真志喜家

6 お母様への折檻 父/母

「あれから、どんだけ武志に叩かれたんだよ?」
 部屋でぐったりしているわたしの前に、お母様が現れた。「痣増えてんじゃん。」
 お母様が側にやって来て、お尻に触れてきた。
「ちょ、痛いから、止めて下さい!」
「ひろみさあ、あたしに失礼な態度を取ったの忘れてる? ほんとだったら100叩きなのを、これで済ませてやろうという寛大な措置なのに、そんな態度取るんなら、治った後に、伸ばした利子付きで120回叩くよ?」
「その方がよっぽどいいです。」
「え? 叩かれる方がいいの?」
 お母様が吃驚している。そりゃそうだろうと自分でも思う。だが、お尻叩きが好きなんだからしょうがない。
「同じ痛い思いなら、痣が出来た所を触られるより、ぶたれる方がいいです。」
「そ・そう。」
 お母様が戸惑っている。もっと何か言わないと怪しいかなと、わたしは思った。
「だって、痣が出来た痛い所を触るなんて、なんか苛めとか虐待っぽいし……。でも、お尻叩きならお仕置き……じゃなくて、折檻なので。」
 無理あるだろうかと思いつつ言ってみた。
「あー、言われてみると、そんな感じするわ。躾ってより、陰湿な苛めっぽい感じだね。叩くよりいいかなーとしか思ってなかった。」
 お母様に頭を触られた。「あたしとして、お仕置きでも、折檻でもいいんだけどね。正しくは折檻だけどさ。でも、それ言うなら、ルトーちゃんのあの変な喋りが、日本語として正しいかって言われたらねぇ。」
「そうですよね……。」
「まあ、それ言うと、ルトーちゃんに、“屁理屈を言うでない”とか言われて、お尻叩かれるけどね。」
 お母様が楽しそうに笑う。「屁理屈言ってんのどっちだって話。」
「言葉自体は不満ある感じなのに、楽しそうですね。」
「だって、あたし、あの偏屈なルトーちゃんを愛してるもん。惚れた弱味なんだ。」
 惚気られてしまった。「ま、あんたの言葉に納得したから、お尻治ったら、120回叩きして、それで許してやるよ。」
「はい。」
 不審に思われないで済んだようだ。
 その後、お母様がメイドさんを呼んで、手当てをして貰った。殴られたのと変わらなそうな腫れた頬に湿布を、お尻に薬を塗ってくれた。染みて痛かったが、何もして貰えないよりいい。
 お母様とメイドさんにお礼を言ったわたしだった。


