キャラにした兄弟シリーズ
2 M/M
3 おじさんにお仕置きされる兄
「あー、また怒られた……。」
弟はため息をつきつつ、お尻を撫でました。一所懸命にやっているつもりなのに、兄は分かってくれません。「いっつもぶたれちゃうよー。」
弟はまたため息をつき、仕事を再開しました。家畜達に餌を食べやすいように小分けしてあげていると、のんきそうな顔に落ち込んだ気持ちが楽になってきました。彼らを見ていると大変な仕事も遊びに変わります。……まあ、それが怒られる原因になるようですけど……。
弟に割り当てられた仕事が終わると、彼は本当の遊びに飛び出していきました。兄はそれを無言で見送ります。弟に出来る仕事は少なく、兄は弟がやれそうな仕事も抱え込んでしまう為に、彼には休む暇が殆どありません。責任感が強すぎるのかもしれません。もうちょっと手抜きも覚えると、弟に八つ当たりしなくてもいいのですが……。
父の親友が遊んでいる弟に声をかけました。兄弟は、両親が生きている頃、彼をおじさんと呼んで、身内のように慕っていました。今は時々彼等を助けてくれる、とても良い人です。
「なんだ、兄貴はまだ仕事してるのに、お前は遊んだりして……。そんなんだから、びんたされたり鞭で打たれるんだぞ。」
「違うもん……。僕の仕事はもう終わったの!」
「兄ちゃんが終わりって言ったのか? それでも何かやれることはないかって聞くのが普通だろ? お前等は二人で生きていくんだから、兄貴にだけ任せていたら、また苛められて、前みたいに飛び出したくなるんじゃないのか?」
「お兄ちゃんが意地悪なのは、僕が悪いってこと?」
「そう。兄ちゃんの性格もあるけど、お前にだって悪いとこがあるんだ。」
「おじさんっ、有難うっ。僕、もっと努力してみるねっ。」
弟はそう言うと、遊んでいた友達にさよならっと叫んで、兄の所へ走って行きました。おじさんはふうっとため息をつきます。妖魔界では認められない体罰を、人の見ている所でも平気で行う兄は、他の村人達から非難されているのです。しかし、付き合いのあったおじさんには少し彼の気持ちが分かります。子供だけで生きていかなければならない状況を考えると特に……。
「五月蝿いなっ、あっちに行って静かに遊んでろよっ。」
びしっ。おじさんの忠告で兄との新しい接し方に気づいた弟が、お手伝いを申し出て返ってきた言葉がこれでした。ぶたれた頬が赤くなり、弟は勢いで倒れました。
「あのね、おじさんが僕はもう少し努力しなきゃって。お兄ちゃんと僕の二人で生きていくからって。」
「ガキのお前に何が出来るって言うんだっ。俺に言われたことだけ黙ってやってりゃいいっ。後は邪魔をするなっ。」
「で・でも……。……あうっ。」
鞭が飛んで来ました。兄は父親ではないので、腰に鞭を下げられません。それで、服の中に入れています。
「俺には山のように仕事があるんだっ。何も出来ないくせに、偉そうに言うなっ。」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。」
お尻だけじゃなく、所構わず飛んでくる鞭に弟は体を丸めました。 『こうしたら、鞭の痛みがなくなればいいのに……。』
と思っていたら、なんと本当に痛くなくなったので、彼は吃驚して顔を上げました。
「いい加減にしないかっ。どうして何もしてないのに殴るんだ?」
「俺の邪魔をする。」
兄とおじさんが喋っていました。
「おじさん、助けてくれたの……。」
「助けたって何だっ!? お前が悪いから、叩かれるんだっ。」
弟の言葉で、兄が酷く怒りました。
「ごめんなさい、お兄ちゃん……。」
「怒るなって。……お前は弟に助けてもらったって言われるようなことをしてるんだ。」
「あんたに何が分かるんだっ。甘ったれで鬱陶しくて、馬鹿で、足手まといと暮らさなきゃならない俺の気持ちが分かるのかよっ。せめて何処かに行っていてくれれば良いのに、いつもまとわりついてきて、俺の邪魔ばかりするんだぞっ。
