レレスト高校

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  3 友達と懲罰室  

 次の日は、まず部活動の紹介とお披露目会が行われた。吹奏楽部ならちょっとした演奏をして見せたり、バスケ部ならボールを投げたりといった出し物をしながら、うちは皆の仲が良いとか、全国目指して厳しくやってますなどと方針などを話すのだ。わたしは、ちゃんと部活もあるんだなと思ってしまった。どうも、この学校に偏見を持ってしまっている。
 厳しい部活は顧問や先輩に叩かれることもあるんだろうか。学校生活によっては、部活に入ってもいいかも知れないとわたしは考えた。
 次に、氷山先生に連れられてクラス単位で、理科室などの専門教室、図書室など施設に行くことになった。場所を覚える為だろう。部活動の紹介の時に体育館へは行ったので、それ以外だ。途中で他のクラスとすれ違ったりした。混雑しないように、クラスによってルートが違うようだ。施設案内の最後の部屋は懲罰室だった。
「ここが懲罰室ですよ。ちょっとしたお仕置きなら、放課後に教室で行ったりもしますが、本格的なのはここでします。」
 昨日、わたしと木村さんが真っ赤になるまで叩かれたのは、ちょっとしたお仕置きの範囲だったらしい……。思わず彼女と顔を見合せてしまった。だが、壁にぶら下がってる各種の鞭、スパ動画で見たことのある拘束台などは、写真で見るより、実物の方が当然怖かった。これを使われるのが懲罰なら、確かに昨日のはちょっとしたお仕置きレベルとも言えるかとわたしは納得した。
「ここにある物って、本当に使われているんだ……。」
 誰かが言った。
「ええ、勿論。ですが、自分で体験する羽目になりたくなかったら、昨日渡した校則手帳に書かれた事を守って、規則正しくすることです。」
「あ、先生。質問です。」
 昨日、木村さんが注意されていたのを見ていたので、質問した生徒はそれだけ言うと、黙った。
「何でしょう?」
「校則手帳で思い出しましたが、決まりの隣に書いてある数字は何ですか?」
 昨日のわたしと同じことを思ったらしい。
「それはお尻叩きの回数です。数が決まっているんですよ。ただ、態度や違反の内容によっては増えたりします。」
「うへ……。」
「他に質問はありますか?」
 特にないようだ。「では教室に戻って、能力別クラス分けの結果と時間割を配ることにします。」
 教室に戻ってきた。出席番号順に結果が書かれた紙と時間割を貰った。わたしは苦手な数学が一番下、英語は真ん中のクラスで、木村さんは両方とも一番上のクラスだった。
「今日はこれでおしまいです。」
 氷山先生が言う。「明日からは通常授業になります。忘れ物をしないように。」
 挨拶が終わった後、皆がお喋りを始めた。教室の掃除も明日からなので、帰る人も居れば残る人も居るようだ。わたしは寮に戻る気になれなくて、木村さんに話しかけた。
「木村さんは頭がいいんだね。わたしは数学苦手でさ。結果を貰う時に氷山先生に睨まれちゃった。またお尻叩かれそう。」
「勉強は好きなんだけど、それ以上に人を困らせたり、喧嘩するのが好き。だから親に、ここに入れられたんだ。」
「そ・そうなんだ……。」
 呆れているわたしを木村さんがじっと見た。何だろうと思っていると、彼女が口を開いた。
「能力別クラスは分かれたけど、普通のクラスは一緒だし、寮でも同じ部屋だし、そろそろ他人行儀止めない? 仲良くしようよ。ひろみって呼んでいい?」
「あ、う・うん。いいよ。じゃ、わたしはザンさんで……。」
「何でさ。呼び捨てにしてよ。」
「わ・分かったよ。ザン。」
 一人でいるのが好きなわたしは、人と仲良くするのが嫌いではないが苦手で、中学までは碌に友達も出来なかった。なので、高校でも特に期待していなかった。だから、今の展開に驚いていた。……でも、わたしはもう少し彼女の発言を気にするべきだった。人を困らせるのが好きという悪趣味な好みを……。まあ、今にして思えば結果として良かったとは言えるのだが。
 そろそろわたしが寮に帰ろうかと思っていると、氷山先生がやってきた。
「片倉さん、数学のクラス分けの結果について話がしたいので、懲罰室に来て下さい。」
「懲罰室……。それ、話じゃないですよね!? ってか、わたし以外の人は皆、良いクラスなんですか……?」
 まさかもう、さっき見たばかりの懲罰室のお世話になるとは思ってなかったわたしは呆然としてしまう。
「いくらなんでもそれはないです。でも、僕のクラスの生徒の中で、基礎クラスの最下位が君なんですよ……。本当の最下位はC組ですけど。君は下から5番目です。僕のクラスから、そんな生徒が出るなんて……。」
 氷山先生はわなわなと震えている。屈辱だったらしい。
「ま・まだ氷山先生から、数学を教わってませんし。」
 怖くなったわたしは慌てた。それに、いくらお尻叩きが好きだからって、昨日あれだけ叩かれたので、まだお尻が痛いのだ。さすがに勘弁して欲しい。
「それはそれ。これはこれです。懲罰室でじっくり話をしましょう。」
 氷山先生の気は変わりそうもなかった。
「低っ。ひろみ、あんたって、そんなに数学駄目なんだ。あたしが教えてあげようか?」
 ザンに笑われた。
「木村さんは両方とも学年1位でしたね。でも、片倉さんは僕が指導します。さあ、来なさい!」
 あわれ、わたしは氷山先生に引き摺られていくのだった……。
 懲罰室に着いた。
「氷山先生ー、昨日叩かれたお尻がまだ痛いんです。頑張りますから、お仕置きは許して下さい。」
 わたしは必死で懇願するが、氷山先生は聞こえていないかのように動き、わたしは跳び箱の一番上の段に足が生えているかのような拘束台にくくりつけられた。恐ろしくて、わたしは泣き出してしまった。むき出しのお尻に氷山先生の手がふってきた。思っていたよりは痛くなかったので、少しホッとする。
「君の成績の悪さには我慢なりません。これから、放課後に毎回補習授業を行ないます。分かりましたね。」
「わ・分かりました。でも、それって氷山先生は大変ではないですか?」
「僕に気遣う余裕があるのなら、それを数学の勉強に回して下さい。そっちの方が、僕はよっぽど嬉しいです!」
 パンッと痛いのが飛んできた。
「分かりました。勉強しますー!」
 かなり痛くなるまで叩かれてしまった……。わたしは理不尽すぎると思ったが、それを口に出すともっと叩かれそうなので、黙っていた……。
 寮の部屋に戻ってきたわたしは、ベッドにごろりと横になった。
「酷い目にあった……。」
「どの鞭を使われたの? やっぱり凄く痛かった?」
 机に向かって勉強していたザンが聞いてきた。勉強よりそっちの方が気になるらしい。
「手だったよ。でも、拘束台に縛られたし、氷山先生が怖かった。」
「怒っていたもんねー。」
「個人授業してくれることになったのは良かった気もする。」
 わたしは前向きに捉えることにした。
「へー、そこまでしてくれる程、ひろみの成績悪いんだ。」
 ザンに笑われてしまった。


