少女ザン番外3 シィーとクーイ

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 妖魔界では、村人の畑仕事や、お食事処などの例外を除き、仕事はお昼で終わる。

 鼠のクーイは工場での仕事を終えて、家で昼食の支度をしていた。生きるのに疲れ、死を願っている彼だったが、それでもお腹は空く。餓死なんて、辛く積極的な死に方をする程勇気のない彼は、食欲の命ずるまま、手を動かす。

 やがて、台所にいい匂いが広がり始める。食器棚に手を伸ばそうとした彼の耳に、戸を叩く音が聞こえてきた。

「腹減ってんのに…。」

 『隣の奥さんが差し入れでも持ってきたのかなあ…。それなら、歓迎だけど。ああいういい女がそこらに転がっていたら、人生は一変するだろうな。この空虚さはなくなり、何もない日々を他の人達の様に続けていけるかもしれない。』とりとめのないことを考えている内に、ノックが少し乱暴になった。

「はい、はい。」

 戸を開けた。途端に漂ってくる血の匂い。目の前に、所々血で汚れた猫が立っていた。『盗賊?』恐怖よりも安堵感が先立ち、自分の壊れ方に、今更ながら笑いたくなった。殺されるかもしれないという思いが、死への恐怖ではなく、やっと死ねるという安堵感に結びつくなんて。

 雄猫は、そんなクーイの様子には気付かず、彼の体を軽く押し、中に入ってきた。雄猫の瞳に欲望の火が燃え上がるのをクーイは見た。勿論、彼は目の前の餌に喜んでいる狩人の瞳に思えた。戸を開けてもらったら、出て来たのは猫の好物の鼠。そうじゃないか?他に何を想像するというのか…?

 

 お尻の奥に痛みがある。起きられないクーイを残して、猫は彼の昼食を平らげていた。『食べるなら、俺を食べればいいじゃないか。食欲と性欲を一気に満たせる。なあ?』相手は乱暴だったので、体中が痛む。一番痛いのは、そこに何かを入れられるなんて思ってもみなかった場所。血が出ているかもしれない。慣らすことすらなかったんだから。

「食われるとは思ったけど、こっちだなんて…。」

 何が可笑しいのか、自分でも分からないまま笑っていると、

「五月蝿い。」

 言葉とともに、平手がお尻に飛んできた。うつ伏せに寝かされ、左右のお尻を交互に打たれる。突然の理不尽なお仕置きに、クーイは声を立てないでいるつもりだったが、とても痛い。10発ほど我慢したが、後は自然に声が洩れてきた。

「痛いっ、痛い。」

 工場の仕事に慣れていなかった新人の頃以来、お尻を叩かれることなんてなかった。久しぶりだとこうも痛いのか。相手の力も強いのだろうけど。暴れるだけで我慢していたが、とうとう痛さに耐え切れなくなって、クーイは屈した。「静かにするから…。」

 やっと手が止まった。猫は何事もなかったような顔をして、食事に戻る。それを見ていたら、なくなった筈の食欲が復活して、クーイのお腹が音を立てた。

「…まあ、当然か。」

 猫はぼそっと呟くと、冷蔵庫に向かってごそごそやり始めた。少しして、いい香りがクーイの鼻をくすぐった。食欲が耐えられないほどになってきた。

「味は保障しない。」

 猫の言葉は嘘ではなかった。でも、腹が空けば、毒だって食える。クーイはそう思いながら、がつがつ食べた。猫は当に食べ終わって、クーイの体に触っている。

「…?」

 余裕が出来たので、何をしてるのかと思って猫の行動を見てみた。あの時に出来た傷を癒しているらしい。『律儀な奴。』クーイは残りを腹に詰め込む方に気持ちを向けた。

 

 食べ終わってぼんやりしてると、猫に尻尾を引っ張られた。

「風呂。」

 場所を聞いているらしいと思ったので、指差した。猫は服を脱いだ。クーイの服は、犯された時に猫が投げ捨てたけど、猫自身は、着衣のままだった。それが好みなのか、ただ単に切羽詰っていたのかどうかは知らない。猫の体は、鍛え上げられているように見えた。筋肉もりもりのムキムキマンではないけれど、無駄のない体に思える。ということは、体についている血は、やはり動物のものではないのだろう。相手が盗賊か普通の旅人かは知らないが、この猫は殺しをしてきたのだ。

「タオルは?」

 全裸になった猫が言う。棚を指差すと、猫はタオルを2枚出してきて、お風呂場の前にぽいっと投げ捨てた。「洗濯機。」

 『この猫は単語しか話せないのか?』クーイが、知的レベルが低そうには見えないけどなどと呟いていると、またお尻を叩かれた。

「ないっ。」

 痛みで叫ぶように言うと、猫が呆れ顔をする。

「町の中なのに、洗濯機がないのか。」

「一人暮らしに、そんな贅沢品いらない。」

 一人暮らしなら、金があるだろとか何とか呟きながら、猫は自分の服と、クーイの服を拾い集めて、一つに纏めた。それから、クーイの側に寄って来た。

「な・なんだよっ!?洗濯機がないからって、叩く気か?」

 クーイの言葉に、猫は面白そうな顔をし、

「それ、いいな。いいことを思いつく。」

 彼の体に手を伸ばしてきた。ふざけるなあっとクーイは暴れた。「冗談だ。」

 猫はいかにも楽しそうに笑い出した。クーイはちっとも面白くないっていうのに。

 

 自分を洗い終えた猫がクーイの体を洗っている。自分でやると言ったら、またお尻を叩かれた。

「黙って言う通りになってろ。」

 猫は、クーイより上に居たいらしい。『背なら、俺の方が高いのに。』猫は高い所にいる方が強いから、クーイはそんなことを考えてみた。猫は無言で彼の髪に取り掛かる。

 

 クーイは猫にお姫様抱っこでお風呂から連れ出され、ベッドに寝かされた。彼は疲れ果てていたので、そのまま目を閉じた。猫に言いたいことや聞きたいことはあったけれど、疲れやお腹が一杯なのもあって、眠くて仕方なかった。彼の意識が遠のいていく…。

 

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