レレスト高校

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  5 理事長と告白  

 理事長の家は、生徒用の寮から少し離れた所にある。何も学校と同じ敷地内に暮らさなくてもいい気がするが……。
 氷山先生がチャイムを鳴らした。
「キヨテルと片倉ひろみか。入れ。」
 理事長の声がしたので、わたし達は中へ入った。氷山先生を下の名前呼びとは。生徒も居るのにとわたしは驚いた。
 理事長はこんな学校を経営しているのに、モデルでもしているかのような外見だ。若々しい上に、青い髪と目をしている。青年実業家とでも言われた方が、まだ理解出来る。ただ、それは見た目だけで、中身はしっかりこの学校を作った人だと、入学式の時に知った。
「お前等なー。来るの遅いんだよ。何やってんだ。二人ともひっぱたいてやるから尻出せ。そこのソファに手をつけ。ちゃんとパンツも下ろせよ。裸の尻叩かないと意味ないからな。」
 開口一番、これだ。さすが、こんな学校を作った人なだけある。
 わたしと氷山先生は一瞬顔を見合わせたが、仕方ないので理事長の言う通りにした。
「ひろみの尻赤いな。キヨテルがあれだけ叩けば、そうそう治らないか。」
「あれだけって……。見てたかのように言いますね。」
「……まあな。」
 何故か理事長は少し赤くなった。「んー、20……いや、30かな。」
「30回は多いですよー。」
 氷山先生が理事長に抗議した。氷山先生なら黙って受け入れそうなものなのにと、わたしは不思議に思った。
「遅刻は50なんだから少ない方だろ。文句があるなら、キヨテルは50にしてもいいんだぞ。」
「……ご免なさい。30回で充分です。」
 厳しくて怖い氷山先生が情けない顔になっているのは、とても新鮮だ。だが、珍しい氷山先生を楽しんでる余裕もなく、理事長のお仕置きが始まった。理事長は氷山先生とわたしでは叩く強さを変えているようで、氷山先生は大分痛そうだ。
「痛いー、無理ー。」
 弱めにしてくれてたとはいえ、まだとても痛いお尻を更に叩かれて、わたしは悲鳴を上げて、座り込んでしまった。
「こら、ひろみ! 大人しく罰を受けられないなら、数を数えさせて、間違う度に増やすって奴やるぞ。」
「さすが理事長、無駄に厳しい……。」
 氷山先生が冷や汗を流している。
「無駄じゃない。たった30も我慢出来ない程に尻が痛いなら、それくらい言わないと、言うことをきかない。」
「うう……。」
 そんな恐ろしい罰は受けたくないので、わたしは立ち上がった。
「ほら、言うこと聞いた。」
 理事長は得意気だ。
 なんとか最後まで終わって、わたし達はパンツを穿くことを許された。
「酷い目にあった……。」
「だから、後悔するかも知れませんと言ったじゃないですか。理事長はお尻を叩くのが好きな人なんですよ。」
 氷山先生がお尻を撫でながら言った。
「確かに言われましたし、それは知ってますけど……。だからって、痛いお尻を更に叩かれるなんて思うわけないです。」
「遅いのが悪い。」
 理事長は言うが……。
「木村さんがついてきたいと我が儘を言いまして。しょうがなかったんです。」
「あいつの親に、娘には手を焼いてるから特に厳しくしてくれと言われたんだが、ああいうタイプは叩いても駄目なんだよなぁ。」
 理事長が困った顔で頭をかく。
「木村さんは頭がいいし、難しい子ですね。」
 氷山先生が目を伏せる。「その点、片倉さんはやりやすいです。」
「そうですか……。」
 暗に馬鹿だと言われている気がしたが、反論出来ない。「で、そろそろ理由が知りたいです。」
「ああ、そうですね。……その、僕は片倉さんが……好きなんです……。」
 氷山先生が俯く。
「え。」
 予想外の言葉に、わたしは呆然となりかけたが……。
「生徒に恋するとか有り得ないし、よりによって、ひろみとかキヨテルは趣味悪いよな。まだキヨテルのクラスの智子なら、可愛いし胸でかいし、分かるんだが。」
 理事長に水をぶっかけられた。というか、この人は女生徒をそんな目で見ているのだろうか……。わたしはちょっと理事長を軽蔑した。
「理事長、色々と酷いです……。」
「だって、お前みたいなの好きとかマニアだろ。それに智子が可愛くて胸でかいのは事実だ。」
「事実ですけど、教育者として、それはどうなんですか……。」
 わたしは理事長にツッコんだが……。彼は何処吹く風だ。ちなみにその藤本智子さんは当然、男子に人気があるが、今は関係ないので詳細は割愛する。
「か・片倉さん……いえ、ひろみさんは、見た目通り、自分に甘い性格ですが、この学校で厳しく躾られて変わりたいと向上心を持っていて……。僕の厳しい補習授業にも頑張って付いてきてくれて……。僕は、そんなひろみさんが好きになったんです……。」
 氷山先生の顔が赤くなっていて、可愛かった。「数学は駄目駄目ですが、これからもっと厳しくしていけば良いですし、木村さんを越えるという高い目標もあります。頑張りましょうね。」
「えっ、ザンを超えるとか無理……。氷山先生、さりげなく何言ってんですか……。」
 遊びまくってるのに、常に全教科満点の化け物のザンを越えるなんて何の冗談だとわたしは思った。
「目標は高い方がいいんですよ。その方がやる気が出ます。僕が付いてますから、大丈夫です。」
「「いや、無理だから。」」
 ツッコミが理事長と重なった。彼を見ると……。
「だって、あいつ、IQ180の天才だから。……あ、誤解されやすいが、IQが高くても勉強に興味がなければ、成績は一般人と変わらないものらしいぞ。まあ、ザンは勉強が好きだから成績良いが。ただでさえ出来の悪いひろみが越えるのは、どう頑張っても無理だな。」