 夕飯の後。お母様に連行され、わたしはお父様の部屋にいた。実は、鞭で叩かれたりしそうなので、お祖父様の花壇に近づいて酷く叩かれた今回の事は黙っていようかなと思っていたのだが……。お母様に、
「それ、あの超痛いケインで、15回とか叩かれて死ぬ奴。勿論パドルもたっぷりとされた後ね。今回の痣が可愛いくらいになるかも。」
 と脅されたので、諦めて付いて行った。隠し事の罰が重すぎやしないだろうかと思うのだが、多分その恐ろしい罰の経験者であろうお母様の言葉に反論しても、意味がない。やったのはお父様なのだから。
 そして。
「近づいてはいかんと忠告したではないか! そんな尻になるまで叩かれるとは。何故わたしの言う事をきかぬのだ!」
 お父様に怒鳴られた。
「怒鳴ってる……。」
「いやまあ、ルトーちゃんも人間だから、冷静になるばっかでもないんだよ、きっと。」
「その言い方からすると、お母様は怒鳴られた事、無いんですね……。」
「うん。初めて見た。貴重なルトーちゃん。」
「お前達は、何の話をしておるのだ……。」
 お父様が眉間に手を当てて、溜息をついた。
「あ、冷静に戻った。ここで、更にキレないとこがルトーちゃんだ。あたしだったら、馬鹿にすんなってキレるのに。うん、かっこいい。」
 お母様が目をハートマークにしている……。かっこいいという言葉には同意出来ないが、言いたい事は分かる。
 お父様がお母様を睨みつけた。
「ザン、ひろみの躾の邪魔をするなら、出て行きなさい。」
「ご免なさい。声を張り上げるルトーちゃんという、大変に貴重なものが見られたから、つい。」
「わたしは物ではない。」
 お父様がお母様のお尻を叩いた。こういう時、1発というイメージがあるのだが、お父様は左右のお尻を1回ずつ叩く。お尻は二つでセットなのだから、当然のような、抜かりないというか。
「言葉の綾だって。そんな怒らないでよ。」
 お母様はお尻を撫でながら言う。音からすると、結構痛かったのだろう。
「それだけではない。邪魔するからだ。」
「もうしないよー。」
 お母様の言葉を受けて、お父様がわたしを見た。
「それで、どうしてお前はわたしの言う事をきかぬのだ。」
「いやだってお父様、忠告はしたぞ、後は好きにしろ的な言い方してたし……。」
「酷い目に合いたかったのか。」
 お父様が理解不能という顔になっている。
「駄目と言われたので、かえって燃えたんですよー。禁止じゃなかったから、言う事をきかなかった罰としての折檻もないかなって。」
 本当はそれを期待してもいたのだが、お祖父様に思った以上に叩かれて、お尻が酷い事になってしまった。だからもうぶたれたくない。充分だ。
「押すな押すなが前振りの、お笑い芸人じゃあるまいし。」
 お母様にツッコミを入れられてしまった。
「文脈を読み取れないのが、今の子供であったの……。分かりやすく言っておくべきであった。」
 お父様が溜息をついている。
「ゆとり扱いされてる! 違いますよ。重箱の隅をつつけるって思っただけですよ。はっきり禁止って言われてないって、言い返せるかなって。」
「ゆとりの方が良かった気がするような事、言ってるんだけど。」
 お母様が目を丸くしている。
「頭がいいのか悪いのか、分からぬ。」
 お父様は何回目か分からない溜息をついた。
「馬鹿でいいんだよ。賢かったら、たけ……お義父様にも、ルトーちゃんにも叩かれるような事はしないからね。」
 お母様は、お父様の前では、お祖父様の名前を呼び捨てしないように、気を付けているらしい。お父様が、“たけ”のあたりでじろっと彼女を睨んだ所からすると、呼び捨てに関してお尻を叩かれるのかもしれない。それでも本人の前で平然と呼ぶあたり、色々ありそうだ。
「わたしはまだ叩いておらぬが……。後でたっぷりと打った方が良さそうだ。」
「うっ……。」
 お父様が近づいてきて、顔を掴まれた。
「しかし、父上も花壇に近づいただけで、こんなに腫れる程も顔を打つとは……。娘御に対して、厳しすぎるのではないだろうか。」
 お父様は女の顔は打たない主義なので、こんな言葉が出るのだろう。わたしが男だったら、特に反応はなかったのかもしれない。
「いや、これは……。」
「ああ、それは違うよー。お義父様に突き飛ばされたひろみが、お金持ちっぽくない、下品とか煽るから、ぶちキレて、ばっちーんと。びんたとは思えない、いい音だったよ。」
「突き飛ばすのは、下品なのだろうか。品がある行為とは思わぬが。」
 わたしの顔から手を離し、お父様が悩んでいる。
「下品ってか、「子供っぽい。」」
 後半がお母様と重なってしまった。
「気に入らなくて突き飛ばすとか、まだ感情の言語化が下手で、手が出ちゃう幼稚園児みたい。」
「近づくなって怒鳴るくらいが、ぎりぎり大人の対応って気がするんですよねー。」
「まあ、概ね同意するが、お前達は父上を侮辱し過ぎだ。ザンは今100叩き、ひろみは尻が治った後、200回を2回だ。1回目は罰板と細鞭を多めにする。2回目は尻の状態を見て、次の日か1日開けるか決める。」
 お父様が、ソファに座りながら言った。
「ぎゃー、ルトーちゃん、ご免なさい!」
「ひえ……。」
「駄目だ。とりあえず、ザンは今だ。来なさい。」
 お父様が腿を叩く。ちなみに、お父様の部屋に来てから、わたしはお尻が痛いのでずっと立っている。
