妖魔界

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ラルスとペテル2

 ラルスはお尻を撫でながら、妖怪のザンの城の前に立った。ザンがなかなか許すと言ってくれなかったので、シースヴァスにかなりの数を叩かれてしまったのだった。
「参った、参った。ちょっとで済むかと思ったのに、お父さんたら、結構赤くなるまでぶつんだから……。ザンも面白がってるし。」
 溜め息をつきつつ、城を見上げる。「おっきくて、綺麗な城だねー。トゥーリナはザン様を男には見えないけど、女だとも思えないとか言ってたけど、普通に女の子だよね。」
 戦闘用には見えない城。結婚して子供を作り、男女平等の世を目指している割には、夫に従ってる。ドレスは着ないが、身につけている衣服は、一般的に女性用と思われる、赤などの暖色系。角につけている血のリボンは装飾用ではなく、彼女の大切な物だそうだから除外するにしても、ラルスからすれば、妖怪のザンはただの女の子にしか見えない。
 『望みを叶えるまではと、女を捨てたそうだけど、具体的にどこが女を捨ててることになっていると思っているのか、聞いてみたいなあ……。』
 戦いに参加してるから、女を捨ててますと言うのは、あまりにもお粗末だとラルスは思う。戦いに生きているのは、ザンだけではないのだ。

「ペテルさんって、今どこにいるか分かります?」
「……そんなことの為にわざわざ俺の部屋まで来たのか? トゥーリナの兄貴。」
 妖怪のザンがひくついている。口は笑ってるとも言えなくはないが、額には怒りの四つ角が浮かんでいる……。
 『沸点が低いところは幽霊のザンと一緒だ……。似てるのは顔だけじゃないんだね。』
「僕、ラルスって言いまーす。つい、お綺麗なザン様の顔を見たくなってしまって……。お忙しいところにお邪魔してしまって、済みませんでした。」
 妖怪のザンを怒らせるほど馬鹿ではないので、素直に謝っておく。
「心にもないような世辞……、懐かしい奴を思い出させるー……。」
 ザンが溜息をつく。
「えっ、誰ですか?」
「ネスクリ。今は、すとーむって女と結婚して八百屋やってるが、かつてはかなり優秀で使える部下だった。」
「優秀な使える部下が、お世辞でザン様をたてていたんですか……?」
「!」
 ラルスの言葉にザンが目を見開く。「世辞を言うから使えると思ってたわけじゃねえぞ?」
「……。そうなんですか。じゃ、有能でお世辞も言う人だったと。」
「そういうことだ。」
 ザンが探るような眼でこちらを見ている。
「よっぽど凄い人だったんでしょうね。」
 ラルスはにっこり笑った。
「ああ。中学校に行っていたからな。」
「えっ、凄い……って、中学校へ行くような人がザン様の部下……? 知的職業ではなく、第二者の部下を選ぶなんて。その人、面白そうですね。」
「事情があるんだが……まあ、そこまで説明する必要もねえな。」
 ザンが息をつく。「俺にはお前の方がずっと面白いがな、ラルス。」
「そうですか?」
 ラルスはまたにっこりと微笑んだ。
「ああ、お前みたいな……腹に一物あるようなのって、俺の周りにはあまりいなくてな。」
 ザンがニヤリと笑う。「いや、正確にはいた。そのネスクリや、ターランなんかがそうだ。でも、あいつらガキだから分かりやすくてなー。」
「あははは。なんか褒められちゃった。」
「今のを褒め言葉と受け取んのか。」
「はい。」
 ラルスは満面の笑みを浮かべた。
「くっくっく。お前、俺の手には負えなさそうだ。」
 ザンはいかにも楽しそうに笑う。「お前が権力争いに興味がなくて良かった。」
「そんなに褒めても何にも出ないですよ?」
「……俺これでも元王女だし、権謀術数には少しばかり自信があった。でも、所詮、知よりも力が先行する妖魔界……しかも、第一者達の中じゃ、たかが知れてたってことか。今、はっきり分かった。」
 ザンが優雅に微笑む……が、目は冷たかった。「井の中の蛙大海を知らず……か。人間は上手いことを言う。」
「深読みし過ぎなだけだと思いますよ。僕、頭は良くないので。」
「お前の頭の出来は知らねえが、人の心を読むのは上手いだろ。」
「少しだけだけど、自信はあります。」
 ラルスは優しく微笑み、「それで、武夫とペテルの為に、ここに来ました。」
「放っておいた方がいい。二人が傷つくだけだ。」
 妖怪のザンにまで切り捨てられてしまった。ラルスはちょっとムッとした。
「駄目です。えおはただの子供だけど、彼の功績は大きい。報われるべきだと思います。」
「そりゃ、俺だって感謝はしてるし、なんとかしてやりてえ。えおのお蔭でペテルが元に戻ったんだ。」
「なら。」
「……そういうことか。それで俺のところまで来たのか。俺にも関わらせてやろうってわけだ。」
「そこまで偉そうな態度に出たつもりはないですが、大まかに言えばそういうことです。」
「ちっ、やっぱお前、食えねえな。」
 そう言いつつも、ザンはどこか嬉しそうに、監視室にいる部下へ電話をかけるべく、手を伸ばした。

