妖魔界

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ラルスとペテル3 途中

 ペテルが目の保養をしながら、食事を摂っている。そんな彼からは、えおと一緒に彼以上に楽しそうに遊んでいた子供の片鱗さえ見られない。今の彼は、可愛い子が好きだと言う少し変なところを除けば、普通の大人なのだ。
 まるで性格の違う双子の様だとラルスは思う。手術前の彼と今の彼に接点は全くない。
 『毒矢はペテルの脳を穿ち削り取り、理性を奪った。ザン以外のことは敵とみなす殺人鬼に彼を変えた……。それを変えたのはえお。』
 ラルスは武夫を思い浮かべた。傷つきやすく脆いのは表、白モードの時だ。利口で冷酷なのは裏、黒モードだ。裏は父親に虐待されなければ生まれなかっただろう。しかし、表も虐待が生み出した面なのだ。虐待は恐ろしいとラルスは思う。
 『それはともかく……。白のえおは純粋でありたいがゆえに、黒を嫌悪していた。えおは自分では出来ない子供らしさの望みをペテルで叶えた。だから、手術前のペテルは異様に見えるくらい純粋な子供だった。』
 脳の欠けた部分を自らの膨大な力で補う。妖魔界ではほぼ無限大に力を使える武夫のことだ。それくらい容易だったに違いない。それのお蔭でペテルは殺人鬼にならずに済んだ。武夫が側を離れると効果がなくなるのは、武夫が力を維持できないからだろう。それでも徐々に離れられるようになったのは、皆が思っていたようにペテルが快復したわけではなく、武夫が脳を補う力の使い方に慣れてきて、維持できる時間と手間が少なくなっていったということだろうとラルスは推測している。
 『真相は闇の中なんだけど。』
 ラルスは力が少ないし、そういうことに詳しそうな人も知らない。誰かに聞くことは可能だが、例えそんな人が見つかったとしても、ペテルが治った今、事実を知ることは出来ないのだ。
 『それに、別に知りたくもないしね。分かったからって、何の役にも立たないし。』
 ラルスは学者ではないので、無駄なことはしないのだった。

 ペテルとラルスは食事を終えた。
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