レレスト高校

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  1 面接と入学  

 わたしは学校で渡された私立高校のパンフレットを見ていた。
「こういうのって学校でくれるもんなんだ……。」
 そう思いながら、受け取った物だ。いくつもの私立高校のパンフレットがあったので、結構重かった。学校ではじっくりと眺める時間を貰えなかったので、家に帰ってきてから、こうして見ていた。少し古くさい感じの制服のミッション系スクールに目が引かれる。
「漫画だと、こういう女子校は、シスターや先生に鞭でお尻叩かれたりするんだよなぁ。でも、現実は校則が厳しくても、体罰はないんだろうな。」
 可愛い制服の学校やレベルの高そうな学校やら……。行く気はなくても見ていて楽しいと思っていたら、異彩を放っているパンフレットを見つけた。わたしは、そのレレスト高校のパンフレットを読み始めた。「厳格な体罰による徹底した管理教育で、どんな生徒も更正させます。我が校に停学や退学はありません。飲酒・喫煙・喧嘩・万引き……。どんな罪も体罰によって償います。全寮制で、寮も同じ思想の元により運営されています。我が校の性質から、筆記試験はなく、面接のみとなっております……か。凄い学校だな……。刑務所みたいな感じなのかなぁ。」
 体罰という言葉に惹かれるが……。
「いや、さすがに刑務所みたいな学校で、お尻ぺんぺんなんて甘いお仕置きないでしょ。」
 ページをめくっていくと、懲罰室と書かれたお仕置き部屋があったりして、やっぱり異常な学校のようだ。理事長による特別な体罰もありとの記述に、昔のアメリカの校長先生はお尻叩きの権限を持っていて、生徒達から尻叩き野郎と綽名をつけられた……という翻訳小説の1文を思い出した。「あれっ、懲罰室の壁にぶら下がってるのって、パドルとケインとトゥースじゃ……。」
 わたしは食い入るように写真を見つめたが、どう見てもお尻叩き用の道具に見えた。
 この瞬間、わたしの進路は決まったも同然だった。
 担任には、この学校は問題児が行くところであって、お前のような普通の生徒が行くところではないと止められたが、わたしは聞く耳を持たなかった。それでなのか、担任が学校側が受け入れてくれない可能性もあると言い出したので、地元の高校も受験することにした。レレスト高校は筆記試験がないので、その点は楽だった。


