“伝説の男”の生い立ち
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髪の毛を切ったシーネラルは、髪の毛を売りに、町へ行った。
「これは……随分長いですね……。」
呆然としている店員。
「手入れが面倒で、ほっといたらこんなになってな。幾らになるんだ?」
「銅貨25枚ですね。」
「ほー。そんなになるのか…。」
「これだけ長いと、何人分ものカツラが作れますので。」
「そりゃ得した。」
シーネラルはホクホク顔で団の野営地に戻った。
「髪の毛、高く売れた。」
「良かったのか? 俺は不安だなー。」
エッセルが言った。シーネラルは大丈夫だと微笑んで見せた。
「……そりゃ良かった。」
そんなシーネラルに、ジオルクが素っ気無く言った。
「Gも皆も心配しすぎっすよ。邪魔な物がなくなった分、動きが良くなって、かえって強くなるっすよ、きっと。」
シーネラルは不敵に笑った。
訓練の時間。
「おらおら、それくらいで休むんじゃないっ。」
シーネラルが怒鳴った。「実際の戦闘じゃ、限界と思ったら、負けなんだぞっ。」
「シィー、俺の相手してくれよ。」
エッセルが言った。
「図々しいことを抜かすな。もっと強くなってからだ。」
「シィー、相手をしてやれ。」
「G?」
シーネラルはぽかんとした。
「エッセルは少し痛い目に会う必要がある。最近俺はこいつの尻ばかり叩いている。もう開放されたい。」
「分かりました。」
シーネラルは、今のジオルクの言葉に、不満そうにしているエッセルを睨みつけた。「こいっ。」
「やあああっ。」
エッセルが殴りかかってくる。
「!?」
『な・なんだ……? こいつ、こんなに早かったか……?』
慌ててかわす。よろけて倒れかかったエッセルの腹を蹴り上げた。
「ぐっ。」
エッセルはそのまま、屈み込んだ。顔をゆがめながら、彼はよろよろ立ち上がる。「まだ、まだあっ。」
「シィー、手加減するな。格差を思い知らせなきゃ、エッセルが大人しくならないだろ。」
「分かってるっすよ……。」
ジオルクの言葉に、シーネラルは冷や汗を流しながら答えた。
『何だ……? 俺は死なない程度に思いっきりやったぞ……?』
根拠のない話だと思っていた髪の毛の長さ。シーネラルはゾッとした。
「どうした?」
「何でもないっす。」
ジオルクの言葉を不安とともに振り払った。
それから、数日後。野営地に余所の盗賊団が攻め入ってきた。
「ジオルク盗賊団だぞ! こいつ等を倒せば、俺等の名があがるってもんだ。気合入れていけ!!」
「敵襲ー!! 敵襲ー!!」「皆ー、武器を取れ! 応戦するぞ!」
敵味方が入り乱れて、あちらこちらで戦いが始まった。シーネラルは、腰からぶら下げている武器を両手で握ると、一番強そうな相手に向かって走り出した。髪の毛の噂は本当で、自分の力が落ちてしまったと自覚していた。それでも、力に経験は勝る筈だと思っていた。
突然の敵襲に皆が戸惑っているのに、右腕が臆する訳にはいかなかった。シーネラルは声を張り上げた。
「こいっ、デカブツ! 俺が相手だっ!!」
相手がこちらをゆっくりと振り向いた。「さあ、こいっ。」
相手が殴りかかってきた。シーネラルはぎりぎりでそれをかわし、跳躍して、相手の顔を武器の猫の爪で薙ぎ払った。切り裂かれた傷から血がほとばしる。しかし、傷は浅かった。今の自分が相手に傷を負わせられるなら、元の自分には格下の相手だったということだ。しかし、今そんなことはどうでもいい。相手の攻撃も何とか見える。
『大丈夫、こいつは倒せる。』
シーネラルは確信した。
