レレスト高校

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  6 親友と理事長の秘密  

 寮に戻ってきた。かなり遅くなって、門限などをとうに過ぎていたが、理事長が連絡をしておいてくれたので、お仕置きを受けなくて済んでホッとした。理事長に叩かれて痣が出来たお尻を叩かれるなんて地獄だった。
 部屋に入ると、ザンから質問攻めにあった。理事長から、キヨテル先生がわたしを好きなことは口外しても構わないが、その場合、それに伴うもろもろについて学校内に関しては自分で責任を取れと言われた。つまり、騒がれたりしたくなかったら、黙っていろと言うことだ。
「誰にも言わないなら……。」
「ひろみ以外に友達がいないあたしが、誰に言うってのよ。24時間、ほぼずっと一緒にいるんだから、そんなこと出来ないの位、分かってるでしょ?」
 ザンの気分を害してしまったらしい。
「数学と英語はクラスが違うし……。」
「その二つの授業は毎日あるけど 1日の中であたし達がばらばらになるのは、それだけなんだよ。どうして、そのクラスの中に、ひろみより仲のいい人がいるって思うのさ。そんなにあたしって信用されてなかったの? ショックだよ。あたしはひろみのこと、親友だと思ってるのに。」
 ザンの言葉にわたしは衝撃を受けた。わたしが考えているより、彼女にとってわたしは重要な人物だったらしい。
「ザンって、そんなにわたしを大事に思ってくれてたんだ……。悪戯に巻き込むことが出来る便利な存在くらいかと……。」
「そんな訳ないじゃん。酷いこと言わないでよ。友達だから一緒に遊んでいたんでしょ。ひろみを助けてあげたくて、勉強だって教えてたのに。」
「勉強を教えて貰ってる恩があるから、わたしはザンから離れられない。計算のうちかと。」
「……あたしって、ひろみの中でどんなに酷い人間なの? どうしてそう思われているのか、あたしには見当もつかないよ。」
 ザンが青ざめている。「ひろみの為にどう教えようか色々考えたりしてたのに……。餌だと思われていたなんて……。」
「いつも机に向かって勉強してたのって、わたしに勉強を教える為だったの? 自分の為かと思ってた……。」
「この学校はレベルそんなに高くないし、そんな必死になって勉強しなくても学年トップなんて楽勝だよ。全部ひろみの為だったよ。」
「ご・ご免ね……。ザンに振り回されて、お尻叩かれて怒られて、いつも大変って思ってた……。」
「……。」
「わたしはね。中学までは友達が出来たことがなかったんだ。一人でいるのが好きだから、特に欲しいとも思ってなかった。仲のいい人達を見ていいなーと思うこともあったけど、一人ている気楽さに勝つことはなかった。」
 わたしは息をつく。「だから、ザンが友達になってくれて嬉しいと思ったけど、戸惑ってもいたよ。一緒にいるのは楽しかったけど、振り回されてる気がしてたんだ。わたし自身は校則を守りたかったから、その合い間を縫って、なるべく叱られないようにしながら自由になる良さも分からなくて……。」
「……。」
「でも、今気付いたけど、本当に嫌だったんなら、ザンにそう言ってたと思うんだよね。だって、わたしは友達が居なくても生きていける。友達を無くしたくないからって、自分を押し殺すような人達とわたしは違う。なのに、一緒に居たってことは、振り回されて大変と愚痴りながらも、ザンと遊ぶのが楽しかったんだよね。」
 わたしは俯く。「友達が居たことがないから、こういう時、どう謝ればいいのかも分からない。わたしは酷いし、駄目人間だね……。本当にご免ね。」
 わたしは深々と頭を下げた。
「あたしも友達はそんな要らないタイプだから、中学まではそこまで仲のいい子もいなかったよ。だから、距離間とか気遣い、そういうのは分からないんだ。分かってたら、あたしだけが楽しんでたってなんてことはなかったろうし、ここまで二人の気持ちがずれていることはなかったかも。」
 ザンがわたしをじっと見た。「で、わたし達これからどうなるの? 友達止める? それとも、お互いに妥協してみる?」
「わたしとしてはザンが親友と思ってくれてたんなら、今まで通りがいいな。図々しいとか、都合がいいとか、ザンが思わないならだけど……。」
「じゃ今まで通りにしよ。ただ、これからはもっと積極的になって欲しいな。アイディア出してくれるとか。……なんてね。」
 ザンが手を伸ばしてきた。「じゃ、仲直りね。」
「うん。有り難う……。」
 ザンがいい人で良かったとわたしは思う。嫌われてもおかしくなかったのに。
「仲直りしたんだし、何だったのか教えてよ。勿論、口外しないよ? さっき言ったように、他に言う人もいないしね。」
「氷山先生に愛の告白されて、両思いだって分かって喜んでたら、理事長に好きな時にお尻を叩く宣言された。」
「両思いお目出度う。あんたが先生が好きなのは分かりやすかったけど、先生があんたを好きなのかは確信を持てなかったんだよねー。」
 ザンが言う。「それはいいけど……最後は何?」
「確信って……。氷山先生にそんなそぶりあった?」
 わたしは氷山先生がわたしを嫌ってるかもと思っていたので、ザンの言葉に驚いた。
「んー。そもそもあんただけ厳しくして扱い違ったし、それを特別扱いだなんて言うし、あたしがあんたに数学を教えるのを許さなかったし、基礎クラスを抜けてるのに補習授業を続けるし、独占欲を感じたよ。ただそれは、あんたが元はクラスで下から5番目だったから、意地になっちゃって止め時を見失ってるのか、好意なのか分からなかったんだ。」
「そっか……。」
「で、最後の何? 理事長ってゲイなの? あんたに氷山先生を取られて憎いとか。」
 わたしは理事長の無茶苦茶な理屈を話した。ただ、当然、わたしがお尻叩きが好きなことについては言わなかった。「ちょっ、あの理事長……。お尻叩くのが好きだとは思ってたけど、そこまで……。」
 ザンは呆れていた。


