遊園地とふわふわ君

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「あれは…?」
 神父は、村外れに突然現れた自動車を見つめた。そこへ、ラークと元・偉い人が走って来た。後ろに好奇心一杯の子供達と、村人達がついて来ている。
「神父、無事かっ!?」
「わたしも畑も何ともないです!」
 元・偉い人の問いに、神父は答えた。元・偉い人がほっとした表情を浮かべたので、神父は少し嬉しくなった。「わたしを心配して下さって、有難う御座います。トゥーリナ様。」
 途端に元・偉い人が不機嫌な表情になった。
「様はいらねーって、いつも言ってるだろ。」
「あ、ごめんなさい。そうでしたね。」
「そういう偉そうな言い方をするから、誰もあんたと親しくしてくれないんだ。」
 追いついたラークが口を挟んだ。元・偉い人はむくれた。
「そんなこと言われたって…。口調がそんなに大事かよ。」
「そんなことより、神父様、あれは何でしょうね?」
「んー…。ラークさん、行ってみましょうか。」
「そうですね。」
「そんなことって…。ラーク、お前なあ、俺にとっては重要な…。」
 ないがしろにされて元・偉い人は怒り出したが、ラークと神父はあえて無視すると、突如現れた奇妙な物体に向かって歩き出した。

 最初の驚きが消え去った後、車の外に出た親子4人は、見慣れない景色に戸惑いつつも、澄んだ空気と綺麗な風景に心を奪われかけていた。
「こんな綺麗なところ、TVでしか見たことない…。」
「草原って言うんだよね、こういう所。」
 少年はにっこり微笑んだ。「日本にもこんなところ、あるんだね。」
「あっちは森だよな?すっげー、田舎ってこんな感じなんだろな!」
 少年達の祖父母は健在だけれど、どちらもこんな山奥みたいな田舎には暮らしていないので、目新しくて、弟も興奮していた。
 子供達三人は純粋に感動していたが、1人父だけは不安げに辺りを見ていた。
「一体どうして…。」
 高速道路を走っていたのは間違いない。景色にあまり変化がなかったので、子供達は眠っているか、眠りかけていた。早起きも苦にならず、眠気もなかった彼は黙々と、世界一の観覧車のあるあの遊園地に向かって、車を進めていたのだ。
 それなのに…。地震かと思う揺れがあって、少し気が遠くなるような感覚があった後、気がついたらこんな日本とは思えないような場所に出ていた。自分達は漫画や小説に出てくる、神隠しにあってしまったのだろうか…。

「あれは自動車だ。この世界の物と違って、ガソリンとかいう餌で動くんだ。」
 機嫌を直した元・偉い人は、ラークと神父に説明していた。
「ってことは、あれは人間が作ったものか。」
「じゃあ、あそこに居る人たちは人間なんですね。」
 彼らは、元・偉い人を置いて奇妙な物体の側へ近づいていったものの、中から人が出てきたので、吃驚して戻ってきていた。この世界以外の世界とも交流のあった元・偉い人なら何か知っているだろうと聞き出そうとしたけれど、彼は、置いていかれたのを怒って口を利いてくれなかった。二人は謝って、何とか教えて貰ったのだった。
「神父、お前なあ、俺に確認しなくたって、人間の匂いがぷんぷんしてるじゃないか。」
 元・偉い人が馬鹿にしたように言う。
「まあ、そうなんですけどね。でも、あんな物から出てきたら、もしかしたら違うかもしれないって気になるんですよ。」
「まー、そう言われればそうかって気になるな。」
 神父の言葉に頷いている元・偉い人へ、ラークが言う。
「なあ、あいつ等、ここへ何しに来たんだろう?」
「さっきの感じからすると、空間は人為的に歪められたんじゃない。だから、あいつ等は来たくてここへ来たわけじゃなく、穴に飲み込まれたんだ。」
「あの機械を使ったんじゃないのか?」
「あれは走るしか脳がないんだ。こっちの世界の貴族どもの玩具と一緒さ。」
 ラークは自動車とやらを眺めた。あんな物体に走る力しかないなんて彼には思えなかった。人間は戦争が好きだし、地球は狭いから住む所を求めて、こちらの世界に進出してくる気でやってきたのかもしれない。あれは武器に違いない。
「俺らも、何か武器を持ってきた方が…。」
「ラークさん、何を言っているんですか!?」
 ラークの呟きを聞きつけた神父が、仰天した。「あの人達に、攻撃の意思は感じられませんよ。そもそも、まだわたしたちの存在にすら、感づいていません。」
「いや、神父。違う。」
「えっ、トゥーリナ様…こほん、さんまで何を言うんですか?」
「やっぱり、あんたもそう思うか?あいつらがこの村を襲う前に、こっちから仕掛けた方が…。」
 ラークは、勢い込んだ。ケルラは絶対に俺が守ってみせる。
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