「はい……。」
 お母様は肩を落とし、大人しくお父様の膝の上に乗った。逆らったりお願いしても100追加と脅されるだけなので、わたしと違って、無駄なやり取りはしないようだ。
 所で、わたしは見ていていいのだろうか。これから折檻があるわけでもないわたしは、ここに居る必要がない。だが、それを口に出して、ひろみは部屋に戻りなさいと言われるのも嫌なので、わたしは黙っていた。
 生のお仕置き……折檻が見られるチャンスなのだ。今のは地の文で口に出してないが、折檻と言う癖をつけないと、お仕置きと言ってしまい、お父様に叩かれる。基本的にはお尻を叩かれたい。だが、充分に叩かれた後だったら、追加で叩かれたりしたくはないので、折檻を覚えた方がいいだろう。
 などと考えているうちに、お母様のお尻叩きは始まっていた。わたしが叩かれるのと、大して変わらないような強さで叩かれている。中学生と成人女性が同じ強さというのは何だか納得し辛いが、お母様は中学生と大して変わらない身長という事を考えると、それでいいのかもしれない。むしろデブで大きいからという理由で、わたしが強く叩かれないだけいいと思おう。
 パンツの上からビシビシと叩かれているお母様は、声一つたてていなかった。パンツに覆われていない部分は、染まってきているのに……。
「お母様は、わたとし違って、声を出す事も許されないんだ……。」
 黙っているつもりだったのに、つい声に出てしまった。
「いや、別に。まだ裸のお尻じゃないのに喚くのは、プライドが許さないだけ。」
 驚かれるかと思ったのに、冷静な答えが返ってきた。ただ痛みに耐えているようで、声が小さめだ。
「しまった。ひろみに戻れと言うのを忘れておった。」
 お母様と違って、お父様は慌てている。お母様のお尻を叩くのに夢中で、気づいていなかったようだ。
「あたしは、見られててもいいけどね。」
「「何故……。」」
 今度はお父様と被ってしまった。
「ルトーちゃんは誰にでも厳しいんだよって、ひろみに分からせてやれる。引き取った時に、毎日お尻真っ赤になるまで叩かれてたみたいな話はしたけど、あくまで話だけ。本当かどうか、ひろみには分からない。」
「証明になると。」
「疑ってるわけじゃないけど、お母様がそう言うなら、見させて頂きます。」
「何か邪な感情を感じるような……。」
 まさに邪な気持ちが漏れていたのか、お父様がわたしを疑わしそうな目で見ている。
「うっ。」
「いいって。それより早く続き―。待ってる方が辛いよ。」
「お前が良いなら続ける。ただ、ひろみの折檻は厳しくしよう。」
「えっ!?」
「あはははー。当然だね。」
 お母様が笑っている。だが、折檻が再開されて、すぐに静かになった。
 パンツを下ろされたので、お母様の小さな裸のお尻が見えた。ピンク色に染まっている。白人のように肌が白いので、対比が美しい。ハーフらしいが、背が低く凹凸が少ない所を除けば、白人にしか見えない。お母様の遺伝子は、スパ的にはいい仕事をしたのだろう。
 お父様の手が、お母様のお尻に振り下ろされる。プライドによって声を出さないと言っていただけあって、お母様は10発ほどまでは黙っていた。しかし、とうとう声を上げだした。
「ルトーちゃん、痛いー。」
「残り40だ。耐えなさい。」
「むーりー。痛いー、許してー。」
「駄目だ。100と言ったのだから、100まで叩く。」
 痛がり方に余裕があるように聞こえてしまうが、それまで大人しく叩かれていたのに、手や足をバタバタさせたりしているので、本当に痛いのだろう。
「ほんと痛いー。もう無理ー。」
 そう言いつつも、お尻を庇ったりはしない。庇っても手を叩かれるし、庇った罰なのか10回は強く叩かれるので、いい事は何もない。それが分かっているからなのかなとわたしは思う。
「残り20。強くするから耐えなさい。」
「やだけど、はいー。」
 ばっちん、びっちんと強めに叩かれている。「痛いっ、痛いっ。」
 最後は大分暴れていたが、お父様は顔色一つ変えず、確実にお尻に手を当てるのだった。


 お父様の膝から降ろされた後。
「あー、痛かったぁ。何回も叩かれてるのに、慣れないわぁ。」
「反省したか。」
「したよ。もうお義父様の悪口は言いません。」
「宜しい。」
 お父様は満足気に頷いている。お母様は目をそらし、お尻を撫で始めた。内心は反省なんてしてないし、これからも本人の前では呼び捨てにするのだろうなと思った。ただ、お父様の事は愛しているので、言う通りに出来るならしたいのかなとも思った。
 お父様がこちらを向いた。
「無遠慮に最後まで見ていたひろみへは、きつく罰を与えねばならぬ。」
「ひえっ。」
「3回目として50追加する。」
「えええー。そんなーっ。」
 強く叩かれたりすることを一切しなかったお母様と違って、わたしは性懲りもなく叫んでしまった。
「不満そうだの。100追加で、3回目の折檻は150だ。道具は使わぬが、痛くしてやろう。」
「ぎゃー。」
「ぶははははっ。」
 お母様がお腹を抱えて笑っているが、とんでもない事になってしまったとわたしは震えるのだった……。



20年4月1日
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