 それから3日が過ぎた。わたしのお尻に痣が出来たのを知ったザンが、治るまで遊びに誘うのを止めると言ってくれたので、楽だった。このまま治るまで叩かれないで欲しいものだとわたしは思っていた。
 が。
 昼休みに、キヨテル先生とザンと3人でお昼を食べた後、お喋りしていたら……。
「1年D組の片倉ひろみ、至急理事長室へ来い。」
 理事長の声で放送が入った。
「えー、まさかこれって……。まだ、痣が残ってるのにぃ。」
「諦めて、急いで行きましょう。理事長のことだから、また遅刻30回って言い出しますよ。」
「わざわざ放送で呼びつけるとか……。理事長は変態過ぎ。」
 ザンが顔をしかめている。
「理事長に聞こえたら、お仕置きされますよ。」
「うわっ、ありそう……。」
 二人のやりとりを尻目に、わたしは理事長室へ向かった。
 

「痣が治ってないのに、叩くなんて鬼です。」
 わたしはノックもしないで理事長室のドアを開けると、中に入るなり言った。
「開口一番がそれとは、元気良いな、お前。」
 駄目元で抗議してみたが、理事長は楽しそうに笑っているだけだった。
「だってー。」
 わたしは口を尖らせた。
「校則を思い出せ。教師に逆らうと、どうなるんだった?」
「理事長は教師じゃないです。」
「お前なー……。減らず口ばかり叩いていると、暫く椅子に座れないくらいにしてやるぞ。」
「う……。」
 諦めた方が良さそうだ。わたしは肩を落とした。「そこのテーブルに手をつけばいいんですか?」
「膝の上にする。キヨテルより重いのか知りたい。」
「理事長は、ほんと、失礼ですね。」
 わたしはイライラしつつ、彼の側に行く。
「ひろみがデブなのは事実だろ。」
「そうですけどー。だからって。」
 膝に乗せられて、スカートを捲られ、パンツを下ろされた。「いきなり?」
「ノックもしないような奴には、最初から裸の尻だ。」
 何も言われなかったが、怒っていたらしい。理事長の手が飛んできた。20回程はかなり痛かったが、弱めに叩かれるようになった。多分、最初のはノックをしなかった罰なんだろうとわたしは思った。
 弱くなってからはそんなに痛くなかったが、かなりの数を叩かれ、お尻が大分痛くなってきた頃、理事長の手が止まった。
「ふう。満足した。デブでも女は女だもんな。新鮮だった。」
 理事長の膝から下ろされた。「これからも、こうやって叩くからなー。」
「そこまで貶すなら、それこそ藤本さんでも叩けば良いのに。」
 悪くもないのに散々叩かれた挙げ句、気軽に言われてムカついたわたしは、パンツを穿きながら理事長を睨んだ。
「何、馬鹿言ってんだよ。お前とキヨテル以外にこんなこと出来るわけないだろ。弱味もないのに。」
 理事長に腕を掴まれて、追い出された。「ほら。午後の授業に遅刻しないように、早く行け。」
「休み時間が潰れる程叩くとか……。」
「文句ばっか言ってると、放課後、キヨテルと一緒に泣かすぞ。」
「悪魔か!」
「……そうだぞ。」
 理事長がニヤリと嗤った。
「え?」
 彼の青い瞳が紅く光ったような……。
 呆然としかけたが、予鈴が鳴りわたしは慌てて、教室に向かった。



15年12月10日
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