“伝説の男”の生い立ち

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 暫くして、エッセルが退院した。シーネラルはまだ歩くことも出来なかった。
「エスの方が重症に思えたんだけどな……。俺は足潰されて、腕切られたけど、それ以外はたいして……。」
 顔を歪めた……。皆の忠告さえ聞けば……。団の被害も少なく、エッセルは軽傷で済んだかもしれない……。ショックだった。一所懸命に鍛えた。自分自身に上昇志向はなかったが、ジオルクが第一者になるのを助けようと、彼の右腕として必死で頑張って来たのに……。たかが髪の毛で……。激しい後悔……。「……くう……。」
 涙が頬を伝った。嗚咽が次第に叫びに変わった。髪はまた伸びる。しかし、体はもう元には戻らない。これから、一生障碍者として生きていくのだ……。耐えられなかった。ずっと戦いの中で生きてきたのに。“貴族殺し”の時は、復讐の為に。ジオルクに誘われてからは、彼の為に。戦いしか知らないのに。これからどう生きろというのか……。


「落ち着いたか?」
 ジオルクが入って来た。シーネラルは彼を見た。「聞くつもりはなかった。でも、放っておくと、自傷行為に及びそうに思えてな。」
「Gは俺を良く知ってる。」
 ジオルクの心が嬉しかった。だが……。
「……ああ。」
「エスも退院したし、Gがここにいる意味はない。」
 口調を出会ったばかりの頃に戻す。そうジオルクに迷惑はかけられない。シーネラルは、一人で生きていく覚悟をした。
「……ふう。それも予想の範疇だな……。」
 ジオルクが溜息をついた。自分を切る気がなかったと知って、シーネラルはとても嬉しくなった。しかし、ジオルクの優しさに甘えるわけにはいかない。
「事実だ。」
「俺にはお前が必要なんだ。」
「何の為に? 俺はもう戦えない。」
「俺はお前を……いや、団員の一人として大切に思っている。駒として見たことはない。」
「……。」
「戦えなくなったからって、退団にはしない。」
「同情は止めろよ! 俺を馬鹿にして楽しいか!? 団に戻って何をする? 今まで通り、訓練メニューでも組むか? 誰がついて来るんだ。それに、障碍者が居て今回みたいなことが起きたら、致命的じゃないか? ……Gは俺に強くなっていく皆を指咥えて見てろって言うのか?」
 ジオルクの優しさに対する喜びよりも、自分はもう終わりだという辛さが勝った。ジオルクは優しいのではなくて、本当は髪を切った自分の浅はかさを笑っているのではという気になってきた。
「後は?」
「あ?」
 シーネラルは険悪な顔でジオルクを睨んだ。
「他に言うことはないのかと聞いている。」
 かっとなって、シーネラルはジオルクの顔を殴りつけた。途端、体中に激痛が走った。シーネラルはうめき、丸まったので、ジオルクが転んだのは見えなかった。
「お前の利き腕は右で、利き足は左だ。失ったのはどっちとも逆。」
 ジオルクが立ち上がりながら言った。「見ろ。口が切れた。自分の攻撃の反動も受けられないほど弱ってるのに、俺に傷をつけたぞ。」
「……。」
 痛みで荒い息を吐きながら、シーネラルはジオルクの顔を見た。
「それでも、死にたいか? 俺がここでお前を殺せば、お前は満足して、地獄へ行くのか?」
 ジオルクは、シーネラルを押し倒し、首に手をかけた。「確かにお前は皆の忠告を聞かなかった。でも、誰にも分かりきってることを無視したんじゃない。髪を切れば弱くなるっていうのは、ただの憶測と噂に過ぎなかった。証明してみせた奴は居なかった。お前が髪を切ったのは、どうしようもなかったことじゃないのか?」
「……そうっすけど……。」
 シーネラルは、少し落ち着いた。ジオルクが自分の首を絞めようとしているのに。
「あの時のお前は本気だったのに、今のお前はそれを否定してる。」
「……。」
 目を伏せると、ジオルクがシーネラルの首から手を放した。
「これだけ言っても分からないなら、好きにしろ。自殺するのも自由だし、普通に退院して、争いから退くのもお前の勝手だ。」
 ジオルクは扉まで歩くと、扉に手をかけながら言った。「帰ってくる気があるなら、受け入れる。」
 そして、彼は病室を後にした。


 それから、数週間後。医者が、義手と義足を取りつける手術をすると言い、シーネラルに麻酔をうった。
「目が覚めたら、手術は全て終わりですから……。」
「えっ、最後って?」
「胸の切り傷や破裂した内臓を縫い合わせる手術など、貴方が寝ている間に何回かしているんですよ。」
「そうなんすか……。」
「この手術が終われば、リハビリも出来ますよ……。」
 医者の声が遠くなってい…く…。
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