散々苦戦したが、何とかそいつは倒せた。今までなら、秒殺とまではいかなくても、楽々倒せていた相手だったろう。髪を切った自分の浅はかさにいらいらしながらも、辺りを見回す。
「エッセル!!」
エッセルがかなり強そうな相手と対峙していた。当然彼には荷が重すぎて、サンドバック化していた。相手がすぐにエッセルを殺そうとしなかっただけ、彼には幸運だったが……。
『くそっ、見落としたかっ。』
疲れている自分が勝てる見込みはない。しかし、他の皆はエッセルを助けに行けそうにない。シーネラルは、血でぬめる猫の爪をしっかり握ると、エッセルの元へ駆け寄った。
「そいつを放せっ!」
「あぁ……?」
男はエッセルを放り投げた。「こんな弱いのがあのジオルク盗賊団の一員とはな……。俺は買いかぶり過ぎていたようだ……。くくくく。」
「そいつは新入りだからな。弱くて当然だ。」
「で、お前は何だ?」
「俺は……俺はジオルクの右腕だ! エスを可愛がってくれた礼、たっぷりとさせて貰うっ。」
シーネラルは切りかかったが、相手の拳の方が早かった。まともに食らって、彼は吹っ飛んだ。
「弱いな。“貴族殺し”。期待外れだぜ……。」
「懐かしい名だな……。」
めまいがしたが、何とか起き上がる。
「おっ、起きる元気があるのか? あの力だけの馬鹿に苦戦していた男が。」
男がまた馬鹿にして笑う。「名ばかりが売れて、その実は大したことない……。最近はそんなのばかりだ……。退屈だな。」
「五月蝿いっ。」
めまいが治まったシーネラルはまた相手にかかっていく。しかし、軽くかわされ、今度は胸を蹴られた。
「髪の毛の噂、お前が実践した。」
顔を歪めながら立ち上がるシーネラルに、男がぽつりと言った。
「!?」
「理解出来ないって顔だな。お前の昔の通り名を知っている奴が、急に短くなった髪を知らない筈がないだろ?」
「……。」
「ジオルク盗賊団のナンバー2は、巨人の子供の背を越す長髪の持ち主だって、誰もが知ってる。だから、今日、来たんだぜ。」
「何だと……。」
「今なら、急に弱くなった体に慣れていないからなあっ。」
相手が、剣を引き抜き、シーネラルの胸を切りつけた。
「があっ。」
「名が売れるのも考え物だぜ? なあ、“貴族殺し”。」
「ぐうっ。」
蹴倒されたシーネラル。右足を、何度も何度も踏まれた。「がっ、うぐっ。」
ボキッ。足の骨が折れた。それでも相手は踏むのを止めない。
「はははは……どうだ、いてえだろ? 早く殺して欲しいだろ?」
「……誰がだっ。」
「まだ、生意気な口をきけるのか。ほらほら、これはどうだっ。」
頭を思いきり蹴られた。剣の峰の方で嬲られるシーネラル。苦しむ彼を楽しそうに見下ろす男。「くくくく、ははははは。簡単には殺さないからなあっ。」
「シィー、を、は・はな・せ……。」
エッセルが立ち上がった。しかし、同じ所に立っていられない。
「雑魚は引っ込んでな。」
エッセルは殴られて、吹っ飛んだ。「俺は、“貴族殺し”で遊んでいるんだからよ。」
「エスに、手を出すな……。」
シーネラルは、力を振り絞って、相手の足に猫の爪を食い込ませた。
「くっ。……まだそんな元気があるのかよ。」
男がシーネラルの左腕を切り飛ばした。
「うわああああっ。」
「よし、そっちもだ。」
男が剣を振り上げ、右腕を狙った。「うおっ!?」
ばあんっ。男の右目の辺りで、何かが破裂した。男は顔を抱え込む。ぼんっ。どむっ。続けざまに男の体のあちこちで、何かが爆発した。
「ぎゃあああっ。」
『何だ……?』
薄れそうな意識の中、シーネラルは何が起こったのか、確認しようとした。しかし、意識が何処かに引っ張られていく……。
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