レレスト高校

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  2 担任教師とクラスメイト  

 落ち着いたわたしは、割り当てられた1年D組の教室に入った。自分の席に座り、入学式が早く終わらないかなーとワクワクしていると、さっきの教師が入ってきた。
「担任だったの!?」
 わたしは思わず叫んでしまった。
「そうですよ、片倉ひろみさん。反抗的なだけではなく、騒がしい人ですね。」
 ジロリと睨まれ、わたしは俯いた。顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
「僕の名前は氷山キヨテルです。この1年D組の担任です。この外見でよく誤解されますが、僕は優しくないですよ。スパルタ教育で行きます。」
 氷山先生は黒板に自分の名前を書いた。「僕は数学教師です。僕のクラスでは数学の赤点は許しませんよ。お尻を叩かれたくなかったら、真面目に授業を受けて頑張って下さいね。」
 優しそうな顔に似合わない発言に、クラスの皆は戸惑い、教室は騒がしくなった。氷山先生がパンパンと手を叩く。
「はい、静かに。もう高校生なんですから、ちょっとしたことで騒がないように。高校生らしい節度のある行動をしなさい。」
 氷山先生は反論は許さないとばかりに、厳しい口調で言った。
「でも、その言い方だと、他の授業は頑張らなくてもいいように聞えます。少しおかしくないですか?」
 背の小さな金髪の女の子が手を挙げながら言った。
「木村ザンさん、当てられてから答えて下さい。」
 名札には苗字しか書いていないのに、氷山先生は、わたしも彼女もフルネームで呼んでいる。既にクラス全員の名前と顔が一致している上に、下の名前まで覚えているらしい。優秀な先生のようだ。
「えー、めんどくさい。それより、質問に答えて下さい。」
「反抗的ですね……。君も入学式の後、残りなさい。片倉さんと二人で、お仕置きです。」
 氷山先生は溜め息をつく。「当然他の科目も頑張るんですよ。その上で数学もと言っています。」
「進学校でもないのに、要求レベルが高いのでは?」
「学校である以上、勉強を頑張るのは当然のことです。学生の本分は勉強なんですよ。」
 氷山先生はつれない。「そろそろ入学式が始まります。廊下に並びなさい。」


 入学式の後、教室に戻ってきた。自己紹介が終った後、数学と英語の能力別クラス分けの為のテストをした。
 『難しいな……。』
 問題児の為の学校だから授業のレベルは低いだろうし、わたしでも優等生になれるかもと甘い考えでいたわけだが……。どうも夢で終わりそうだ。世の中は甘くないらしい。
 テストが終わった後、教科書をどっさりと貰ったり、寮についての軽い説明をされて、やっと今日は全部終わった。連絡事項でもあるのか、氷山先生は一旦いなくなった。
 少しの間クラスの皆は、顔に似合わぬ厳しさ氷山先生のことやテストのことなどをお喋りしていたが、お腹が空いたのか、寮が気になるのか、わたしと木村さんを残して帰って行った。閑散とした教室で、お仕置きのことが気になって、わたしはドキドキしていた。氷山先生の、わたしに対する心証が悪くなってるので、目を付けられたかなと不安になったり、しょっちゅうお仕置きされるのかなとちょっと期待したり。
「初日からお尻叩かれるとは。面接で30回も叩くだけあって、横暴だな。」
 木村さんが頭をかいている。「教師には絶対服従するのが一番の決まりだったっけ。めんどくさい学校だ。」
「ちょっと理不尽にも感じたなぁ。氷山先生は可愛い顔なのに、残念かも。」
 わたしは思わず言ってしまった。
「顔は関係なくない? ってか、大の男つかまえて、可愛い顔だなんて、結構失礼じゃない。」
 木村さんは笑っている。笑ってるのなら同罪ではとわたしは思う。「そういえば、あんたはどうして叩かれることになったの?」
「考えごとしながら歩いていたら、氷山先生にぶつかっちゃってさ。あれ、この先生は、面接の時の先生だって吃驚して……。謝るのを忘れてたら、反抗的だって言われた。」
「先生からすれば、ぶつかってきたのに謝りもしない悪い生徒に見えたってことか。」
「そう。」
「運が悪かったね。」
「しょうがないや。」
 木村さんと笑い合ってしまった。そこへ氷山先生がやって来た。
「遅くなってしまい、ご免なさい。では、君達へのお仕置きを始めます。二人とも真っ赤になるまで叩くので、覚悟するんですよ。」
「はい……。」
「教卓に手をついて下さい。」
 わたし達は言われた通りにした。「面接では裸のお尻を叩きましたけど、今回は沢山叩くのでスカートの上から始め、パンツの上、裸のお尻と順番にします。本来は道具も使用するんですが、二人は初犯なので手だけです。」
「道具って、その壁にぶら下げてある奴ですか?」
 木村さんが言う。
「そうですよ。この細いのが一番痛いんですよ。」
「細くて痛くなさそうなのに、ケインはお尻がグロくなるもんなぁ。」
「名前まで知っているとは。片倉さんは詳しいですね。」
 氷山先生が不思議そうな顔をしている。さすがに、常にフルネームで呼ぶわけではないようだ。あれは、生徒の名前も顔も覚えているというアピールだったのかも知れない。
「き・興味あって。ネットで少し……。」
 ネットでスパ動画を見てるからですと言うわけにもいかないので、わたしは焦った。
「そうですか。学校の勉強は嫌いでも、興味のあることを調べる下地があるんですね。いいことです。」
 氷山先生に頭を撫でられた。「さて、お喋りはこれくらいにして、お仕置きを始めます。」
 わたし達は、氷山先生に交互にお尻を叩かれ始めた。
「スカートの上からでも充分痛いっー。」
 わたしが喚くと、
「叩かれてるんだから当然じゃん。」
 木村さんにツッコまれた。そうして余裕があったのもスカートの上からまでで、パンツの上からになると、木村さんも痛がりだした。裸のお尻になる頃には、二人とも声をあげて泣いていたが、氷山先生を怒らせてしまっているからなのか、なかなか許してもらえなかった。
「ご免なさいー。」
「駄目ですよ。まだまだです。」
 鬼とか悪魔と罵りたくなったが、そんなことをしたら初犯だからと手で許して貰える筈だったのに、道具の登場になりそうだ。何とか我慢した。真っ赤になるまで叩かれて、やっと許された。
「おしまいです。充分に反省したようですね。お尻をしまって、寮に帰りなさい。」
「「はい……。」」
 わたし達は言われた通りにした。


