17 悪いリトゥナ1
今回のお話はリトゥナが主役です。
いつもの子供達の場所。皆は楽しそうに遊んでいるけれど、リトゥナとケルラはちょっと一休み。皆が遊んでいるのを眺めていたら、リトゥナがケルラの髪に触れた。
「ふわふわ君って、髪が長くていいなあ。」
「にゃ?」
ケルラはぽかんとした。「リーにゃん?」
「あ、意味が分からないよね、ごめん。あのね、僕、髪を伸ばしたいんだけど、お母さんが駄目って言うの。だから、ケルラ君が羨ましくて。」
「みゅー。」
ケルラはリトゥナの髪の毛に触れた。リトゥナは前髪が長めだけど、後ろは短く切られている。百合恵は少し古い時代の日本人だったので、長い髪を不良だと思っているのだ。
「僕、お父さんが大好きで、お父さんのようになりたいんだ。今、お父さんの髪ってとても短いけど、前は長かったんだよ。その頃のお父さんって、とってもかっこ良かったんだ。それで、僕は髪を伸ばしたいの。」
この村に来た当初もお父さんは髪が長かった。でも、ふわふわ君はもう覚えていないだろうなとリトゥナは思った。
「にゃー…。」
ケルラは今度は自分の青い髪に触れた。お父さんが面倒がって切ってくれないので長いだけなんだけど、そういう風に言われると、何だかいい気分になる。「にゃん。」
「ほんと、いいなあ。」
嬉しそうなケルラを見て、リトゥナは本当に羨ましそうに呟いた。
夜ご飯を食べた後。ケルラはラークの髪にじゃれついた。ラークは立って食器を洗っているので、彼の髪が長いとはいえ、ケルラには頑張らないと届かない位置だ。ケルラはまだ小さいし、ラークは背が高いのだ。ラークが頭を動かす度に、誘うように髪は揺れた。リトゥナと髪の毛の話しをしたからか、今日は尻尾よりも髪の毛に気持ちが向かっていた。
「こら、ケル。いてえぞ。」
ケルラの爪は、髪の毛ではなくラークのお尻を引っかいていた。彼は振り返ると、ケルラを睨んだ。ケルラは慌ててちょこっとだけ逃げ、にこっと笑い、
「ごめにゃ。」
ぺろっと舌を出す。ケルラに反省している様子は無いが、ラークは苦笑いした。
「後片付けが終わったら遊んでやるから、ちょっと位は待ってくれよ。な、ケル。」
ラークはケルラが遊んでもらえなくて、悪戯したと思っているのだ。本当は違うのだけれど、ケルラはこくんと頷いた。ラークは作業に戻った。ケルラは今度は大人しくなって、待つことにした。またじゃれたら、お尻を叩かれちゃうだろうし。
リトゥナ達の家。夕ご飯を食べ終わり、お父さんとお風呂に入った後。
「はあ…。」
もうそろそろ寝る時間なので、自分の部屋にいたリトゥナ。彼はため息をついた。昼間、ケルラと話したことでより強く、かっこ良かった頃のお父さんを思い出していた。
腰に届くほどの髪と豪奢なマントをはためかせ、颯爽と歩くその姿は、リトゥナだけでなく、女性達の心も虜にした。ちょっと冷たいハンサムなお父さんは、誰よりもかっこよくて、リトゥナの自慢だった。仕事がとても忙しくて、めったに構って貰えなかったけれど、寂しいと思うことはあんまり無かった。リトゥナ達との時間を大切にしてくれていたからだ。リトゥナはそんなお父さんをとても尊敬し、憧れていた。
でも、今は…。村人その1や名無しの権兵衛みたい。偉い人らしい品のある服は簡素なものに変わり、髪はばっさり切られてしまい、しかも、ずっと一緒に居られるようになって分かったけど、意外に子供っぽい。と、悪いところばかりが目に付いて…。素晴らしいお父さんは何処かへ消えてしまっていた。
「盗賊が来ればいいなあ…。」
盗賊が村を襲いに来たら、あの頃のお父さんが見られるかもと、リトゥナは思った。弱ければ瞬殺するだろうし、強ければあの圧倒的な強さを感じられるかもしれない。どちらにしろ、我が侭ばかり言ってラークや村人に迷惑をかけている、駄目お父さんじゃなくて、強くて多くの人の目指す立場だった頃のお父さんに会えるだろう。「そうだよ。盗賊が来ればいいんだ。」
そんなお父さんに知られたら、鞭でお仕置きされそうなことを考えながら、リトゥナは眠りについた。