真鞠子の家族

6 お金持ちの大家族

 遅坂家の朝は、タルートリーとザンが子供達を起こすことから始まる。子供達6人を大きい子と小さい子のグループに分けて、2人で起こすのだ。今日はタルートリーが大きい子達、ザンが小さい子達を起こす番だ。一番下の麻深(まみ)だけは、毎日千里が起こす。

 上から、昇は高2で17歳、真鞠子は中3で15歳、瑠美絵は中1で12歳、武夫は小4で10歳、双子の兄の聡坩(さとる)、弟の磨茂流(まもる)は小1で6歳、麻深は幼稚園で3歳。温かい家庭を望むタルートリーと、大家族を夢見るザンが頑張った結果である。

 起床時間は7時で、ザン達が部屋を訪れた時点で子供達が起きていないと、お仕置きになる。お仕置きは、お尻と手の甲だけを打つと決めていた。タルートリーは、息子にはびんたもと言ったが、ザンに大反対された。

「昇っ、起きておるか?」

 タルートリーは昇の部屋を覗く。昇には、彼が10歳の時に、実の親子ではないと告げていた。中学二年になった頃から、反抗期なのかその事がショックだったのかは謎だが、二人の関係は余り良くない。

「おはよう…御座います。」

 昇が面倒そうに答える。制服に着替えている最中だった。

「おはよう。」

 タルートリーは、昇の側へ行き、抵抗しかける息子の頬に、おはようのキスをした。昇は、極度の片仮名嫌いのくせに、西洋人のような行動をする父に、嫌悪感を抱いている。しかし、お返しをしないと、いつまでも部屋から出て行ってくれないので、仕方なく父の頬にキスを返す。

 タルートリーは満足げな顔をして、真鞠子の部屋へ向かう。

「真鞠子、起きなさい。」

 真鞠子はまだ布団に包まっていた。お仕置き決定である。

 タルートリーは実の子ではない昇よりも、真鞠子の方が愛せるかどうか不安だった。娘を欲しがっていた千里がどれほど真鞠子を可愛がるかと考えると…。なんせ、千里がザンと仲良くしている所を見ただけで嫉妬しているのだから…。でも、心配は杞憂で終わった。タルートリーは、松坂の名前を与えた真鞠子を、まだオムツをしている頃から、男の子と仲良くしている姿を見ただけで男の子に腹が立つくらい、愛していた。

「もうちょっと…。」

「こらっ、起きぬか!」

 ぴしゃっ。布団が捲くられ、真鞠子のお尻が鳴る。彼女は目を覚まし、飛び起きた。当たりを見回し、腕組みをしている怖い顔の父の存在に気付く。

「ごめんなさい!」

「昨日は何時に寝たのだ?」

「ちゃんと9時に布団に入りました。」

「だったらどうして起きられぬのだ。」

「なかなか寝られなくて…。」

「そうか。しかし、どんな理由があっても、寝坊の罪は償わねばならぬ。」

 タルートリーは、真鞠子の体を抱えて、膝の上に乗せた。彼は、娘のパジャマのズボンを膝の下まで下ろし、パンツは膝まで下ろす。真鞠子は覚悟を決めて、手を握り締め、目を瞑る。

 ぱんっ、ぱんっ。寝坊の場合、数は20回だ。タルートリーは、数を決めて叩く。大抵の場合、あらかじめ数は決められていて、高校生の昇でも最高は100叩きだ。そのかわり、叩く力が強くなったり、竹刀が加わる。

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。タルートリーは、一定の速度で娘のお尻を打つ。

「明日はきちんと起きますっ。ごめんなさいっ。」

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ…。お仕置きが終わる。タルートリーは、真鞠子を膝に座らせ、彼女が泣き止むまで、娘の背中を撫でながら抱いていた。真鞠子が泣き止むと、やっと朝の挨拶になる。

「ちゅ。おはよう、真鞠子。」

「おはよう御座います、お父様…。ちゅ。」

 ただいまとお帰りのキスの時も、こんな風にする。今度は、瑠美絵の部屋だ。

 

「瑠美絵っ、起きておるか?」

「起きてるよ、おはよう御座います、お父さん。」

 瑠美絵は父の側へ行き、背伸びをする。タルートリーは190cmの長身の為、そうしないとおはようのキスが出来ない。

「おはよう、瑠美絵。」

 2人はキスをし合い、タルートリーは満足げに部屋へ出て行く。その後、瑠美絵が顔をしかめながら、口を拭ったなんて知らないまま。

 朝の儀式、タルートリー編終了。

 