 敷地内にある寮にやって来た。クラスは男女混合だが、寮は当然であるが男女別だ。女子寮は可愛く見えた。制服もそうだが、この学校は微妙にずれている。
「そうは言っても、可愛い方が楽しいよ。」
 木村さんが言った。
「まあ、そうなんだけどね。」
 皆より少し遅れての昼食はそれでも美味しかったが、散々叩かれたお尻がとても痛くて、座っているのはなかなかに辛かった。座ると叩かれたお尻が痛いという経験そのものはわたしの心を躍らせたが、体は辛い。複雑な心境である。そんな昼食が済んだ後、わたし達は割り当てられた部屋にやって来た。二人部屋で、何の運命なのか、わたしと木村さんは同じ部屋だった。
「ありゃ。これは宜しく。一応改めて自己紹介するけど、わたしは木村ザン。ハーフだよ。親に無理矢理、この学校に放り込まれた。」
「わたしは片倉ひろみ。中学の担任の先生の反対を押し切ってまで、自分で志望してこの学校に来たよ。親には制服が可愛いからと言って、体罰のことは秘密。言ったら駄目って言われそうで……。」
「先生の反対と親を騙してまで!? そこまでして、この学校に来る人がいるなんて、思わなかったよ。」
「体罰反対の現代に、平然と体罰してるってのが面白そうで……。」
 わたしは最もらしく聞こえる嘘をついた。受験した理由にはなってないけど、その気持ちもあるので、完全に嘘ではない。
「そんな好奇心だけって……。道具も調べてるみたいだし、あんたって相当変人だね。」
「ま・まあね……。」
 木村さんに呆れられてしまい、わたしは俯いた。
 先に送っていて届いていた荷物を開封してしまい込んだり後、わたしは貰った教科書の中から国語を選び出すと、ぺらぺらとめくりだした。
「え、早速勉強?」
 木村さんが驚いている。
「あー、違うよ。国語の教科書に載っている小説を楽しみにしてるんだ。」
「途中までしか載ってないよね?」
「それでも結構面白いんだ。」
「まあ、そうだけど……。」
 木村さんからは更に変人認定されたかも知れないが、わたしは気にしないことにした。「まあ、他にやることもないし、予習兼ねて読んでみるか……。」
「え、別に付き合ってくれなくても。」
 今度はわたしが驚いた。
「他にやることもないからだって。」
 木村さんが苦笑している。そう言いつつ、彼女は筆記用具を取り出し、書き込みしながら教科書を見ている。この人、もしかして出来る人? とわたしは疑問に思った。まあ、この学校は素行の悪い生徒が来るところなので、成績は関係ないんだけど……。
 暫く後、わたしは今度は校則手帳なるものを見ていた。中学の時は、生徒手帳の中に校則の項目があったが、この学校は何と、別になっているのだ。
「この数字は何だろ。」
 廊下を走ってはいけないなどといった決まりの隣に、数字が書いてあるので、気になってしまい、わたしは思わず呟いた。
「んー、何?」
 集中していたらしいのに、木村さんはこっちを向いた。
「あー、ご免、独り言……。気持ち悪いと分かってるんだけど、癖になっちゃってて。」
「無くて七癖って言うし、癖の一つや二つ、しょうがないんじゃない。……それより何の話?」
「校則手帳を見ていたんだけど、校則の隣に数字が書いてて……。何かなって。」
「見せて。」
 木村さんも持っているわけだが、いちいちツッコむのは性格が悪いだろうと思って、わたしは黙って渡すことにした。
「……。」
 校則手帳を見た木村さんが顔をしかめながら言った。「お尻叩く数って書いてあるよ。決まってんのか。つーか、いちいち書くのかよ。いや、教師によって数が違うよりもマシか。」
 校則手帳を返された。
「何か、この学校って色々と変だよね。」
「うん。」
 わたし達は脱力していた。



15年10月10日
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