「そうなんですか……。でも、2位なら出来ますよね。」
「無駄な努力だと思うが……。まあ、キヨテルがやりたきゃやればいい。」
「氷山先生がわたしを好きなのは、嬉しいです。嫌われているんじゃないかと思っていたし、そうじゃないと言われても、だったらどうしてだろうと思っていたので。」
 黙ってると理事長に言いたい放題されそうなので、わたしは氷山先生の告白に答えた。「それ自体は嬉しいですけど……。どうして、理事長の前で言う必要があったんでしょうか?」
「さっき言ったように、僕は君を特別扱いしています。その許可を得る為に、理事長へ、僕がひろみさんを好きなことを言ったんです。そうしたら理事長が、生徒への恋は許されないことなので、やるなら本人にその気持ちを伝えるなと仰ったんです。気持ちを伝えられないのは辛かったです。説明することが出来ないので、ひろみさんに怖がられていましたし……。」
 氷山先生が切ない顔になる。そんなに好かれていたとは……。
「そうですか……。そんなにわたしのことが……。嬉しいです。」
 嬉しさで一杯だったが、まだ疑問が残っている。「でも、氷山先生はこうして自分の気持ちをわたしに教えてくれました。それは、どうしてですか?」
「特別扱いに対して、ひろみが何も気にしないような鈍い奴だったらいいんだが、どうしてだろうと気にするような奴だったら、無視し続けるのもまずいだろう? だから、ひろみが答えを知りたがったら、俺公認だと言えと言ったんだ。」
「……えーと。」
「キヨテルの特別扱いはお前にだけ厳しいというものだから、他の生徒は羨ましがるものじゃない。その点では安全だが、教師が苛めをしていると非難されるかもしれないというリスクはある。俺に何の得もなく、そんなリスクだけ背負うのは面白くない。だから、メリットとして俺の欲求をひろみが満たすことにした。」
「へ?」
「キヨテルの尻は既にいつでも好きな時に叩いてるから、今さらメリットにはならない。だから、ひろみの尻を好きにすることにした。」
「何それ、どういう理屈!?」
 わたしは叫んだ。ですます調にする余裕がなかった。
「キヨテルは公然とお前と付き合えて嬉しいし、キヨテルに可愛いがられてお前の数学の成績は上がるし、俺は好きな時に叩ける尻が一つ増えて嬉しい。いいことしかないだろう。」
「何処が!? ツッコミどころしかないよ!」
「……ひろみさん、諦めましょう。だから言ったんですよ。後悔するって。」
「納得出来ないー!」
「ひろみ、ちょっと耳貸せ。」
 理事長に引っ張られた。「……それ以上騒ぐと、お前が尻叩きが好きな特殊性癖の持ち主だって、キヨテルに言うぞ? いいのか? キヨテルに変態だと思われて嫌われても。お前もキヨテルの告白前から、キヨテルのことが好きだったろ。」
「な・何でそれを知ってるんですか……? ってか脅しとか理事長のすることじゃない……。」
「俺は尻叩きが好きだから、叩かれたい奴のことは分かるんだよ。それに、そうでもしないと、お前煩いし。」
 説得力が凄くある気がする……。理事長が離れた。「お前もキヨテルのことが好きだったのは、多分、キヨテル以外の皆が知ってるぞ。分かりやすかったし。」
「えっ、ひろみさんも僕が好きだったんですか? 僕達は両思いだったんですね。今日は素晴らしい日です!」
 氷山先生に抱きつかれた。
「キスまでにしとけよ。さすがにセックスまでしたら、条例違反だから庇いきれない。」
「し・しませんよ!」
 氷山先生が真っ赤になった。
 少しして、氷山先生が落ち着いた後。
「さっき理事長は、氷山先生の……。」
「二人の時はキヨテルって呼んで下さい。僕もひろみさんって呼びますから。」
 氷山先生改めキヨテル先生がニコニコしながら言った。可愛くはあるのだが、普段とキャラが違いすぎて馴染めない。
「……分かりました。……で、キヨテル先生のお尻をいつでも好きな時に叩いてるとか、凄いこと言ってましたけど……。」
「俺とキヨテルは同級生なんだ。キヨテルはこんな奴だから、俺はこいつを玩具としていつも可愛がっててな。」
 理事長がキヨテル先生の頭を撫でた。キヨテル先生が複雑な顔になった。「俺は私立学校作るのが夢、キヨテルは高校教師になるのが夢だったから、学校が出来た後、キヨテルを教師として雇ったんだ。昔のように遊べるしな。」
「そうですか……。」
 玩具だの、遊べるだの……。しかも頭を撫でてるし。理事長はキヨテル先生をペットかなんかと思っていそうだ。
「今も一緒に暮らして遊んでやってるんだ。」
「い・一緒に……。」
「僕としては教員用の寮に住みたかったんですけど、理事長が許してくれなくて……。あ、勘違いして欲しくないですけど、体の関係ないですよ。僕は女性が好きなんで。今はひろみさんです。」
「一途なのは嬉しいんですけど、生々しいことを言わないで欲しいです……。」
「ご・ご免なさい。」
「キヨテルとヤる……。面白いかも知れんな。」
「冗談じゃないですよ。僕にはひろみさんが居るんです!」
「キヨテルには冗談が通じないから、からかっていて面白いんだ。」
 理事長が酷いことを言う。
「うううう……。だから、KAITOさんのこと嫌いなんです……。いい加減、解放して欲しいです……。」
「それは駄目だ。」
 理事長にばっさり切り捨てられたキヨテル先生は肩を落とし、わたしは同情した……。



15年10月12日
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