「えおちゃあん。あっさですっよぉ♪おっきしなさいねー。」

 ザンは、武夫の部屋に入って行く。

「えお、おっきちてうよ。(訳=起きてるよ。)おあよーごじゃいまちゅう、お母ちゃん。」

「あい、おあよごじゃいまちゅう。」

「あねちないでー。(訳=真似しないでー。)」

「らっれ、えおのろろば、たのちいらら、あねちたうなるろ。(訳=だって、武夫の言葉、楽しいから、真似したくなるの。)」

「らめ!」

 えおが本気で怒っているのに気づいたザンは、ため息をつくと言う

「分かったよ。その言葉は、あんた専用って言いたいんだよね。」

「ちぇ…よ?」

「専用のこと?…うーん、えっとね、えおの言葉は、えおだけの物って言ったの。」

「ちょう。」

「ま、えおが起きているのなら、わたしは、さととまーもを起こしに行くよ。」

「にってらっちゃい。」

「行って来ます。…あんたは服を着て、ご飯を食べるとこで座ってなさいね。」

「ちょくたう。」

「食卓のことかい?…あたしさあ、時々難しい言葉を使うから、あんたってば本当は賢いのに隠してるんじゃないかって思うんだよ。」

「えお、ちららい。あかららい。(訳=知らない。分からない。)」

「わたしは絶対そうだと思う。…あ、ちゅうを忘れたよ、えお。」

「ちょうれちゅね。」

 ちゅっ、ちゅっ。おはようのキスが済み、ザンは武夫の部屋を出て行く。次は聡坩だ。

 

「さと、起きてるかい?」

 ザンは、双子の兄、聡坩の部屋の戸を開ける。聡坩は、武志から長男として特別扱いされていて、特権意識を持った可愛くない子供である。武夫を馬鹿にしていていつも暴力を振るう。ザンはそんな聡坩をあんまり愛せないでいる。

「起きてるに決まってるでしょ。」

 生意気な口調で答えた聡坩は、ザンに、思い切り両頬を抓られた。「いだいっ。いらいっ。」

「あんたねぇ、親を何だと思っているのさっ。え、えっ?」

 ザンは両手を使って聡坩の両頬を引っ張った後、聡坩を膝に乗せながら言った。「本当なら、あたしの前でそんな口を聞く奴は、ボッコボコに叩きのめしてやるとこだけど、息子だから、25発で許してやる。」

「そんなのお仕置きじゃないっ。ただの八つ当たりじゃないかっ。」

「口のききようも知らない奴が、偉そうに言うなっ!」

 ぱしいっ、ぱしいっ…。制服のズボンとパンツを引き下ろし、裸のお尻に平手を叩きつけ始める。タルートリーと違って、感情的にお仕置きしてしまうザンであった。

「絶対ごめんなさいなんか言わないからなっ。お祖父様に言いつけてやるっ。お母さんなんか、痣になるまでぶたれるんだ。」

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ…。ザンは答えずに、聡坩のお尻を叩き続けた。ただ、叩き方は少し弱くなった。ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。聡坩が暴れ始める。

「ほらほら、ごめんなさいが言えないと、ルトーちゃんみたいに、決めた数を過ぎてもいつまでも叩くよっ。」

「うるさいっ。絶対に言うもんかっ。」

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。聡坩の声は既に泣き声だったが、本当に暫く謝りそうにない。ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。叩きつつも止めようかと思い始めたザンだったが、タルートリーなら意地でも止めずに叩き続ける筈だと思うと、ここで止めるのは良くないかもと思えてきた。『こんな性格のままじゃ絶対まともな大人になれないよ。ここは酷くてもきっちりお仕置きすべきかもね。』ぱあんっ、ぱあんっ。心が決まると、叩き方が強くなった。

「痛い、痛い…。」

 ぱあんっ、ぱあんっ。聡坩は謝ろうとしない。あっという間に25回は済んでしまった。ザンはまた迷い始めた。ぱんっ、ぱんっ。また叩き方が弱くなった。『意地で続けていいもんだろうか…今回の場合…?』ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。迷いつつも叩く手は止めなかった。

