真志喜家

3 折檻ノート 父から

「今日のお仕置き……じゃなくて折檻は、裸のお尻を……、えっと30回くらいかな。」
 お尻を叩く夫婦の娘になってから、3日が過ぎた。お尻叩きを受ける夢が叶って嬉しい日々だ。折角だから、折檻をメモしていこうと決めた。
 100円ショップでいくつか買ってきた、可愛いノートのうちの一つの表紙に、折檻ノートと書いた。今の所は毎日お尻叩きを受けているので、全部書いておいた。ただ、両親とも、最初の日以外は数を数えたり、何回叩くと宣言したりしないので、正確な数が分からない。しょうがないので憶測で書いている。
「次に叩かれる時は、頑張って数えてみようかなー…。」
「その必要はない。」
「わっ!?」
 いきなりお父様の声がしたので、わたしは悲鳴を上げてしまった。しかも、喋った内容を聞かれている。本来なら悲鳴を上げたことにより、かえって落ち着くわたしの心臓は、バクバクと音を立てたままだ。
「さっきの折檻は20回だ。30回ではない。」
 お父様は当然のように、わたしの折檻ノートを手にしている。
「いや、ちょ、それは……。」
 どうやって言い訳しようかと焦るわたしの耳に、意外な言葉が聞こえてきた。
「折檻の記録をつけるとは。感心だ。」
「……え?」
 『感心? 感心って言った? 何で?』
 何でこんなものをつけているのだと言われるかと思ったのに。
「自分の受けた罰を振り返り、しっかりと反省しようとするその心。わたしはそれに感心しているのだ。」
 都合よく解釈してくれたようだ。いや、受けたお尻叩きの記憶をしっかり書き留めようとした事はお父様の言う通りである。動機が不純なだけで。
「そ・それは有り難う御座います……。」
「ただし偽りは良くない。両手を出しなさい。」
「嘘を書いたわけではなくて、数が分からなくて……。」
 20回のお尻叩きを30回と書いた罰に手を叩かれるようだ。
「早く手を出しなさい。」
「数が分からなかっただけなのに……。」
 あえて少なく書いたのなら罰も分からなくはないのにと、いつまでも不満を呟いていたら、両腕を引っ張られて無理矢理出された。そして、両手の甲を10回ずつもぶたれた。「痛いー……。」
「言う事を聞かないので、倍の10回ずつにした。尻も叩く。全部で50回。スカート8、下着10。残りは?」
「えっ、ひ・引き算……。えっと、50から18引く……。32回。」
「宜しい。」
 お父様の膝に乗せられ、言われた通りに叩かれ始めた。
「何で、こんなに叩かれないと駄目なんですか!?」
 8回なんてすぐ終わる。スカートをめくられた。
「分からなかったら、聞きなさい。自分が悪くないとばかり言い訳しない。間違いを認めなさい。これが50回の理由だ。」
 10回が終わり、パンツを下ろされた。裸のお尻に手が飛んでくる。やっぱり直接は痛みが違うなと思う。
 それはともかく。
「ええー……。だって、今は何回だったのかって訊くの変じゃないですか。数だって、わざと多く書いたわけでもないし。」
「謝るどころかその態度……。100叩き追加だ。」
 バチンッ、バチンッとかなり痛いのが飛んできた。
「ひえっ。痛っ、痛い!」
「反省しない悪い娘には、厳しい罰が必要だ。」
「痛いっ、お父様、ご免なさいーっ。」
 わたしは慌てて謝った。
「最初からそうすれば良いのだ。」
 叩き方が通常に戻ったので、わたしはホッとする。
「はい……。」
 内心は不満があるままだが、150回も叩かれる事になってしまったので、黙ったまま我慢する事にした。800回以上も叩かれているスパ動画を見た事もあったりするわけだが……。150回ですら今までと数が違い過ぎるので、耐えられる自信がない。自分で叩いてみた時は100回でも泣く事も無かったが、人に叩かれると、少なくても痛いのだ。冒険はしないでおく。
 と痛いのを我慢しながらこんな事を考えていたが、段々余裕が無くなってきた。
「お父様、痛いです……。」
「罰になっているようで良い事だ。残り54回、耐えなさい。」
「まだ100回にもなってなかった……。痛いー。」
 喋っている間に100は越えたが、先が長い。時間にしたら短くても、段々蓄積されていく痛みが辛い。「痛みが二重になってる。何これ。」
「ぶつけたりしたら、その瞬間だけでなく、暫く痛みが残るであろう。」
 お父様が手を止めた。「ほれ、叩くのを止めたが、今も尻が痛いままの筈だ。」
「はい……。」
 確かにお尻がジンジンと痛んでいる。
「その残っている痛みと、叩かれる痛みで2重になるのだ。」
「そうなんですね。」
 わたしはお尻を撫でようとしたが、その手を掴まれて、手の甲をぴしゃりと叩かれた。先に叩かれているので、手も痛い。
「説明の為に止めただけで、まだ折檻は終わっておらぬ。撫でてはいかん。」
「ご免なさい。」
 残りが再開された。両手の痛みとお尻の2重の痛みで、4つの痛みがあるのだが、今まではそんな体験はなかった。これからはこれが当たり前になったりするのだろうかと思うと、中々に辛い。「痛いよー。お父様、許して下さい。」
 お尻叩きが憧れだった頃には、こんな言葉が出るのは300回くらいだったのに、現実では、その半分もいかないうちに言う事になるとは。
 そんな事に驚いているわたしに、お父様が冷酷な宣言をする。
「駄目だ。残り20回、強くする。最後の10回はとても痛くするから、覚悟するように。」
 その言葉に驚く暇もなく、びっちん、ばっちんと言葉通りに強いのが飛んできて、わたしは声を上げる。
「痛いっ、痛いーっ。」
「最後の10回だ。」
 お尻を叩き潰すつもりなのではと思いたくなるくらい強いのが飛んできて、わたしは泣き叫んだ。


