シーネラルのお仕事 その後

武夫の彼女

 シーネラルは人間界へ来た。武夫が遊びに来て欲しいと言い出したからだ。トゥーリナは忙しそうだし、リトゥナは一人では人間界へ来られないしで、彼は寂しいらしい。
「待たせたな。」
「りゅ。ちぃー、にてるれた。あいがとぉー(訳=来てくれた。有難う)。」
 武夫に飛びつかれた。仲の良かったペテルはもういないし、父親は昼間いないので、よっぽど寂しかったのだろうと、シーネラルは思ったのだが…。

「初めまして。あなたがシーネラルさんなんですね。猫って聞いていたから、もっと猫っぽい姿を想像していたんですけど…。…あ、わたしは咲坂明輝子(さきさか あきこ)」と言います。」
 武夫の部屋へ入ったら、女の子に挨拶された。
「えお、この子は?」
「わたしは武夫君の彼女です!」
 女の子は…いや、明輝子は物凄く自慢げに言った。
 『同世代の子ならともかく、俺に自慢してどうするんだ…。変な子供だな…。』
 シーネラルは呆れつつも、にっこりと微笑んで見せた。横を見ると武夫も笑っていた。彼はこの少女をシーネラルに見せたかったらしい。
「一人で寂しいのかと思ったが、幸せそうで何よりだ。」
「ちょう。…れも、ちぃーもにてるれるとうれちぃよ(訳=そう。…でも、シィーも来てくれると嬉しいよ)。」
「そうか…。そうだな。俺はお前と友達だからな。」
「りゅ。」
 武夫はにっこり微笑んだ。

「しかし…。」
 シーネラルは武夫の彼女を見た。よく見ると頭の良さそうなお嬢さんで、正直武夫とはつりあわない気がした。かといって、まだ子供の彼女が、武夫のお金目当てに付き合うとは考えられないし…。
「なんでしょう?」
「いや…。えおと付き合おうと考える子がいたとは…。人間は差別意識が強い奴ばかりかと思っていたが、そうでもないんだな。」
「…武夫君はとても魅力的ですよ。」
 明輝子は自分が馬鹿にされたと感じたらしく、シーネラルは彼女に睨まれた。彼は素直に謝っておくことにした。
「済まない。」
「いいえ。人間にいい人は一杯います。悪い人もいるけれど、そんなところばかり見て、全部を分かった気になったら駄目ですよ。」
「…そうだな。その通りだ。子供のお前が俺を好奇な眼で見たりしていないのに、大人の俺が色眼鏡をかけていたらいけないな。」
「ちぃー、のどもじゃなーよ!」
「そうよね。16歳は子供じゃないわ。」
 武夫と明輝子が抗議する。シーネラルはそんな二人を見て、そういうことを気にするようではまだ子供だと思った。しかし、
「そうか。人間は16だともう大人なのか。妖怪は100にならないと大人ではないから、分からなかった。」
 と誤魔化した。
「えーっ、100歳って。そんなおじいちゃんにならないと、大人って認めてもらえないんですか!?」
「妖怪は長生きだから…。」
 驚く明輝子にシーネラルは説明してやった…。

 しばらく話した後、明輝子が家へ帰る時間になったので、武夫と二人で送りに出た。
「じゃ、また明日ね。武夫君。学校が終わったらすぐ来るから、待っててね。」
「あーい。ばいばい。」
 手を振る彼女の姿が見えなくなるまで見送ってから、二人は家に入り、部屋へ戻った。
「幸せそうで何よりだ。」
 シーネラルはさっきも同じことを言ったのを忘れて武夫へ言った。
「りゅ。」
 武夫が笑いながら抱きついてきた。
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