「うーん…。」

 ぱんっ、ぱんっ…。止めようかなと思った時。

「ごめんなさい…。」

 聡坩がとうとう我慢出来ずに謝った。ザンはほっとした。そして、ルトーちゃんに怒られるかなと思った。聡坩を抱き起こして、背中を撫でた。ぎゅっと抱く。

「遅坂武志が何を言おうが、あんたはあんたの生き方をするの。あいつの言葉に惑わされないで。そうじゃないと、あんたは誰からも嫌われるような大人になっちゃうよ。…ちょっと叩き過ぎちゃったね、ごめん…。さとの言うように、ちょっと奴当たりだった。ただ、あんな口のきき方は良くないよ。生意気でいてもいいことないよ。わたしも天才のせいで大人を馬鹿にしてて、嫌な目に一杯合ったからね。」

 聡坩は涙に濡れた目でザンの顔を見た。ザンは息子の頭をごしごしこする様に撫でた。「おはようのちゅぅがまだだったね。…ちゅ。おはよう、さと。」

「おはよう御座います、お母さん。ちゅ。」

 ザンはもう一度ぎゅっと抱き締めると、聡坩の部屋を出た。次は、双子の弟、磨茂流だ。

 

「まーも、起きてるぅ?」

 ベッドの上に、パジャマ姿の磨茂流が座っている。ザンを見るとほっとしたような顔をした。

「お母さん、おはよう御座います。」

「おはよう、まーも。」

 ちゅっ、ちゅっ。挨拶が済んだ後、ザンは磨茂流の頭を撫でた。「起きてるなら、制服着なよ。」

「あのね…。」

 磨茂流が言いかけると、ザンは、

「ちょっとまった。…まーも、あんたは、わたしの顔を見てほっとしたね?しかも、ちゅーする時にも布団が捲れない様に気をつけた。」

 と言いつつ、額に手を当てた。もう分かっているのに、探偵ごっこを始めた。磨茂流は、面白いのと怒られるのが怖いのとないまぜになった表情をする。「そこから導き出される結論とは…?そう、おねしょだ!まーも“くん”、君はおねしょをし、挨拶に来たのが絶対にお尻をぶつに決まっている怖いお父さんではなく、気づかずにいてくれそうなお母さんだったと分かったので、隠そうと決めた。しかも言わなかった罪とおねしょの罪を暴かれるのを恐れて、おはようの中がすんだ後に、こっそり布団を魔法で乾かそうとした。…違うかね?」

「…はい、お母さん。合ってる…でも、魔法で乾かそうって思わなかった。…ひっく。」

 磨茂流はしょんぼりした。両目から涙が零れる。どんなにお尻を叩かれるだろうと怖くなった。

「隠しごとをしようとしたから30回。いけないことだから少し痛くするよ。おねしょについては、お父さんを叩きのめさなきゃね。」

「なんで?」

「あんたはまだ6歳。おしっこを一晩我慢出来る筋肉が出来るのは、平均7〜8歳。8歳過ぎたあたりから、おねしょの治療をする位なんだから。つ・ま・り!ルトーちゃんがあんたを叩くのは大間違い。お分かり?」

「はい。」

 磨茂流が返事をすると、ザンはベッドに座り、磨茂流を床に立たせた。ズボンはまだ濡れていたので、ザンはズボンとパンツを脱がせると、濡れタオルで下半身を綺麗に拭った。

「濡れているお尻を叩くと痛みが増すんだって。だから少し強く叩くのは止めにするよ。…じゃ、いくよ。」

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。磨茂流は拳を作り、歯を食いしばって我慢する。ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。ザンは同じ所を続けて打たないように気をつける。まだ小さなお尻なので、そう広くないけど。

「うっ、んっ、んっ。…ごめんなさいっ。んっ、痛いっ。」

 ぱんっ、ぱんっ。足をぱたぱたさせ始める磨茂流。『タルートリーが余計な事するから、まーもは怯えて隠そうとしたんだよね。それなのに30回は多かったかなあ…。でも、隠し癖がついたら困るし…。隠しごとしたら痛い目に合うってのを教えた方がいいよねえ…。…今日のあたし、悩んでばっかり。』

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。軽く染まり始めるまーものお尻をザンは悩みつつも叩き続ける。ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。そうしているうちに、30回は終わりに近づく。

