ふわふわ君

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  番外4 お城へ行く2  

「ケルラを歩かせてもなあ…。」
 ラークは顔をしかめた。
「ここに乗せて行け。」
 トゥーリナはケルラを抱っこすると、野菜籠の上に乗せた。
「食い物の上に…?」
 ラークは渋った。
「じゃあ、俺とお前が交互におんぶしていくか?」
「それはちょっと…。」
「おんぶ、おんぶ。」
 ケルラが足をぶらぶらさせながら歌うように言った。目を輝かせている。
「駄目だぞ。」
「にゃ。」
 ケルラが頬を膨らませた。
「まー、確かに。」
 トゥーリナが頭を掻いた。それを聞いた一人の若者が不思議そうにした。
「何故、駄目なんですか?」
「何処から襲われるか分からないからだ。」
 トゥーリナが答えた。
「…。」
 若者が青ざめた。
「そうなんだよなー。それさえなければ、ケルラをおぶってやれるのに。」
 ラークが言った。「ケル、いつもみたいに他所の家に行きたくなかったら、俺の言う通りにしろ。」
「にゃん。」
「何だ、お前、ケルラが逆らったら、人の家に預けていたのか?」
 トゥーリナがラークを睨む。
「阿保ぬかせ。んなわけあるか。」
 ラークが毒づいたので、周りの人達が青くなった。トゥーリナを怒らせたら、こなごなにされるかもしれないのにと。それには気付かず、彼は続けた。「あんたがこの村に来るまで、野菜売りは、俺と神父様が交互にしていた。子供連れで野菜を守れる自信はないから、俺が行く時には、ケルは面倒を見てもらっていたんだ。」
「ふーん。俺は、前のお前なら、それくらいしそうだと思ったんだ。」
 トゥーリナが軽く受けたので、周りの人はほっとした。
「そこまで無責任じゃない。」
 ラークはケルラの靴を脱がせながら言った。
「そうか。…じゃ、そろそろ行くか。」
 トゥーリナの声に、行く者達は籠を引いて、皆に見送られながら、歩き出した。

 暫くは何事もなかった。ケルラの昼寝の時間が訪れたので、ラークが寝かしつけたりと気軽な雰囲気が続いた。特に、トゥーリナにほぼ強制的に毎日訓練させられた挙句、今回の野菜売りにも無理矢理参加させられた若者達は、旅なんてこんなものかと安心しきっていた。トゥーリナとラークが軽口を叩き合いながらも、ある一定の緊張感を保っているなんて気付かずに。
 だから、二人の雰囲気が、明らかに変わった時も、若者達は談笑し続けていた。
「多いぞ…。何人だ…?」
 ラークは呆然とした。
「20人は居るな。」
 トゥーリナは平然と言い放つ。ラークが青ざめて言う。
「…俺は、そんな大人数を相手にした経験がない。」
 彼の額に汗が浮かんだ。そもそも、腕に自信があるわけではない。
 そんな二人の様子に、年配の男性が、不思議そうな目を向けた。
「二人とも、一体何の話をしているんだ?」
 トゥーリナは、皆に聞こえるように言う。
「いいか、良く聞け。」
 談笑していた若者達もトゥーリナに注目した。全員が自分の話を聞く態勢になったと感じた彼は、再び口を開いた。「今、俺等は、20人ほどの盗賊に囲まれている。」
 ラークとケルラ以外の者達に衝撃が走った。皆は一応、武器も携帯しているし、トゥーリナに鍛えられてもいるが、年配の男性以外は、実戦経験がない。
 ざわついている皆を睨むと、トゥーリナは少し大きな声を出す。
「うろたえるな!いいか、俺が教えた通りにやるんだ。怯んだりして隙を見せたら、戦い慣れている奴等につけ込まれちまう。
 相手は、野菜を狙う小物盗賊だ。例え負けたとしても、殺される事なんてない。恐れずに戦え!」
 怯えていた若者達の顔が引き締まった。そう、ここには元・第二者のトゥーリナが居る。それだけでも安心感が違う。それに、折角大変な訓練をしてきたのだ。力試しだってしたい。
 やる気満々になってきた皆を見て、ラークと年配の男性は感心した。
「やっぱり、こういう時は違うんだな。」
「流石は、元・第二者だ。皆が落ち着いた。」
 二人もやる気が出てきた。
 トゥーリナは、皆にそれぞれ役割を与えた。相手は大人数で戦う事に慣れているかもしれないので、小人数同士で戦った方が、有利だと思ったのだ。
 ラークは、ケルラの頭を撫でると、野菜の見張り役についた若者3人へ微笑みかけた。
「皆、無事に城へ行こう。」
「はい!ラークさん、気をつけて。」
 ラークは頷くと、気配へ向かって走り出した。皆もそれぞれに走り出した。
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