 電話のお陰でペテルは食堂にいることが分かったので、ラルスはそこへ向かう。面白い兎の為に、ザンが食券をくれた。何も考えずに出てきてしまったが、今はちょうどお昼時。太っ腹な第一者様に感謝して、好きな物を食べることにする。
 食堂は混んでいたが、ザン直筆の食券を持っていたので、優先して作ってもらえた。本来ならば遠慮するところだが、ペテルは番号階級なので忙しい。彼がここから去る前に彼のところへ行きたかったラルスは、特権を利用させてもらうことにした。そのせいでじろじろ見られたが、それくらいは甘んじる。

 ペテルはすぐに見つかった。地位が高いので、彼は他の部下とは違う席にいた。あまり使われないが、VIP席とでも呼べる場所が、この食堂にはあるのだ。まだ部下が少なかった頃、城の主であるザンがここで食べていたと教えてもらった。
「ペテルさん。ご一緒させて頂いてもいいですか?」
 番号持ちのペテルは、ここで食べなくても部屋に運んで来てもらえる。それなのにここに来るのは、部下や働くメイドを眺める為だ。お気に入りだったフェルがもう居ない為、好きな時に可愛がれる相手を探しているのだ。それ以外にも可愛いのを見て目の保養をしたいらしい。忙しいので息抜きだそうだ。見られる方はたまったものではないだろうが、番号階級には逆らえないらしい。
 ペテルがラルスを見た。少し眉根を寄せたのは、ラルスが誰だか分からないからではなく、傷だらけのラルスが可愛くないからだ。手術後にいきなりそう言われたので、間違いない。
「可愛くない子とご飯を食べたら、ご飯が不味くなっちゃうから嫌なんだけど。」
「僕の方を見なくてもいいですよ。話しさえ聞いて頂けたなら。」
「可愛い子を見ながらご飯を食べて、更に君の話も聞くの? 君の顔も見ずに? 出来るわけないでしょ。あいにく、僕は普通の人なの。ターラン君のような凄い人と一緒にしないで。」
「時間を取って頂けるなら、今でなくてもいいんですけど……。」
 ラルスは控えめに言った。
「暫くは忙しいんだよね。……ちぇ、だからこそ可愛い子を見たかったのに……。仕方ない、いいよ。何、話って。」
 ペテルが面倒そうに言う。
「胃もたれを起こしそうな気もするんですが……。」
「何、それ。面倒だなー。じゃ、食べてからでもいい?」
「はい。」
 ラルスは微笑んだ。








2009年10月24日
■作者からのメッセージ
いつものことだけど、書きたいことからずれまくる。

最後の方で、ザンとラルスで心理戦のようなものを書いてみたけど、たぶん、後で意味が分からなくなるんだろうなあ……。むー。
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