「最後の5回は、強くするよ。もう絶対まーもが隠したりしないように。」

 ぱしいっ、ぱしいっ、ぱしいっ、ぱしいっ。磨茂流が声をあげる。「これでお終い。」

 バチーンッ。お仕置きが終わった。ザンは、泣き叫ぶ磨茂流を起こし、強く抱くと頭から背中を何度も撫でた。

「ごめんなさいっ。ごめんなさいっ。」

「よしよし、痛かったねえ…。うんうん、良く我慢したね。…もうしないもんね?」

「しないっ、しないですっ。」

「いい子だね。ちゅ。」

 息子の頬は涙でしょっぱかった。ザンは磨茂流を苦しくない程度に力いっぱい抱いた。

 朝の儀式、ザン編終了。

 

 朝の儀式、千里編。

「まーみちゃん、可愛いわたしの麻深ちゃん。」

 千里は、麻深を起こした。幼い麻深が可愛くて仕方がない千里がザンに頼み、千里は麻深を毎日起こす役目を持っている。真鞠子や瑠美絵も小さい頃は、とても可愛がっていた。上の二人が大きくなって嫌いになった訳ではないが、幼い方が好きなのである。

 千里は、武志との間に“まみ”という娘をもうける予定だったのだが、体が心を裏切った。千里は、妊娠しにくい体だったのだ。タルートリーが生まれたのさえ運が良かった。2回目の奇跡を目指して、恥ずかしいのとお尻を叩かれる恐怖を克服してまで、武志を何度も誘ったのに、結果は無残なものだった。

 夢にまで見た女の子を得られなかった千里は、少しだけおかしくなった。武志には構ってもらえないし、目の前にいるのは男の子だった。タルートリーが千里の前にいる時、女の子の格好をさせた。彼女は自分のしていることが異常だと気づいていたので、なるべく息子に会わないですむように海外を飛び回った。タルートリー自身は、何でもいいから側にいて欲しいと願っていたのだが。

「お祖母ちゃま、おはよーございまあす。」

 麻深は千里へにっこり微笑んだ。千里は、麻深をぎゅっと抱くと、何度もおはようのキスをした。「お祖母ちゃま、くすぐったい。」

 麻深はくすくす笑う。麻深に着替えをさせながら、千里は麻深とふざけ合う。娘がいたら、こんな風に過ごす筈だったのだ。千里は、いつまでも麻深と二人だけで過ごしていたくなる。しかし、タルートリーが迎えに来た。

「母上、もう食事の時間ですよ。いつまでも遊んでいては、規則正しい生活が出来ません。」

「トリーったら、どうしてそう固いの?日曜日だって、子供達を自由にさせないんだから。」

「わたしの教育方針に口を出さないで下さい。」

 タルートリーは冷たく言った。自分の時は家にいなくてめったに構ってくれなかったのに、孫娘達は甘やかし放題なんて許せない。

「トリーったら、小さい時はあんなに可愛かったのに…。わたしにそんな口をきくなんていけない子ね。大人になったら、わたしの言うことをきかなくてもいいと思ってるの?悪い子は、いくつになってもうんとお尻をぶたれるのよ。」

「わたしを折檻したいなら、後にして下さい。…麻深、行くぞ。皆お前を待っているのだ。」

 母と話していると、無駄に時間が過ぎてしまう。そう判断したタルートリーは、麻深を歩かせた。手を引いてやりたいところだが、タルートリーは背が高いので無理だ。麻深は、千里を振り返りながら、父の後をちょこちょこ歩いていく。

「ばいばい。」

 麻深は千里に手を振った。千里は手を振り返した。

「麻深、急ぐと言っておるのが分からぬのか?」

 タルートリーは、厳しく言うと、麻深を抱えた。お尻を軽く叩くと、降ろして歩かせた。おっかないお父さんに怒られて、麻深は泣きそうになりながら急いだ。

 

いつも誰がが叩かれるなんてことはないが、朝はこうして始まるのだった。

 

