言うんですね?…ネスクリに頼るし、そういうことを言うし、ザン様ってば、悪い子!」
ザンは何とかペテルの腕を振り切り、彼を突き飛ばした。彼はころころ転がっていってしまった。
「何が悪い子だっ。年下のがきのくせに。」
ペテルは立ち上がると、ザンでさえ驚くようなスピードで近寄って来ると、抵抗する彼女をいとも簡単に膝の上に乗せてしまった。「止めろっ!何しやがるっ。」
「悪い子にはお仕置きが必要ですよぉ。ザン様は僕の物なんだから。僕がそう決めたんだから。あんな可愛くないネスクリなんかには絶対にあげないもん。」
「俺はお前の物じゃねえし、あげるも貰うもねえよ。…いい加減にしろよ、ペテル。俺がお前を殺さないと思ってるのか?」
「そういう顔も可愛いなあ…。女の子ってなにしても可愛い。」
「人の話を聞け!」
「あ、そうそう。この可愛いお尻にお仕置きしなきゃ。…やだなあ…。こおんな可愛くてちっちゃなお尻をぶつなんて…。あーあ、僕には出来ない…。」
ペテルは、はああとうっとりした顔でため息をつく。ザンは気持ち悪くなった。『頭がおかしいぜ、こいつは…。』
「だったら、離せっ。」
「だあぁぁぁめ。お仕置きしないとまたネスクリのいい子になるでしょぉ。…うんっ。頑張る気が出てきた。…よおしっ。」
ぺん、ぺん。とうとう叩かれ始めたが、あんまり痛くなかった。まあ、沢山叩かれたら、火照るかもしれないけど…。ぺん、ぺん。
「痛くねえぞ。」
「痛くなんて!可愛い子にそんな酷いことは出来ないっ。」
「じゃあ、お仕置きじゃねえだろ。さっさと離せよ。出来ねえことすんな。」
「痛いばかりがお仕置きじゃないですよ?」
ペテルは意地悪く微笑む。「忘れているかもしれませんけど、戸、開いたままですよぉ。いつ誰が来るか…ザン様のこの全裸で恥ずかしい姿を…。しかも僕にぺんぺんされてるとぉっても可愛くて、でも恥ずかしい…ねぇ?」
ザンは青ざめた。仕事が終わったら、ネスクリがやってくる。その他にも、フェルやジオルクがいつ来るか分かったもんではない。
「うっ。…く、くそっ、わ・分かったから、離してくれよっ。」
「痛くないお仕置きもありでしょ?」
ペテルは、ぺんぺんと手を休めずに言った。
「分かったって言ってんだろっ!?お前の好きにさせてやるから、離せっ。」
「真っ赤になっちゃって…。可愛いの。」
ペテルはザンの頭を撫ぜた。膝から下ろし、叩き続けたのに力が弱かったせいで、少しも染まっていないお尻を撫でた。彼は立ち上がると、戸の所へ行き、鍵を掛けた。
「何だよ、もういいだろ?」
ザンは当惑した。
「だあめ。まだまだ楽しむんだから。ネスクリの手の跡なんか消しちゃうの。」
「ねえよ、そんなもん。」
「見えますぅ、あっちもこっちもネスクリだらけっ。」
ザンはもう何も言わなかった。彼は変態だけど、本当は殺すには惜しい人材なのだ。彼の好きにさせた方が役に立つ。黙ってしまったザンに優しく微笑みかけると、ペテルは彼女をベッドに運んだ。
「猫、好きか?」
「好きですよぉ。ごろごろ言う所とか、すりすりしてくる所とか…。でもぉ、フェル君のふっとい尻尾もだあい好きっ♪」
「そうか。」
「そうです。…さ、ネスクリなんか忘れさせちゃおうっと。」
ペテルは手を伸ばしてきた。
「ねこ、ネコ、猫ぉっ。にゃん、にゃんっ。」
「ちょっ、待てっ、ペテルっ。おいっ、こらっ。…あの馬鹿はっ。」
ザンは頭を抱えた。ザンがペテルの言う所の“すりすり”をしたら、可愛いがりたいメーターがMAXになったらしく、次なる可愛がる相手を探して、飛び出していってしまった。「仕方がねえな。城内放送をかけよう…。」
監視室に入る。壁一面に並ぶモニターを見たザンは、仰天した。ペテルが通った後らしい場所に、点々と猫が倒れていた。部下とその妻達と召し使いの女の子達が…。その中には夫持ちの女性もいる。カタエルもいた。