 待ちに待った面接日がやって来た。わたしは緊張に胸を高鳴らせながら、この日を迎えた。レレスト高校は、乗り越えるのは難しそうな高い塀に覆われていて物々しい雰囲気だったが、さすがに刑務所ではないので、上に有刺鉄線が張り巡らされていたりはしない。
 問題児を更正させる学校だそうだが、厳格な体罰による徹底した管理教育を謳うような所へ、肝心の問題児達が素直にやってくるんだろうかと思っていたが、なかなか激しい見た目の生徒も見かけた。少し不安になってきたが、わたしのような一見普通の生徒も見かけ、安心する。そんな普通の人達が、どうしてこの学校を受験することにしたのか、気になるが。
 割り当てられた教室で面接の順番が来るのを待つ。黙って待っていることが出来そうもない生徒もいるが、わたしの想像に反して、大人しかった。
 わたしの名前が呼ばれ、とうとう面接の時間がやって来た。わたしはドアの前で、中学の先生とした面接の練習を思い出す。高校受験する生徒が大半なので、わざわざ時間をとって3回程練習をしてくれたのだ。面接官役は学年の教科担なので、知ってる先生だからと気が緩まないように、校長や教頭先生との面接もあったりと力を入れてくれていた。
 『ノックしてから、失礼しますと言って中に入ってドアを閉める。椅子の隣に立って学校名と自分の名前を言う。椅子に座るのは、どうぞと言われてから。言われる前に座ってはいけない。』
「緊張してるのは分かるけど、早く入って。」
 呼びに来た先生に注意されてしまった。
「分かりました……。」
 頭の中で反芻した通りにしてわたしは中へ入った。
 中には、眼鏡をかけ黒いスーツに身を包んだ優しそうな雰囲気の先生が居た。
「○○中学校、片倉ひろみです。宜しくお願いします。」
 頭を下げる。練習の時はこの後、面接官役の先生がどうぞと言ってくれて、椅子に座ったのだが……。
「我が校は厳格な体罰による徹底した管理教育を謳っています。ですが、筆記試験がなく面接だけなので、たまにそれを理解せず受験しに来る生徒がいます。君は、我が校の趣旨を理解していますか? 厳しい体罰があるのを分かっていますか?」
「は・はい。」
「第一段階合格です。座っていですよ。」
「え?」
「趣旨を理解していない生徒には、我が校の受験資格がありません。なので、すぐに帰って貰っています。」
 だから、すぐには座らせてくれなかったのか……。わたしは驚きながら座った。
「我が校に体罰があるのを理解していながら、志望した動機は何ですか?」
「わたしは自分に甘い性格で、すぐに怠けてしまうので、厳しい学校で躾られて変わりたいからです。」
「体罰も必要ですか?」
「正直に言うと、少し怖いです。全寮制で寮にまで体罰があると説明に書いてあって、もっと怖いんですが、それくらいされないとわたしは変われないのではないかと思い、受験を決めました。」
「成る程……。志望動機としては充分ですね。」
 面接官の先生が何か見ている。「確かに君の成績はあまり良くないようですね。授業態度は真面目でもテスト勉強すらしないと……。テスト勉強をしなくても、真面目に授業を受ければこれくらいは取れるんですね……。なんだか勿体無いような。」
「同じことを担任の先生に言われたことがあります……。」
 わたしは恥ずかしくなって下を向いた。
「自分で言ってる通り、大分自分に甘い性格のようですね。……んー。素行もそれほどを悪くないようですが、我が校に通う資格は充分あるようです。では、第二段階に進みます。」
 第一段階がレレスト高校の趣旨を理解していることなら、第二段階は何だろう……と思っていると、教師が立ち上がり、わたしの側までやって来た。
「立ちなさい。」
 わたしは慌てて立ち上がった。「我が校には、管理教育をつつがなく行う為、教師には絶対服従の決まりがあります。教師に逆らうのが一番重い罪です。かといって、教師は理由なき、あるいは理不尽な、あるいは私情による体罰を行うことは禁止されています。絶対的な権力に教師が溺れないように、教師達は定期的に理事長からの体罰を受けます。」
「は・はあ……。」
 教師側の事情を受験に来ただけの生徒に説明する理由が分からなくて、わたしは戸惑う。
「しかし面接では、耐性を見る為に理由なき体罰……つまり暴力ですね……それを認められています。」
 その言葉と共に、わたしは椅子に手を付かされた。「では、これから、我が校での主な体罰であるお尻叩きを30回を行います。」
「えっ。」
 驚いているわたしを無視して、面接官の先生にセーラー服のスカートをまくられ、パンツを膝のあたりまで下ろされた。そして、言葉通りに、お尻叩きが始まった。「痛っ。痛いっ。わー、痛い、痛い。」
 わたしの人生で初のお尻叩きは、痛みに喚き散らしてる間に終わった。いきなりだったので、楽しむ余裕もない。初めてとはこんなものなのかも知れないが、小さい頃から憧れていたのでわたしは少し寂しかった。
「痛かったー……。」
 気持ちはともかく、お尻は結構痛かった。30回でこんなに痛いなら、100叩きだと涙が出るのかなとわたしは思う。
「パンツは自分で穿いて下さい。」
 先生は素っ気なかった。この先生にとって、女生徒のパンツを下ろして裸のお尻を叩くなんて日常茶飯事なんだろう。わたしは言われた通り、自分でパンツを穿いたが……。
「いきなり叩いておいて、言うことはそれだけ!? 他にもっとあるんじゃないの?」
「僕はちゃんと説明しましたよ。」
 先生は冷たかった。
「確かに言ったけども……。」
「意外に反抗的ですね……。我が校ではこれが日常風景ですよ。無理だったと思ったのなら、入学を諦めて下さい。」
 先生は席に戻った。「最後の質問です。君は我が校に入学しますか?」
「その前に質問いいですか?」
「はい。どうぞ。」
「お尻叩きは主な体罰だと言ってましたけど、他にどんな体罰があるんですか?」
 わたしはお尻叩きさえされるのなら、大嫌いなびんたすら我慢出来るが、一応知りたかった。
「お尻叩きが済んだ後に、お尻を出したまま立たせたり、正座させたり、テストで30点以下の場合は、追加罰として手の甲を叩いたりします。」
「びんたは……。」
「頬を叩くくらいならお尻を叩きますよ。高校生には頬に紅葉の痕がついて目立つよりも、その方が恥ずかしいからだろうと理事長が言ってました。」
「そ・そうですか……。」
 理事長はなかなかいい性格をしているようだ。
「他に質問はありますか?」
「ないです。入学します。」
「分かりました。4月に待ってますよ。」
 先生が微笑んだ。その笑顔は、大人の男性に言うことではないが可愛かった。


