ふわふわ君

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  9 町への道中1  

 ケルラに充分謝って、落ち着いたラークは、元・偉い人にお礼を言ってから、ふと疑問に思った事を口にした。
「ところでよ、どうしてあんたは、そんなに色々知ってるんだ?」
 ラークは元・偉い人を見た。「年下なのに。」
「年はどうでもいいだろ。」
 元・偉い人はちょっとむくれた。「リトゥナもソーシャルも、ケルラより年上なんだぞ。親としては俺が先輩だ!」
「あ、そうか。」
「俺より遥かに年上かもしれないが、ボケるには早いんじゃないのか?」
「遥かにじゃねえよ…。」
 ラークは彼をちょっと睨んだ後、ケルラを見た。「さ、ケル、行こうか。」
「にゃ。はい。」
 ケルラはにこっと笑った。

 ケルラの手を掴んで、村を出る。暫く歩くと、森が広がり始めた。ラークは立ち止まって考えた。『子連れで森は危険か…?でも、飯を考えると森の方が…。』ケルラが足に体をこすりつけてくる。頭を撫でてやったあと、ラークは森経由で町へ向かう事にした。
 ケルラが小さいので、頻繁に小休止を取りながら進む。それでも、普段はこんなに沢山歩かないので、浮かれていたケルラも、疲れて元気がなくなってきた。
「ケル、もうちょっと頑張ってくれ。あと少し進むと、小川がある。そこで昼飯にするから。」
「お魚。」
「そう、魚。あと、動物や木の実なんかも集められる。ここらでは、美味い木の実が採れるんだ。だから、あとちょっとだけ踏ん張れ。」
「にゃー。」
 ケルラは少し、元気が出たようだ。

 せせらぎが聞こえてきた。ラークは、しょっていたリュックを下ろすと、中から食事の支度に使える道具と、長い紐を取り出した。ケルは…?と見ると、川に屈みこみ、喉を潤そうとしている。本人は気付いていないが、落ちそうでとても危なっかしい。ラークは急いでコップを掴むと、ケルラの側に走り寄った。息子を掴み上げて座らせた。そして川の水を汲み、邪魔されて怒っている彼に差し出した。ケルラは、もどかしそうに受け取り、ゴクゴクと一気に半分も飲み干した。一旦息をつくと、今度は舌を伸ばして残りの水をぺろぺろ舐め始めた。
 ケルラが落ち着いたのを確認してから、ラークは、怒った顔を作り、息子の腕を掴んだ。
「ケルラ、今、お前、落ちそうだったんだぞ。勝手に動いたら駄目じゃないか。」
「みゅー…。」
 ケルラは耳をぺたんと倒して、しょんぼりした。「ごめにゃさい。」
「お仕置きだぞ。」
 ビクッとして逃げかけたケルラを捕まえると、ズボンとパンツを引き下ろして、膝に乗せた。「危ない事をしたから、ちょっと痛くするぞ。」

「にゃーっ。にゃーっ。」
 尻尾を掴んで、ぱーんっ、ぱーんっと手を振り下ろす。ふわふわのお尻は叩かれると毛が少し倒れた。「ごめにゃ、ごめにゃ。」
 痛くて暴れるケルラを押さえつけながら、ラークは小さなお尻を打つ。ケルラを愛せるようになってから、お仕置きを辛く感じるようになった。しかし、父としては我慢しなければいけなくて…。
 15回ほど叩いて、膝から下ろした。ラークは、泣き叫んでいるケルラを木の側へ連れて行くと、先ほど出した長い紐で、ケルラの腰を軽く結んだ。端を木に結び付けて、ちょっと引っ張って、解けないかどうかを確かめた。
「みゃあ?」
 ケルラは吃驚して、ラークのする事を見ている。作業を終えたラークはケルラを抱き寄せて、頭と背中を撫でた。ケルラが落ち着いた後も撫で続けて、涙が止まるのを待った。
「お父にゃんな、これから昼飯の支度をするから、ケルはここで大人しくしててくれな。」
 ラークは、紐がケルラの座れる余裕があるか確認してから、ケルラの頭を撫でた。「用意が出来たらすぐ解くから、いい子にしてるんだぞ。」
「にゃー…。」
 ラークはケルラの頭を強く撫で、頬に何回かキスをすると、立ち上がって、森の奥に消えた。木の実と食べられる魚と小動物を採り、薪を集め、火をおこし、魚を炙り…と昼ご飯の支度をラークがせっせとしている間に、最初は不安そうだったケルラも待ち疲れて寝てしまった。
 ケルラが寝ているうちに…。ラークは、皮をはぎ、内臓を抜き…と小動物の処理を始めた。幼いケルラにこういうのを見せるのは、まだ早いとの判断だ。処理が終わると、金網の上に肉を置き、焚き火で炙る。次はスープの準備に取り掛かった。

「みゅう…。」
 スープからいい香りが漂い始めると、ケルラは目を覚ました。ラークは紐を解いてやり、焚き火の側まで連れて来て座らせた。そして魚をケルラに渡した。むしゃむしゃと食べ始める息子を横目で見ながら、ラークはスープを器に盛る。うっすらと湯気が立ち上る具沢山のスープは、食欲を刺激してくれる。
「まだ熱いから、もう少し我慢しような。」
 欲しがってにゃ−にゃー鳴くケルラ。猫舌だから、当然熱い物は食べられない。「魚が残ってるだろ。食べ終わる頃には食べられる位には冷めてるさ。」
「にゃ。」
 納得したケルラは、大人しくなって魚を食べた。

 後片付けも済み、休憩を終えた二人は、また歩き始めた。幼いケルラには昼寝が必要だが、今回は食事前に寝てしまったので、眠くならないようだ。元気を回復したケルラは、にゃん、にゃん、と楽しそうに歩いている。
 ラークは空を見上げた。空がゆっくりと明るくなってくる。やはり野宿が必要なようだ。『もう少し進むと開けた所に出る。そこで…。』ちょっと不安だった。最後に旅をしたのはいつだったろうか。クリュケを連れての野宿は苦痛ではなかった。あの頃はまだ、戦いを忘れていなかったから、クリュケ一人守る位、何でもなかった。
 でも、今は…。元・偉い人に鍛えられ、だいぶ勘を取り戻したとはいえ、平和ボケで体が鈍っている。幼いケルラを守りきれるだろうか…。
 何も知らないケルラは楽しそうに歩いている…。ラークは不安が入り混じった瞳で、夜に近づく空とケルラを見つめた。
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