真志喜家

2 初めての折檻 父から

「そうそう。あたしとルトーちゃんの事は、お父様、お母様って呼びな。」
「うん。分かった。」
「それと、ちゃんとですますで喋りな。」
「はい。分かりました。」
 わたしは神妙に返事をする。
「あんたが覚えてるかは知らないけど、うちにはあんたの上になる子供が、二人いるよ。聡坩お兄様が高1、瑠美絵お姉様が中2ね。あんたは中1だよね。」
「はい。」
「3番目に娘になった子供が、上からも3番目。分かりやすくて良い。」
「そうですね……。」
 わたしはお父様になったタルートリー伯父さんの顔を見た。「改めて聞くと、タル……おじ……じゃなくって、お父様って、変な喋り方……。」
「子供の頃、父上が時代劇を見ていて……。わたしはあの喋り方に憧れたのだ。」
「時代劇の人って、そんな喋り方でしたっけ?」
「長年話しているうちに、わたし流の独自の言葉遣いになってしまったのだ。」
「成程ー。」
 なんて雑談をしながら、屋敷までの道を過ごした。


 巨大な屋敷に感動した後、わたしはお母様に連れられて、自分の部屋に来た。
「ここがあんたの部屋ね。」
 わたしの部屋は、広々としていた。学習机、本棚などといった学生らしい調度品の他に、ソファとテーブルまで置いてある。壁紙と家具は木目で統一されていて、性別を感じられなかった。
「おっきい部屋……。」
「そうかね? むしろ小さくない?」
「お金持ちのお母様からすると、狭いかも知れないけど、わたしからすればとても大きいです。」
「そりゃそうか。」
 部屋を見回していたわたしは、好奇心を抑えられなくなって、ドーンと鎮座しているお姫様ベッドに近寄った。
「部屋はシンプルなのに、ベッドだけお姫様ベッド! カーテンついてる!」
 ベッドについているカーテンに触れた。
「本当は、天蓋付きベッドっていうんだよ。普通のベッドにするか迷ったんだけど、ベッドぐらいはお嬢様っぽくした方がいいかなと思って。」
「わぁ、嬉しいです。お母様、有り難う御座います!」
「その喜びようだと、他の家具もピンクとかにした方が良かったかね。」
「……その方が良かったです。」
「そっかー。あたしはそういうの好きじゃないから、無難な木目にしたんだよねー。あんたの好みまで知らないし。」
 頭を軽く叩かれた。「まー、この部屋で我慢しな。」
「はい。」


 実子達とは特に問題も起きずに挨拶が出来たが……。わたしは別棟に住んでいるお父様の両親の部屋にいた。
「どうでもいいわ。二度とわたしの前にその醜い体を出さないでくくれば、それでいいわよ。」
 お祖母様が冷たく言い放った。かちんときて嫌味でも言い返そうとしたら、お母様が飛び出した。
「千里ママ、どうしたの!?」
 お母様が慌てている。
「庶民の子供と口をききたくないの。」
「あたしも庶民育ちだけど、千里ママは欲しかった娘だって言って、可愛がってくれるじゃん。」
「別れて暮らしていただけでしょ。貴女が木村の血を引いている事に、変わりは無いわ。」
「そうかもしれないけど。」
「それを言うならわたしもだがな。真志喜家は別に……。」
 お祖父様が素っ気なく言った。
「武志さんはいいの。お父様が認めたんですもの。」
 お祖母様はお祖父様に気を使った顔で微笑む。それからわたしを睨んだ。「生まれや育ちを別にしても、その醜い体は問題外よ。」
 お祖父様、お父様、お母様の視線まで突き刺さってきた。
「確かに醜い。」「痩せないと健康に良くない。」「デブなのは擁護出来ないなぁ。」
「す・済みませんね……。」


 屈辱の面会が終わり、わたし達は、お兄様とお姉様がいる居間にやってきた。
「千里ママが、ああいう事言うとは思わなかったなー。幻滅。」
 愚痴りながら、お母様がソファに沈む。
「お母様、どうしたんですか?」
 瑠美絵お姉様が訊き、お母様が説明する。
「朝の走りを散歩に変え、ひろみを連れて行こう。運動不足の様だから、それだけでも、大分痩せるであろう。」
「え……。」
 わたしは戸惑う。
「あー、それいいね。」
 お母様が頷いた。「ルトーちゃんはね、毎朝、走ってるんだよ。それを散歩に変えて一緒に歩こうだって。」
「いや、解説してくれなくても、何言われたかは分かりましたよ。そうじゃなくて……。早起きして散歩とかめんどくさいです。別に痩せなくても……。」
「うっわ、生意気な上に、可愛くない―。」
 お母様が顔をしかめている。「こら、ひろみ。そういう態度は良くないよ。」
「分かってる事を説明されると、馬鹿にされた気がして……。違うってのは分かってるんですけど、ついイラっとしちゃって。」
「プライド高すぎだろ。」
 聡坩お兄様に、呆れた声で言われてしまった。。
「イラっとしたとしても、それが思い込みだって分かってるんなら、黙っていればいいのに。」
 瑠美絵お姉様も呆れている。
「それが出来ないんですよねー……。」
「……では、出来るようになるよう、躾ていくか。」
 お父様が静かに言った。「ちょうどいい。まだ折檻部屋を見せていなかったし、行くとしよう。」
 ソファから立ち上がったお父様が、別のソファに座っていたわたしの側に来た。他の皆が少し怯えているように見えた。
「え、折檻……部屋? 何か、物凄く恐ろしげな響きなんですけど。」
「行けば分かる。早く立ちなさい。」
「はい……。」
 行きたくなかったが、お父様の顔が怖かったので、嫌だとも言いにくかった。


