少女ザン

4 M/M平手ついでにびんた

 まず最初に、ドルダーの家へ着いた。

「おっきい家−。」

 ザンは目を見張った。シーネラルの家も豪邸と言って良かったけど、こちらはさらに大きい。「え〜と、ドルダーさん?お坊ちゃまなのね。」

「ドルダーで合ってるよ。」

 プラチナブロンド。若いのにお年寄りみたいな白髪というか銀髪の彼は微笑む。「良家とか言うけど、普通の家に生まれたかったと思う。」

「どうして?」

「家庭教師と父親が…。」

 暢久は言いかけたが、ドルダーが首を振った。「本当にいい家ってのは、躾が厳しいんだってさ。」

「大学生くらいになったら、真っ赤なスポーツカーに乗ったり、女の子と遊んだり出来そうにないの?」

「漫画のどら息子じゃあるまいし。」

 シーネラルを除く三人が笑ったので、彼女は顔を赤らめた。

「お金持ちのお坊ちゃまって、そうなんだと思ってたんだもん。」

「じゃ、皆、お休み。シーネラルさん、送ってくれて有難う御座います。夕飯、ご馳走様でした。」

 シーネラルは手を上げて見せた。ドルダーが歩いて行く。彼の父親にしては若すぎる男が立っていて、彼を出迎えた。

「あの人が家庭教師だ。俺とは口もきかない嫌な奴。」

 暢久が言った。「別にドルダーだって、世が世なら貴族様って訳でもないのに。」

「ふーん。」

「器の大きい人間ばかりなんてつまらない。」

 シーネラルが言った。

「色んな人がいるから、面白いんだね。」

 ザンの言葉に、シーネラルは頷いて見せた。

 

 次はターランの家。ザンの家と一緒で、普通の一戸建てだ。息子をちゃん呼びして猫可愛がりしそうな母親が出迎えて、ザンに複雑な視線を向けた。彼女は最初何だろうと思ったが、すぐに、あの人はわたしがターランの彼女かもしれないと思ったのだと気がついた。合っているなら、複雑な気持ちも分かる気がする。女の子と付き合えるならゲイじゃない、でも、可愛いターランが女の子となんか付き合うなんて…。と、思ってそう。

 ターランも皆に挨拶して、シーネラルにお礼を言って車を降りた。母親は皆に頭を下げると、ターランの側へ寄った。愛しそうにあれこれと彼の世話を焼くその姿は、マザコンでは足りない気がした。

「ターラン自体はマザコンじゃないよ。母親の愛情が強すぎるだけ。」

 暢久が解説した。「あそこは、父親が厳しすぎて、母親が甘すぎるんだ。どっちが先なんだろ。」

 

 暢久の家へ着いた。2階建てのアパートだ。今までずーっとザンの体に触れていた暢久。今度は彼が我が侭な子供と化した。

「今日やっと告白できて、ザンも悪い気はしていないみたいだし、憧れていた柔らかい体にも触れたし、とっても気持ち良くて…。」

 シーネラルは強引に彼を車の外に連れ出すと、ズボンの上から彼のお尻を叩いた。「痛いよ、シーネラルさん。頼むから、もう少しだけ一緒にいさせて!」

「放っておけば朝まで触ってる。少し落ち着け。」

 暢久は痛みに耐えつつも、何とかザンに触ろうとしている。それを見たシーネラルが彼のズボンを下ろそうとした。が、ふと手を止めた。

「続きは俺がやる。」

 シーネラルが叩くのを止めたので、これ幸いとザンを抱き締めた暢久は、凍りついた。恐る恐る振り返ると、義父の春樹が立っていた。

「お父さん、ただいま…。」

 暢久の頬が鳴った。彼は俯いた。

「珍しい。」

 シーネラルは呟いた。

「頬ならしょっちゅうぶたれてるけど。」

 暢久が不思議そうに言ったが、シーネラルは無視して春樹を見た。

「尻まであんたがやるのか?」

「今日はそうした方が良さそうだ。」

 春樹は溜息をつき、暢久は青くなった。「よりによって、タルートリーの娘と付き合うなんて!」

「ザンは可愛くて…。お父さん、ザンと付き合ったら駄目なの?」

 春樹は暢久の腕を引く。

「付き合うのは別に構わないが、体に触りまくるのは止めろ。自制できなくなる。中学生を妊娠させる気か?」

 ザンと暢久が仰天した。ザンが後ずさりしたのを見て、暢久は慌てて言った。

「そ・そんなつもりないよ!そんなの、考えたこともなかった。」

「だったら、必要以上に触るな。」

 春樹は息子を睨むと、「こんな醜態さらして。二度としないように、たっぷりと体に教えてやる。…息子が世話になった。」

 春樹はそれだけ言うと、涙目になっている暢久を引きずっていった。

「あいつは暢久に罰を与える時、自分でやらせるんだ。」

 春樹のショッキングな言葉から立ち直ったらしいザンに、シーネラルは言った。

「それって、どういう意味…?」

「暢久自身に尻を打たせる。手で何回叩けとか、物差しでこの辺りをとか。自分でやるから、弱くなることもある。すると、場合によっては、追加打を加えて、最初からとか。」

「自分で自分のお尻を叩くの…。お父さんの言うままに…。」

「そう。でも、今日は、あいつ自ら手を下すつもりらしいな。暢久の表情からすると、自分でやるより辛い罰になりそうだ。」

 ザンは怖くなって震えた。男の子だから、きっと自分よりうんと痛い思いをするんだろうなあと思えて。トゥーリナも鞭だなんて言われてた。

 