「いいと言うまで、そこに立ってなさい。動いたら打つ。」
 初めての100叩きを超える折檻が終わり、わたしはソファに座っているお父様にお尻を向けた状態で立たされた。場所が部屋の隅ではないが、コーナータイムという奴だ。本来、お仕置きを受けた子供の気持ちを落ち着けさせたり、反省を促す為にするものの筈だが、動いたら打つという言葉によって、罰の続きになった。
「お尻撫でたら駄目ですよね……。」
「わたしは動いたら打つと言ったぞ。」
 聞くまでもないと言わんばかりの冷たい言葉に、わたしは身をすくめる。
「はい……。」
 お尻がかなり痛いので撫でまわしたいし、涙が零れているので拭きたいが、更に叩かれたくないので、我慢して立つ事にした。
 『たった20回+150回で、こんな事を考える事になるのか……。現実のお尻叩きは辛いなぁ。……だけど、もう二度とされたくないと思わないのが、不思議よね。』
 つい首をかしげてしまって、はっとしたが、叩かれなかった。
「何故、首をかしげておるのだ。」
 お父様からすれば脈絡がないので、不思議に思われてしまった。
「い・いえ……。あっ。」
 どうしようと焦ったが、思いついた。「150回も叩かれたら、こんなに痛いのかって思っていたんですけど……。そもそも、今日って30回だと思っていた20回があったので、170回叩かれたんですよ。」
「そうだの。それで?」
「2回目のお仕置き……。痛っ?」
 素早く左右のお尻を叩かれた。
「折檻と言いなさい。」
「はい。そうでした。……って、まだその言葉に慣れてないんですよ……。叩く事ないじゃないですか……。」
「反抗的だの。また100叩きが必要なのだろうか。」
 お父様にジロリと睨まれてしまった。
「い・いえ……。ご免なさい。文句はないです。」
 何回でも叩かれるんだなと、わたしは身をすくめた。
「ふむ。……それで。」
「えっ? ああ、えーと。あ、せ・折檻は2回目なわけですけど……。1日に何回も折檻があるのかなと思ったんですけど、今、解決しました。」
「悪ければ何回でも打つが……。中学生のうちは、200回までにしておこうと思っておる。」
「200回……。中学生のうち?」
「今日は170だ。先ほど反抗的な態度を続けておったら、100追加になるが、今日は30しか叩けぬ事になるの。」
「はい。」
「その場合は200を超す事になるが、構わず打つ。」
「ひえー。」
「その後、懲りずに悪さをするようであれば、さすがに明日にするが。」
「はい……。」
 お母様が、毎日真っ赤なお尻になって泣いた日もあると言う位だけあって、無かった事になったりしないらしい……。
「高校生になったら、300までに増やす。」
「高校生でも、お尻叩きがあるんですね……。」
「当然ではないか。18歳までは児童だぞ。」
「ってことは18歳、高校卒業までは、お尻を叩かれるんですね。」
 短いなと思う。今12歳。6年間だ。子供であるわたしにはかなり長く感じる年数ではあるのだが、お尻を叩かれる期間と考えると、途端にとても短く感じる。
「大人になる20歳までのつもりだが、お前がそれまでに良い娘になっておれば、18かもしれぬの。」
 2年延長された。
「8年か……。もっと早く、このうちの子供になりたかったな。いや、生まれてれば良かったのに。」
 わたしはぼんやりと呟く。「お父さん達ともう会えなくて悲しいけど……。でも……。8年なんて短いよ。」
 複雑な気持ちのまま、俯いて涙を零す。物足りなくて切ない気持ち、家族をないがしろしてしまうお尻叩きへの欲望への恐怖がまぜこぜになっていた。
「今の話の流れで、そう思うのか。」
 お父様の言葉で我に返る。心で思っただけのつもりだった。
「えっ、いやっ、あの……。えーと。」
 先ほどまでの気持ちが吹っ飛んでしまった。今度こそお尻叩き好きがバレたのではと焦るわたしだったが……。
「反抗的な態度は良くないが、厳しい躾を望む姿勢は感心する。良い事だ。」
 お父様がニコリと嬉しそうに笑った。頭を軽く撫でられた。またしても都合よく解釈してくれた。自分の運の良さにホッとしつつ、胸をなでおろす。
「は・はい……。お尻は痛いですけど、お父様が厳しいのは嬉しいです……。」
「そうか。そうか。お前は娘になったばかりだから、尻叩きの折檻に慣れるまでは、反抗的な態度や嘘のような特に悪い場合を除き、少なめに叩こうと思っていたのだが、そんな気を使う必要はなかったの。」
「えっと……。」
 今まで数が少なかったのは、お尻を叩かれた事の無かったわたしに気を使ってくれていたらしい。
「これからは、むしろ増やす勢いで、たっぷりと打ってやる事にしよう。うむ、ザンの尻を叩いていた日々を思い出すの。ザンはあの性格だから、多めに打ってやっていたのだが……。ひろみもそうしてやろう。」
「ええっ。いや、あの、その。ご遠慮願いたいです……。累計170回も叩かれたお尻の痛みからすると、それで十分というか。」
「何を言う。今更遠慮など。」
 お父様は楽しげに笑う。「道具も使って、赤い尻にしてやる。なんと殊勝な娘であろうか。腕が鳴るの。」
「えええええー……。」
 ちょっとした欲望の漏れから、とんでもない事になってしまった。お父様の恐ろしさに震えるわたしであった。



20年3月29日
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