 一ヶ月程が過ぎた。わたしはザンと友達になったことを少し後悔していた。校則手帳を全て把握したザンは、高校生活を、最小限の被害で最大の効果を得ることに費やすことにしたようだ。それだけなら本人の勝手だが、そこにわたしを巻き込むのである。と言っても、あくまで彼女が叱られる時に、何故かわたしも一緒に罰を受ける状況になってしまうだけで、彼女がやったのに、わたしの所為にされて、わたしだけが叩かれるということはさすがにない。だから、完全に彼女が嫌いになるわけではなかった。つまりザンは、自分一人でお仕置きを受けたくないので、道連れが欲しかったらしい。
 しかも、彼女はわたしに数学以外の勉強を教えてくれるので、たちが悪い。計算高いと言える。校則によると、テストでは満点以外の点をとった時には必ずお仕置きがあるので、点数はいいに越したことはないのだ。
 頭がいい悪い子って最悪だとわたしは思う。お世話になってるので冷たく出来ない。彼女と友達になっていなければ、もう少し平穏な学校生活を過ごせたとも言えるし、その代わりお尻を叩かれる頻度はもっと下がっていたので、今の方がいいとも言える。自分の性癖を恨みたくなってきた。
 氷山先生の補習授業は、基礎クラスを抜けた後、週一に減りながらも続いていた。不思議だったが、やってもらうのは有り難いので、受けていた。ただ……。
「片倉さん、放課後、残りなさい。」
 3時間目の数学の授業後、氷山先生に冷たく言われた。氷山先生は意外にも普通クラス担当だ。数学への思い入れが強く、特別クラスだと授業のレベルが高くなり過ぎるので、そうなったと聞いた。氷山先生も意外に変わり者である。
「はい……。」
 『またお仕置きだ……。』
 返事をしながらそう思った。
 氷山先生は、最初にスパルタ教育で行くと宣言しただけ合って他の先生より怖いが、わたしには更に厳しい。校則手帳の回数が守られず、わたしだけ多く叩かれるのだ。時には、校則手帳に書かれていないことでもぶたれるので、ザンの所為で目を付けられているのかなと思うと不安になる。だが、多く叩かれるのはわたしだけなのが疑問である。
 今回はあてられて答えられなかったからだが、校則手帳によれば15回でいい。明らかに放課後に残されて叩かれる程ではない数だ。
 氷山先生は、お仕置き宣言が済んだ後、わたしを一瞥することもなく、さっさと歩いて行ってしまった。
「わたしだけ扱いが違うし、嫌われてんのかなあ……。それとも、やっぱ目を付けられてるのかなあ。」
 放課後のお仕置きに不安を抱きつつ、わたしは数学の教科書とノートを仕舞った。
 『どうしてなのか、聞いてみようかな……。』
 このまま、もやもやを抱えていても仕方ないとわたしは決心した。



15年10月11日
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