 面接が終わってすぐに合格が決まるなんて、普通はないことのような気がするが、レレスト高校は普通ではないので気にしないことにした。暫くすると、担任が入学案内の封筒をくれた。担任は、未だ普通の学校へ通った方がいいと言っていた。鬱陶しいがある意味、心配してくれているんだろうとも思う。
 レレスト高校の制服は、女子のは可愛いし、男子のは格好良くて、学校の趣旨からすると違和感を覚えた。だが、可愛い制服を着られるのは女として単純に嬉しい。スカートが短めなので、母に大根足が見えるねと笑われたが。
 入学式の日がやって来た。寮には既に荷物を送ってあるので、持っているのは筆記用具が入った通学鞄だけだ。英語と数学は能力別クラス分けなっているので、入学式の後すぐにその2教科のテストが行われるとのこと。
 『入学式にテストをするなんて、変な学校だな。でも、不良ばっかりだろうから、意外にいいクラスに入って、優等生気分を味わえるかも。』
 そんな妄想をしながら歩いていて注意散漫だったわたしは、校門に入った後、人にぶつかって尻餅をついた。
「いったー……。」
 わたしは立ち上がるとお尻を撫でた。
 『どうせなら叩かれて痛くなって欲しいよ……。』
 そんなことを考えてから、わたしは相手はどうなったの? と前を見ると、眼鏡をかけ黒いスーツに身を包んだ先生がこちらを睨んでいた。わたしは転んだが、大人の彼は大丈夫だったらしく、立っていた。
 『あっ、この人、面接の時の先生だ!』
 普通だったら短い時間会っただけの人の顔なんて忘れてしまうが、生まれて初めてのお尻叩きを受けたりと濃厚な時間を過ごしたので、この先生の顔は忘れようがなかった。
「よそ見をしてぶつかってきたのに、謝罪の言葉もないんですか。お仕置きが必要ですね。」
 え!? と驚いている間にわたしは屈まされ、先生にお尻を叩かれ始めた。前回と違って、今度は本当のお仕置きだ。
「ご・ご免なさい……。」
 わたしは半ば呆然としながら言った。謝ったのが良かったのか、解放された。
「今日から高校生で浮かれているのかもしれませんが、前くらい見て歩きなさい。」
 先生は厳しい表情で言う。
「……。」
 今回もいきなりのお仕置きだったのと、初めてのお仕置きすらこの先生からだなんてと驚いていたわたしは、ぼんやりしていた。
「返事も出来ないんですか。“やっぱり”反抗的な態度ですね……。入学式の後に、たっぷりとお仕置きをします。」
 それだけ言うと、先生はあっという間に去って行った。お仕置きまでも早かったが、去るのも早い。何とも行動が早い人物である。入学式だから忙しいのかもしれないが……。
 『やっぱりって言った? もしかして、わたしのことを覚えているのかな……。』
 わたしの方は先生を覚えていても、先生の方は沢山の生徒と面接をするから覚えていないと思っていた。でも、違うのかも知れない。
 『ちょっと嬉しいかも。でも、目を付けられたとも言えるのかなぁ。』
 わたしは不安だったり、嬉しかったりと忙しかった。



15年10月9日
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