 春樹に引っ張られた暢久が玄関へ入ると、義母が待っていた。こっちの春樹は離婚していないのである。

「お帰りなさい。遅かったのね。」

「トゥーリナが我が侭言って、シーネラルさんがお仕置きして…。」

「お前もじゃないか。」

 春樹が冷たく言った。

「あんたもあの人に叩かれたの?」

 母の言葉に、暢久は赤くなった。母は、しょうのない子と言って、軽く彼の頭を叩いた。母は優しい。でも。

 春樹は暢久を押しのけて中へ入ると、床に座り、暢久に手招きした。

「さっさと来い、馬鹿息子。あんな恥さらしな真似をしたのを後悔させてやるからな。」

「はい…。」

 シーネラルが予想した通りに、セルフスパの方がマシな目に合わされるので、暢久は青ざめながら父の側へ立った。ベルトを外し、ズボンと下着を下ろした。恥ずかしいけれど、照れている場合じゃないので、急いで父の膝に横たわる。父からぶたれるのも久しぶりだけど、膝の上なんて数年ぶりだ。余計に恥ずかしい気がしてきた。

「平手が150に、しゃもじ30に、コード20。」

 恥ずかしい気持ちが消え失せた。

「わ・分かりました。お願いします。」

 お尻が痣だらけになりそうだ…。平手がお尻に当たる。「痛っ。」

 こんなに痛かったっけ…?どうやら春樹は見た目よりかなり怒っているらしい。暢久は既に泣きたくなってきていた。

「…よし、150。次、しゃもじ。」

 平手も痛いけれど、やっぱり痛さが違う。暢久は打たれる度にもがいたり、お尻を動かして逃れようとしたが、春樹に抱き寄せられて元に戻され、逃げようとした罰なのか、とても痛い一撃が飛んできたりした。

 平手としゃもじだけでもとてもお尻が痛かった。二つは膝の上で受けたが、電気のコードは長いので、四つん這いで受ける。束ねてあるが、鋭い痛みをもたらして辛い。ただ、これは自分でお尻に当てられないので、父が行う。いつもなら、セルフスパの後、仕上げとして2回ほど打たれる。それでも怖いのに、20回なんて恐ろしい…。暢久は酷く怯えていた。

「いくぞ。」

 父の声が死刑宣告みたいに聞こえた。

 

 暢久が父からコードを頂戴している頃、ザンは家の前に立った。

「お前を最後にして正解だった。」

 確かに。

「わたしの家の前で、暢久さんが騒いだら、大変だものね。」

「ああ。」

「1つ、聞きたいことがあるの。」

 シーネラルはザンを見た。彼女は手を組み合わせ、少しだけ震えていた。それが質問に対してのものなのか、恐ろしい両親のもとに帰るからなのか、シーネラルには分からなかった。

「俺の姿か?」

「そう。」

「俺は人間じゃない。妖怪って種類の生き物。それだけだ。」

「外見以外は人間とどう違うの?」

「寿命と耐性。後は生活する環境による差で、それなら人間同士でも違うな。」

「そうだね。…送ってくれて有難う御座いました。」

 車から降りたザンがぺこっと頭を下げた。シーネラルは自分も車を降りながら言う。

「俺も行く。色々説明しないと、お前は酷い目に合わされる。」

「わたし、虐待はされてないよ。」

「それなら怯えない。」

 ザンは何も言えなくなった。

 

「ただいま帰りました。遅くなってご免なさい。」

 玄関には、タルートリーが立っていた。彼は何も言わずにザンの腕を引っ張ろうとしたが、シーネラルが間に入って止めた。

「何者だ。」

「遅くなった原因の1つ。」

「何を言っておるのだ?」

 シーネラルの存在に今気づいたとでも言いたげな顔で、タルートリーは彼を見た。

「ザンが遅くなったのは、俺にも原因があると言った。」

 これを聞くと、タルートリーの顔が怒りで赤くなった。

「そなたは、我が娘に何をしたのだ!?」

「肩に担ぎ上げて、車に乗せて、家で飯を食わせた。」

 簡潔すぎる説明に、タルートリーは目を白黒させた。

「あの、もう少し普通に話せないの?」

 なんと言っていいか困っている父を見たザンは、口を挟んだ。「それじゃ、お父さんには分からないわ。」

 シーネラルは深い溜息をついた。

「どうしてこう面倒なんだ…。」

「妖怪ならそれで通じるの?」

「無理。」

「…。…じゃあ、もうちょっと努力してくれると嬉しいんだけど…。」

 アトルが家の奥から出てきた。話を聞いていたらしく、シーネラルに微笑みかけると、タルートリーを見た。

「とりあえず上がって頂いては…。」

「そうした方が良さそうだ…。」

 タルートリーは疲れたように息を吐いた。

 

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