妖魔界

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ラルスとペテル1 M/M

 ラルスは妖魔界に遊びに来ている武夫を見ていた。ペテルの手術が終わり、武夫は家に帰ることが出来た。
「えお。」
「らに(訳=何)?」
「ペテルのこと、どう思ってる?」
 武夫の顔が暗くなった。
「……のともらち(訳=お友達)。」
「前はね。今は? ……いたっ。」
 誰かに頭を叩かれた。ラルスが振り返ると、幽霊のザンが凄い形相でこちらを睨んでいた。「……えおは、君や皆が思ってるほど、弱くも脆くもないよ。」
「……。……例え武夫ちゃんが強かったとしても、その嫌味な質問に意味があるとは思えないね。」
「あるからしてるんだけど? そもそも、どうして君に僕の意図が読めるのかな? 君はただの人間で、えおのような読心術も持っていないのに。」
「!」
 ザンにギロッと睨まれた。
「……っと、言い過ぎちゃった。ごめんね。今は、些細なことに時間を使ってる場合じゃなかったんだ。」
「……。」
 ザンがキレる寸前になった。後一言何かを付け加えたら、襲いかかってくるだろう。
 『この子、分かりやすいなあ……。頭はいいはずなんだけど、それを感じさせないな。』
「ごめん、ごめん。……ねえ、えおの前で暴れないよね? 母親なんだから、キレて暴れるなんて、子供の教育に良くないことくらい分かるよね? えおって、顔は君に全く似てないけど、性格が君そっくりだし。」
「優しくて泣き虫なえおの、どこがあたしに似てるっていうのよ?」
 驚きのあまり、怒りが何処かへ消えたようだ。
 『ほんと、この子、扱いやすい。』
 ラルスはニコニコ笑う。
「ここで暮らしていた頃、帰りたいのに帰れない気持ちが高まった時、ペテルを吹っ飛ばして暴れていたよ。凄くそっくり。さすが親子だね。」
「ぐっ……。」
「子供ってぇ、親が似て欲しくないと思ってる所ばっかり似るんだって。何でそんなに意地悪なのか、不思議だね。神様も罪作りだよね。」
「……てめ、この……。……でも、なんで、そういうとこばっか、似るのかしら……?」
 ぶつぶつと呟きながら、ザンが考え始めた。彼女が静かになったので、ラルスは武夫の方を向いた。
「で、ペテルのことはどう思ってるの?」
「にまれもともらちれすよ(訳=今でも友達ですよ)。」
 目が冷たい。ザンで遊んだのが気に入らなかったらしい。
「ごめんね。君のお母さん、可愛いからつい遊びたくなっちゃって。」
「なわにーと、あしょうの(訳=可愛いと、遊ぶの)?」
「可愛い子を苛めたくなるっていうのは、男の子の本能みたい。人間でも、子供の頃はそうするよ。可愛いねって言うのは恥ずかしいから。」
「りゅーっ。」
 武夫が驚いている。
 『“あれ、えお怒ってる?”、“あうす、お母ちゃん、にじめた(訳=苛めた)”、“ああ、苛めたんじゃないんだ、あのね……。”……といったやり取りなしで成立しちゃうんだ。この会話。』
 ラルスは武夫の顔を見つめた。
 『ザンを苛められたと思ったから、白モードから黒モードに切り替えたんだ。で、黒モードだから、頭もいいんだ。……えおはずっと人間界にいた方が、人間界で生きていく上では良さそう……。人間界じゃ、力が足りなくて黒モードを生かせないし、生かしてもいいことない。』
「……本筋からズレちゃうから、単刀直入に言うね。」
「う?」
「本筋って何よ?」
 武夫とザンがこちらを見る。
「まさかザンは、えおが必死になって忘れようとしているペテルのことをわざわざほじくり返してまで、僕がえおを傷つけたがってるなんて思ったの?」
「それは……。」
 口ごもるザン。
「えおを傷つけるのなんて簡単なのに、わざわざそんな手間はかけないよ。僕がえおを苛めたくなったら、もっと簡単なやり方にする。」
「じゃあ、何なのよ!?」
「勝手に疑っておいて、逆ギレ? いい性格だね。」