 ドアからして他の部屋とは違う雰囲気の場所に来た。
「ここが折檻部屋だ。ほら、中へ。」
 背中を押されて、わたしは中へ入った。壁にいくつものケインやパドルなどの鞭がぶら下がっていたり、跳び箱の一段目のような長い物に4本脚が生えた謎の台があったりして、怪しい雰囲気の部屋だった。
 お父様は壁にかけられた革製パドルを手にした。
「これらの道具を使って、尻を叩く為の部屋だ。」
 謎の台に触る。「これは拘束台だ。ここに上半身を乗せる。場合によっては拘束する。」
「お仕置きってか、刑罰みたい……。」
 体が震えている。
「我が家では、仕置きとは言わない。仕置きは教師など公の職についている者が行う罰だ。家庭で行う罰は折檻と呼ぶのが正しい。だから、我が家で行われる罰……主に尻叩きは折檻と言いなさい。」
「折檻……。」
「そうだ。さあ、ここに上半身を乗せなさい。」
 お父様が拘束台を軽く叩く。
「えっ……。」
「教えて貰った相手に喧嘩を売るような、悪い態度は改める必要がある。平手60、罰板5を行う。」
「早速お仕置……じゃなくて、せ・折檻って事ですか。」
 『まだ、初お尻叩きをされる、心の準備が整ってないのに!』
「そう言うとるではないか。10数えるうちに来なければ、平手と罰板の数を増やすぞ。」
「うぇっ。」
 65回は、想像上ではよくされていた300回のお尻叩きからすると少ないが、初めてなので、未知数だ。最初から増やされる危険を冒す勇気は持てない。わたしは慌てて、拘束台とやらに体を持たせかけた。
 『初めてのお尻叩きは、膝の上が良かった……。』
 これからも、今している姿勢BOばかりなんだろうか。膝の上に乗せられて叩かれる暖かいOTKはないのだろうかと、悲しい思いを抱いていたわたしの耳に、お父様の言葉が聞こえた。
「では、始める。」
 ズボンの上から、ぱんっ、ぱんっと叩かれ始めた。思ったより痛くなかった。
 『あんまり痛く無いな。これなら、増やした方が良かったかな……。いやいや、パンツの上、裸のお尻と脱がされる度に辛くなる筈。沢山叩かれたらその分、痛い筈だし。』
 肩透かしの気分を味わいつつも、自分に警告していると、ズボンを脱がされた。
「娘御がズボンは好かぬ……。スカートを履くべきだ。」
「はあ……。」
 見た目紳士なのに、エロオヤジみたいな事を言うなぁと気が抜けた。ちょっと残念に思っていると、手が飛んできた。痛い。まだ声が出る程ではないが、結構痛い。ズボンは別に分厚い素材ではないのに、こんなに違うのかと思った。
 痛いのを我慢していると、とうとうパンツを下ろされた。
「これからが本番だ。痛いから覚悟しなさい。」
「は・はい……。」
 ドキドキしていると、ばっちんと痛そうな音とともに手がお尻に振ってきた。「痛っ。」
「痛いだろう。これが尻叩きの痛さだ。」
 ばっちん、びっちんと叩かれる。その度にわたしは声を上げた。
「痛いっ、痛いっ。すっごい痛いっ。」
 大した事無いと思った自分の馬鹿さ加減を後悔する間もなく、痛みがお尻に振ってくる。「痛いっ、痛いよーっ。」
「そうだろう。反省しなさい。」
 たった60回の筈なのに、いつまでも叩かれている気がしたが、終わりはやって来た。「さて、次は罰板だ。これもとても痛いぞ。5回だから頑張って耐えなさい。」
「もうお尻がとても痛いです……。許して下さい。」
 半泣きになりながら、わたしはお父様に訴えた。拘束台だが、今は特に縛られてもいないので、体を起こそうとすると、背中を押されて元の姿勢に戻された。
「罰板5回で終わりだ。」
 お父様は冷酷に宣言する。
「ひいいい。」
 自分がこんな少ない数で、情けない声を出す事になるとは思っていなかったが、リアルなお尻叩きは想像以上の痛さだった。
「さあ、行くぞ。」
 バシーンッとスパ動画で聞いた事のあるような音が響き、お尻の表面に痛みが響いた。
「いだいっ。」
「残りは続けていくぞ。」
 腰のあたりを抑えられ、革製パドルが4回振り下ろされた。わたしは悲鳴を上げながら、とうとう泣き叫んだ。そうして、初めてのお尻叩きは終わりを告げたのだった。


 『こ・こんなに痛いなんて……。これが本物の痛みなんだ……。』
 溢れる涙を拭いながら、わたしはそっとお尻に触った。
「いつも道具を使うわけではないが、これが我が家の折檻だ。もう痛い思いをしたくなければ、良い子にする事だ。」
 お父様に頭を撫でられた。
「は・はい……。」
 『手はいいけど、道具はもう受けたくないな……。痛すぎる……。』
 お父様に優しく撫でられながら、そんな事を考えるわたしだった。



20年4月3日
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