「この場合、フェルは怒るのか、悔しがるのか、どっちだろ?…しかし、こんなに猫がいたとは…。あ、あいつ猫だったのか。知らなかった…。…いや、それより、ペテル警報を出さなきゃな。」
ポチ。城内放送のボタンを押した。「あー、俺だ。今ペテルが歩く凶器になって城中の猫を襲っている。そのうち猫以外の気に入ってる奴も襲うだろう。失神させられたくない奴は、至急守ってくれる奴の所へ逃げろ。」
モニターの1つに、今の放送を聞いて、怒っているペテルが映っていた。
「ペテルっ、てめえっ、旦那がいる女まで襲うなっ。夫達が復讐しても俺は止めねえからなっ。」
ザンは怒鳴った後、今の言葉に青ざめて妻や夫を探し始めた人達を眺め、ペテルの現在位置を伝えてやった。
「ペテルさんっ。どういうつもりなんですかっ。」
「え、フェル君…皆…。その、ね、ザン様が余りに可愛かったから、つい、ね。色んな猫ちゃん達を可愛がりたくなって…。…はは。」
数時間後。ペテルは、彼に失神させられた配偶者を介抱した沢山の人達に追い詰められていた。さすがのペテルもやばかったかなと思い始めたらしい。「撫でただけで、ザン様みたいに服を脱がすのは、我慢したんだよ…。」
「当然でしょうっ!!僕のカタエルの裸を見たら、殺すっ。もうっ、謝る気はないんですかっ。」
フェルは激昂し、殺気立っている皆を振り返った。「皆でやっちゃおっ!」
それを合図に、皆がペテルに襲いかかろうとした時。
「ちょっと待った!」
ザンの鶴の一声。「皆でぶん殴るのもいいけど、夫を弄ばれた女達はそれじゃすっきり出来ねえだろ。」
「じゃあどうするんですか?」
代表者になってしまっているフェルが皆の気持ちを代弁した。
「妖魔界には、いい物があるだろ?」
ザンがニヤニヤ笑いながら言った。数人がはっとして腰に手をやる。「女達には、俺が拷問用のとびきりのを貸してやる。扱いやすくて痛みは強いけど、そんなに皮膚を傷つけない最高の鞭をな。」
「お尻を叩くんですかぁ?」
「そう。…ペテルは殺せないんだ。行動は最低だが、能力は高いからな。それに女達に、惨殺シーンを見せるわけにはいかないだろ?ぶん殴るだけじゃ、こいつらも気が済まないだろうし。」
ザンの後ろに、被害者達が立っていた。
「ざ・ザン様ぁ…。」
ペテルが哀れな声を出す。
「でめえの責任はてめえでとれ。尻叩きで許されるだけで有り難いと思え。」
ザンは意地悪く言う。彼女もペテルに好きにされているから、この状況を楽しんでいた。
「うあーんっ、ごめんなさいっ。もうしませぇんっ。」
庭でお尻を丸出しにされ、台に括り付けられたペテルが、まだ何もされていないのに、恥も外聞もなく泣き叫ぶのを無視して、ザンは言う。
「好きなだけひっぱたいていいぞ。こいつはNO.2で誰よりも丈夫だからな。」
ザンは、ぺしぺしとペテルのお尻を叩く。物好きな見物人もいれば、怒りに燃えている者もいるし、戸惑ってる者も…。ザンはすっかり楽しんでいた。
一人ずつ進んできては、おもうさま、ペテルのお尻を打つ。ペテルは痛いのと恥ずかしいのとなんでこんなに皆が怒っているのか分からないのとで、混乱していたが、早く止めて欲しくて、思いつく限りの謝罪の言葉を叫ぶ。しかし、無情にも鞭打ちは続く。
「ごめんなさいっ。許してぇっ。」
暫く後、さすがにペテルのお尻は酷くなってきていた。見ている女性達の中には、もう許してあげたらと呟く者もいた。しかし、なかなか終わりそうになかった。
「ううっ。」
ペテルは部屋にいた。側にザンが立っている。ペテルのお尻はかなりの惨状だったが、医者や妻にも手を出したので、医者達の誰もが治療してくれなかった。
「懲りたか?」
「…男だけだったら、良かったの?」
「お前なあ…。」
ペテルは一生、直りそうにないとザンは思った。