「悪かったなーっ。ラルス、てめー性格悪過ぎだっ。」
「君は口が悪いね。」
「うーっ。」
 武夫が怒鳴った。
「ごめん、武夫ちゃん。ラルスなんかと喧嘩してもしょうがないもんね。」
「えおは待つってことが出来ない子なんだね。」
 ザンの言葉は軽く流して、ラルスは武夫に微笑みかける。
「ちょうれちゅ(訳=そうです)。」
 『あ、まだ、黒モードなんだ。平然と開き直っちゃったよ。』
「じゃあ、話すよ。」
 ラルスはにっこりと微笑んだ。
「えおが、ペテルとの仲を前とは違ってもいいから、取り戻したいと思っているのなら、僕が何とか出来るよって言いたかった。」
「無理でしょ。」
 ザンが切り捨てる。
「どうして?」
「だって、可愛いものにしか興味がないっていうペテルが、えおちゃんに、可愛くないからって言いやがったんだよ? たけおちゃんはこんなに可愛いのにっていう親の欲目は置いといても、脈ねーじゃん。」
「まーねー……。」
「よしんばあの蝶々が、えおちゃんと仲良くする気になったとしよう。でも、わたしやえおちゃんの記憶にあるのとは全く違うあいつと遊ぶ度に、元のあいつを思い出すことになるじゃん。」
「だから、前とは違ってもいいからと条件をつけたんだけど? ちゃんと聞いてた?」
「……あんた、本当に性格悪いね。」
「説明したのに、そのことをさもお前そこまで考えないで言ってるだろう……みたいな言い方されら、頭に来るのも当然だと思うけどなあ。それで、ちょっと嫌な言い方になってしまったからといって、そんなに責められることなのかなあ……? 僕のこの考え方って、そんなに性格悪いかなあ……。」
「それを本気で言ってるなら、あたしが悪かった、言い過ぎてご免って謝るけど、ラルス、あんた、明らかに嫌味で言ってるでしょ。それがムカつく。」
 ザンが苛々したように言う。
「ペテルとの関係をなんとかしてみようかと、無償で申し出たのに、一考の間もなく、無理って言われたし。」
「う……。」
 ザンが下を向いた。しばしの沈黙。「……悪かった。ごめんなさい。」
「何でそんなに悔しそうに謝るの?」
「罠に嵌められた感がヒシヒシとするからだろっ。」
「また逆ギレしてるし。参っちゃうなあ。」
 ラルスが頭をかく。
「あうすは、お母ちゃん、なわにーのね(訳=可愛いのね)。」
「うん♪ 頭がいいはずなのに、馬鹿にしか見えなくて面白い。」
「ラルス、てめーっ。」
 ザンが握り拳を作る。いまにも殴りかかってきそうだ。
「こら、ラルス。」
 シースヴァスの声がしたと思うと、ラルスは彼の膝の上にうつ伏せに寝かされた。
「わっ。お・お父さん、ご免なさい……。」
「俺に謝ってどうすんだ。ザンに謝れ。」
「えー……。いたっ、いたっ。ご・ご免なさいっ。ザン、悪かったよーっ。痛いっ。……謝ってるのに、何で叩くのー?」
「心から謝ってねーからだろ。」
 シースヴァスのかわりにザンが答えた。まだ怒っているらしく、口調が荒い。
「……ご免なさい。」
「んなふてくされたような謝り方で許すはずねー。」
「段々口が悪くなってるんですけど? や、お父さん、いたっ。謝ってるのに、平然と叩かないで。痛いっ。」
「ザンが許すと言わない限りは、許さねえぞ。」
「えーっ。いだいっ、強い、強い……。わか・分かりましたっ。そんな強く叩かないでっ。」
 叩き方が普通に戻って、ラルスはほっとした……。









09年10月19日

■作者からのメッセージ
ひっさしぶりに書いた二次創作じゃないお話は、壊れていないラルスが性格悪く見えるエビ。
本当は性格が悪いんじゃなくて、冷静に分析してるだけなんだけど、側から見ると、とてもそうは見えない子。

生きてるラルにゃんは、壊れたラルにゃんたちとはなんか違うのであった。まー、子供の頃に、シースヴァスがその一面に気付いて、ちょっとビビってるけど。
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