仕事だって遊び半分で何一つまともにやれはしない。父さんがまだいいからって甘やかしてたから、覚える気だってないんだ。いつも手抜きすることばかり考えてるんだ。俺が、父さんや母さんみたいに、何でもしてくれるって思ってるんだ。」
「お前、少しひねくれてるぞ。俺が見た限りじゃ、こいつはこいつなりに一所懸命だ。ただ、こいつはまだ小さすぎて、遊びたい盛りなんだ。仕事の中にも遊びを見つけて、何時の間にか遊びに夢中になっちまう。悪気はない。気持ちだけで体がついていけない。」
おじさんは笑いながら弟の頭を撫でました。「子供なんだ。お前の思ってる通りさ。甘えたい。遊びたい。好かれたい。」
「……。」
「まあ、お前もそうなんだろう。お前だって大きいけど、まだ子供だ。弟の全てを受け入れて、上手くやらせるなんて無理な話だ……。所詮、お前は親じゃなくて兄だからな。そうしなきゃならん義務もない。」
兄は顔を曇らせました。おじさんは、兄をそっと抱き寄せると、優しく言います。
「悔しがらなくてもいい。お前もお前なりに頑張ってる。ただ、お前は責任感が強すぎる。もうちょっと肩の力を抜いて息をしてみろ。大人と一緒に出来なくて当たり前なんだ。誰もお前を責めたりしない。今の方がよっぽど言われてるんだぞ。」
「えっ?」
「弟を虐待してるって。」
「……。」
兄は唇を噛みました。
「だから悔しがる必要はねえって。これから変えればいい。おじさんが教えてやる。」
「はい。おじさん。」
兄は微笑みました。おじさんも弟も微笑みました。
「でも、その前にやっておかなきゃならねえことがある。」
「えっ、なあに? なあにっ?」
「……兄ちゃんは、分かったみたいだな。」
弟が兄を見ると、兄は辛そうな顔をしていました。
「もしかして……お尻ぺんぺん?」
「正解。」
兄弟の家の中。
「あいつが死んでからは初めてか?」
「いいえ。俺もまだ教会に通ってるから。」
「そうか。じゃあ遠慮しなくていいな。」
兄ははっとしました。おじさんはそっと笑いました。
「今、後悔したか?」
意地悪なおじさんの言葉に、兄の顔が赤くなりました。
「……はい。」
「正直なのはいいことだ。……でも、一杯お仕置きだぞ。」
「……はい。」
「暫く俺がお前達を手伝ってやらなきゃなあ……。な?」
「そ・そんなに……?」
兄は泣きそうになりました。弟は兄を可哀想だと思いました。
「さっき言ったじゃないか。力の抜き方を教えてやるって。」
「……おじさん、俺、さっきはとても悪かったって思ってるんだ。生意気だったし、あんな口の聞き方したし……。……でも、そんなに苛めないでくれよ。」
「ん? 俺はどっちの意味でも言ってるんだけどなあ……。」
兄はへなへなとくずおれました。おじさんは、そんな兄を抱き起こして、父がいつもお仕置きの時に使っていた椅子に座り、兄を膝にうつ伏せにしました。
「おじさん……お兄ちゃんを酷くぶつの?」
「そうさ。悪い子には厳しくだろ?」
剥き出しにされた兄のお尻は、おじさんの掌と兄がいつも持っていた鞭によって、たっぷりと打たれたのでした……。
それから、彼等はだいぶ幸せになりました。悪い子になると父の親友が懲らしめてくれます。辛い時は皆が助けてくれます。
「なんとかうまくやっているようだな。」
「ええ、あなた…。」
天国では、兄弟の両親が優しく微笑んでいました。父はそっと下に降りて、親友に頼んだのでした。自分達の大切な子供達を助けて欲しいと……。
兄弟は勿論、知りません。知らなくていいと父もおじさんも思っています。死んだ人はほんの少ししか生きている人とかかわれないのです。ですから、二人だけで頑張って生きていて欲しいのでした……。
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