数百年後。
「大変ですっ、ザン様っ。ペテルが牢を抜け出しましたっ。怪我人が数人いますっ。」
ザンがネスクリと交代しようと、監視室に向かっていると、切迫したネスクリの放送が入った。「東塔の6階の廊下にいますっ。至急向かって下さいっ。」
警報が鳴る。城が騒がしくなった。毒矢を受けた後のペテルは、ザン以外の全ての生き物の命を奪う殺人者なのだ。
「なんだ、うるせーな。…東塔の6階ってここの事か。ペテルって何だ?」
ザハランは呟いた。誰のことなのか、鳴り響く警報は何の為なのか。惰性で生きている彼は、要注意人物のペテルを知らなかった。ただ、売春宿の女性の香りに包まれていた。が、ふと、鈍りかけた危険感知能力が働いた。
「ここにもいた。敵一人。」
鮮やかな蝶の羽が見えた。目を大きく開けた、能面のように無表情な男がふらりと現れた。「敵は排除。」
何が起こったのか気付く前に、その蝶がザハランに襲いかかってきた。体はだいぶ鈍っていた。動けなかった。
「トゥーっ。伏せてっ。」
ターランの叫び声が聞こえ、ザハランの硬直がとける。彼は慌てて伏せた。間一髪、直前に彼の頭があった位置に、鋭い一撃が飛んできた。彼はぞくっとした。避けてなきゃ今ごろ頭が砕けていた。第2打が飛んできて、慌てて、転がる。次のはかわしきれないと思った。ザハランは、自分の命を諦めた。が、ターランが受け止めた。今は二者の彼が。
「ターラン…。」
「また増えた。壊さなきゃ。ザン様の敵。」
ペテルは呟く。まるでロボットのようだ。
「俺もトゥーもザン様の敵じゃないっ。壊されてたまるかっ。」
ターランはペテルの攻撃を受け止める。重い。数百年、殆ど牢から出ずにいた男の攻撃とは思えなかった。何を言っても無駄なのは分かっていた。ターランは必死に攻撃を受け止める。ペテルを気絶させようと思っていたが、甘かった。
「良くやったぞ、ターランっ。」
ザンが駆けて来た。
「ザン様ぁ…。無事だったんですねぇ…。こいつら、壊しちゃうから、待ってて。」
ペテルが子供のような満面の笑みを浮かべる。それなのに隙がない。
「いいっ。いいからっ。そんな雑魚、ほっとけ。…それより、俺と話そう。この頃、お前と喋っていなかったな。牢から出ちまうくらい、寂しかったんだろ?」
「ザン様ぁ、うえーん。そうなんですぅ。ザン様、死んじゃったと思ってぇ。凄く怖かったのぉ。」
ペテルが泣き出した。ザンは、優しくペテルを抱いた。
「悪かった。忙しくて。お前が心配してるのを忘れたわけじゃなかったんだが。」
「うえんっ。」
ターランに感謝の眼差しを向けると、ザンは、ペテルと歩いていく。呆然としているザハランを残して。
「なんだったんだ、なんなんだ、あいつ。」
「教えてあげるよ、あいつのこと。」
ターランは優しく微笑んだ。
?年後。
「ぶ…う・う・うー。…り。りゅ。…おばけ?…ちょーちょ?…のまえ。(訳=お前はお化け?蝶々?)」
傷だらけの男の子がペテルに話しかける。ペテルは男の子を見た。ペテルの必要な栄養素、人間の匂いがした。
「君、美味しそうだね。」
「うー、うー。ちょーちょ。ちゃべる。(訳=蝶々が喋ってる。)」
「この子の言葉、何語だろ。日本語の変化したもの…?」
おなかは空いていなかった。ペテルはこの殴られたあとだらけの不思議な子供に興味を抱いた。
「そいつの面倒を見てやってくれよ。そいつの母親に頼まれたんだ。」
ザンが言った。ペテルは彼女を見た。ザンの側に揺らめく霊体が見えた。
「死んだ人間はここに来られないのに。…ザン様に似てる。」
「こいつは特別製だからな。それより、この子供を頼むぞ。」
「この子面白そうだし、ザン様の頼みもあれば、可愛がります。」
ペテルは牢から出る。手術を終え、人を襲わなくなったので。それにこのえおは関係するが、それはまたの機会に。