“伝説の男”の生い立ち
6
目を開けると、白い天井が見えた。
「何処だ、ここは。」
戦闘はどうなったのだろう……? エッセルは?
「気が付いたか。」
ジオルクが自分を覗き込んでいる。
「G。」
「ここは病院だ。お前は、四日間も寝ていたんだぞ。」
「……そうなんすか……。」
シーネラルはぼんやりしていた。
「シィー、ゆっくり休めよ。」
「はい。……そういや、どうなったんすか?」
「何が? ……ああ、団か?」
シーネラルが何を言っているのか分からずにしばし黙ったジオルクは、やっと思いついて訊いた。
「はい。」
「死んだ奴はいない。一番酷い怪我をしたのはお前で、次がエス。まあ、無傷な奴はいないが、皆無事さ。」
「……そうっすか。」
シーネラルは安心した表情を浮かべた。
「一番厄介な奴等は、お前達が相手してくれたからな。」
「そういや、あの爆発は誰が……。」
「エスだ。」
「! ……あ、あぐ……。……エスが……?」
仰天したシーネラルは体を起こしまい、激しい痛みで体を丸めた。
「馬鹿、何やってんだ。」
「吃驚して……。あだだだ…。」
ジオルクは、シーネラルをそっと寝かせてやった。
「確かに衝撃の事実だが、我を忘れるな。」
痛みで青い顔をしているシーネラルを、ため息交じりで見るジオルクだった。
数日経った。シーネラルの病室に、酷い顔のエッセルが現れた。心配そうな顔をしている。
「シィー。」
「何て顔だ……。痛むだろ……。」
「言葉と顔が合ってないぞ、シィー。これでも腫れは引いた方なんだ。」
傷に響かないように、静かに笑っているシーネラル。エッセルが憮然としている。
「悪い、悪い。」
涙を指で拭きながら、シーネラルはエッセルへ言う。
「ふん。」
と、顔を背けるエッセル。
「そう拗ねるな。……それよりよ、あの爆発はどうやった?」
「あれは、ラアソニナの実と種だ。」
「あんなに強い破裂はしないぞ、あれは。」
「俺だって、研究はするんだぜ。迷惑かけたり、仕事をサボったりするばかりが俺じゃない。」
エッセルが反り返った。
「自慢はいいけど、原理は?」
「教えない。毎日毎日、一所懸命に研究したのに、そう簡単に教えられるか。」
「けち臭い奴だなあ……。俺は、何も真似するつもりじゃねえのによー。」
シーネラルは大げさに拗ねて見せた。
「自分だって拗ねてるじゃないか。」
エッセルはにやっと笑う。「ま、シィーだから、特別に教えてやるか。妖気を送り込むんだ。」
「へー。よく思いついたな。お前にそんな頭があったなんてな……。」
「折角教えてやったのに、何だよ、その反応は。」
エッセルは今度は完全に怒って、病室を出て行った。
「ちょっと、からかっただけなのに、短気な奴だな。」
シーネラルは微笑んだ。
「たっく、エスの奴は……。」
ぶつぶつ言いながら、ジオルクが病室に入ってきた。
「エスが何かしたんですか?」
「今、病室へ行ったら、命の恩人のお前の悪口を言ってるんだ。腹が立ったから、たっぷり仕置きしてやった。」
「俺がからかったから……。」
シーネラルはちょっと慌てた。
「聞き捨てならなかったんだ。ちょっとからかわれたくらいで……。」
「エスは、まだ子供ですからね。」
シーネラルが言うと、
「俺はもう104だぞ!!」
エッセルが怒りながら入って来た。「Gに怒られたから謝りに来たのに、馬鹿にしやがって。あー、くそ。いてえ。」
「興奮するから傷に響くんだ。」
シーネラルが言った。
「ふらふら歩いてないで寝てろ。いい加減にしないと、医者に叱られるぞ。」
ジオルクがエッセルを睨んだ。
「何だよ、そんなに俺が嫌いかよ。」
「くくくっ。……いてっ、いててて……。」
シーネラルが顔をしかめながら笑い出した。ジオルクも笑う。
「何が可笑しいんだよ! 気付くのが遅くて悪かったな!」
「く・苦しい……傷口が開くぅ……。」
シーネラルは、はあはあ息を吐きながら何とか笑い止んだ。「違うぞ。エスが勘違いしてるから、可笑しくて……。しかも、そんな子供みたいな台詞を吐くし……。」
「何が勘違いなんだ?」
「お前が嫌いなわけないだろう?」
ジオルクが言った。「それと、シィーもそうだったが、孤児院出は世間知らずになりやすいな。普通な、世間では4ケタ(年のこと。つまり、千歳以上)を超えないと、大人扱いされないんだ。」
「ふーん……。」
「大人扱いしてもらいたかったら、自分の言動を見直すんだな。」
シーネラルが言った。
「分かったよ。じゃ、怒られるから帰る。」
エッセルはそう言うと、病室から出て行った。
「エスは可愛いな。」
シーネラルはクックッと笑った。
「お前もああだったぞ。」
「そうっすかぁ?」
「あそこまで真っ直ぐじゃなかったけどな。」
「……。」
シーネラルは少し赤くなった。
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