「麻深ちゃん、遅かったねえ。また千里ママと遊んでたんでしょ。お兄ちゃん達は、学校があるから、あんまりゆっくりしてちゃ駄目だよ。」

 タルートリーの後に麻深が入ってくると、ザンは、微笑みながら言った。

「はい、お母さん、ごめんなさい。」

「別に謝るほどじゃないけどね。」

「謝って当然。」

 聡坩が言った。「遅刻したら、先生にもお父様にも叩かれるのに。」

 学校に遅刻したら、お尻を叩くとタルートリーが決めた。

「そうそう、麻深は幼稚園だから遅いけど、わたし達は早いんだから。」

 瑠美絵も言った。

「まだ時間に余裕があるわ。麻深だけが悪いんじゃないから、二人ともそんな言い方しちゃ駄目でしょ。」

 真鞠子は、庇った。

「どうでもいいけど早くしてくれよ。飯がさめちまうだろ。」

 昇が文句を言った。

「のにいちゃん、にじわるらめよ。(訳=お兄ちゃん、意地悪を言ったら駄目だよ。)」

 武夫が昇に言った。

「意地悪言ったつもりはねえけど。えおだって、冷たいご飯を食べたくないだろ?」

「りゅ。ちょーね。れも…、あちゃちうして。(訳=そうだね。でも…、優しくして。)」

「分かったよ。」

「もう頂きますだよ。」

 磨茂流が小声で二人に言った。皆が喋っている間に、タルートリーも麻深も席についていた。二人は前を向いた。

「頂きます。」

 タルートリーが言うと、他の皆も言った。

「頂きますっ。」

 声が小さいとやり直しになるので、皆大きな声で言う。

「よし。」

 タルートリーが言ったので、皆はご飯を食べ始めた。

 

「ザン、まだ子供が欲しいか?」

「うん。どっかで22人生んだっていう人の話を聞いたし。よく言うじゃん、野球チームやサッカーチームが作れるくらいって。スポーツは別に好きじゃないけど、子供は多いければ、多い方がいいな。」

「そうだの。うちはテレビでやっている貧乏人達とは違い、子供達に貧しい思いをさせないしのう。」

「あんた、王様かなんかのつもり?見下す発言は、止めるべきだね。」

「しかし…、わたしはあれは好かぬ。養うだけの財力もないのに、無計画にするから、子供がこの飽食の世に、飢えているではないか。」

「わたしもそう思うけどさ、好きでやってんだからいいじゃん。子供が多い分、一人だけ甘やかされるたりしないから、いい子に育つかもしれないじゃん。生活がきつい分、我慢も覚えるし。」

「それでは、わたし達の子供達は、うまく育たぬと言いたいのか?」

「あんたががっちりしめてるから大丈夫じゃない?ま、厳しすぎる親の子は、かえって悪くなる傾向にあるけど。」

「そこはお前がいるから…。わたしがやり過ぎれば、お前が止めてくれる。」

「そうだね。…あ、そういえばさあ、今ので思い出したけど、あんたまーもがおねしょした時、お尻叩いたでしょ?」

「うむ…。」

 タルートリーはしまったという顔をした。この会話が終わった後の自分の姿が脳裏に浮かんだ。

「自分が小さい時、遅坂が厳しすぎて一時期毎日おねしょしてたって言ってなかったっけ?」

「う・うむ。」

 タルートリーは、焦り始めた。予感が当たりそうだ。

「その時、遅坂にどんなに謝っても、水を飲むのを制限したりと努力したって言っても、物差しや竹刀で、こっぴどくお尻を叩かれて辛かったとも言ってたよね?自然現象で、自分にはどうしようもないのに、父上が理解してくれなくて…と。」

「そうだったの。」

 タルートリーは、覚悟を決めた。

「それなのに!そ・れ・な・の・に、まーもちゃんが怯えるほど、厳しくおねしょをした事を怒ったんだ?お尻も叩いて。」

「その…、つまり…だ。わたしは…自分の経験をその時に忘れて…、それで…。」

 タルートリーは、しどろもどろになった。子供達は、怖い父のこういう姿は見られないだろう。ザンがにじりと寄って来る。タルートリーは汗が流れるのを感じた。

 

 タルートリーは、亭主関白だと言う。ザンは、かかあ天下だと言う。子供達は、平等だと言う。誰が正しいかは分からないが、皆仲良くやっている。

 

 タルートリーは、痣だらけの顔で会社に向かう。帰ったら、磨茂流に謝る。親は子供に謝るのも大事だと、ザンと話し合ったからだ。子育てについて二人の考えが合わない場合、時にはザンの性格のせいで拳が出るが、納得するまで話し合って決める。二人はそうやって決めてきた。それは、真鞠子達にも受け継がれる…。

 

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