魔法界 はみ出し者の村

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3 魔法を教わる

 ソレザが魔法を教えてくれる事になったが……。
「あんまやる気出ないなぁ。」
「何でだよ。魔法使いに憧れてたんじゃなかったのかよ。」
 ソレザに睨まれた。彼の膝に乗せられてお尻を叩かれ始めた。彼を少しでも怒らせると、こうやってすぐにお尻を叩かれるわけだが……。お尻という叩きにくい場所なのに、拳骨やびんた並みに、すぐ叩けるソレザに驚く。この人は本当に、お尻を叩く側の初心者なんだろうか……。
「俺は、確かに尻叩きの初心者だったよ。ただ、ひろみと一緒に居たから、鍛えられたんだ。反抗的だし、すぐ口答えするし、怠けるしと悪い所だらけだからな。」
 事実なので反抗出来ずに、びしびしとお尻を叩かれる痛みに耐えるしかなかった。ただ。
「……口に出してったっけ?」
「お前の親は、その点に関しては、良心的だったんだな。」
 ソレザが感心したように言うが、意味が分からない。ソレザに伝わったらしく、続きを口にしてくれた。「魔法使い相手に、隠し事なんて出来ないぞ。特に、お前のような初心者はな。」
「えっと、魔法使いに隠し事が出来ないのは常識。それをわたしが分からないって事は、わたしの親が考え事を読んだりしなかったから。」
 いつもは会話中もゆっくりとはいえと叩かれるのだが、今回ソレザは手を止めてくれた。
「そ。だから良心的。」
 わたしが理解したので、お尻叩きが再開されてしまった。「それで、何でやる気、出ないんだよ。」
「だって、どうせショボい魔法しか使えないし……。わたしには才能が無いんだよ。」
「それを改善する為に、教え直すって言ってんだろ!」
 ローブの上から叩かれていたが、まくられてパンツも下ろされた。裸のお尻をびっちん、ばっちんと強く叩かれ始めた。
「ぎゃー、痛いっ、痛いっ。」
 わたしはバタバタと暴れたが、ソレザはものともせずに叩いてくる。彼はわたしのお尻を叩いているうちにすっかり鍛えられて、暴れるわたしを叩くのも上手くなってしまったようだ。それでも暴れていると、足の上に足を乗せられて、暴れにくいようにされるのだ。
 30発ほどだろうか。強烈なのが続いた後、普通の強さに戻った。
「いいから言う事をきいて、魔法を学び直せ。どうせ出来ないと拗ねるのは、それからだ。」
「……。」
 そんな事言われてもなぁと思ったが、口には出さなかった。
「不満そうだな。100叩きで許してやろうと思ったが、倍な。」
「うえっ。分かった、分かった。やるからぁ。」
「今更謝っても遅いし、倍って言われてから、やっと謝ろうとする根性を叩き直す為にも、300な。」
「ソレザはすぐ増やすぅ。大体、うちにいる時は最低単位が100っておかしい!」
 基本が100叩きで、一や十の単位はない。70回とか150回なんてのはないのだ。今回のようにどんどん増える時も、100ずつ増える。例外は、転んだり、物を落としたなどのドジの時くらいで、それは50で済む。落とした物が壊れると100だ。外だと、300回制限があるベンチ以外では、屈まされて20から30で済むのに……。
 しかし、わたしが一人で転ぼうが、ソレザには何も影響はないのに、叩かれるのが納得いかないが、心配させた罰だそうだ。幼児じゃないので、そんな事で心配しなくてもいいのにと言うと、反抗的なので200とか言われて、本当にそうされる。
 ソレザといると、常にお尻を叩かれている気がする。1万回叩きたいというのは、伊達じゃないのだ。
「反省するどころか、その態度か。500な。」
 怒らせてしまったようで、先ほどの強烈なのが飛んでくる。
「ひいいいっ。」
 3の次は5じゃなくて4でしょとツッコむ余裕もなかった。先ほどは強烈なのが30発ほどだったと思うが、今度は50は続いた。
 しっかり500回叩かれて、きついお仕置きは終わった。痣が出来た場所は魔法で治される。だから何回叩かれても、真っ赤になっているだけなのは、喜んでいいのか、嘆けばいいのか謎だ。
 ソレザはとんでもない数を叩くんですと言っても、誰も信じてくれないのだ。話を聞いていた村長ですら……。むしろ、村長は嘘吐きはいけないよと言って、しっかり100叩きしてくる。
 ちなみに、ソレザのルールでは、どんな理由であれ、他人に叩かれたら、倍叩きか100叩きだ。倍で100にならないなら100叩きって事になる。叩く為のルールを色々と考えだすあたり、わたしより、よっぽどお尻叩きが好きなんだろうなと思う。それでも、村長には負けるが。
「よし、仕置きも終わったし、魔法をやるぞ。」
「いや、それはちょっと……。」
「何だよ、まだ叩かれたいのか。500じゃ足りなかったか。いい事だな。小目標の千回もすぐだな」
 500も叩いた後なんだからうんざりしても良さそうなのに、嬉しそうな顔で腕を伸ばしてくるソレザから、わたしは慌てて逃げる。
「そ・そうじゃなくてっ。500発も叩かれた後に、お尻叩かれながら、魔法を教わるのは辛いって話で……。」
「……。」
 ソレザが腕組みして、しばし考え込む。「ふう。俺もまだまだだな。」
「何が?」
「目標の1日で1万回叩きの事を考えたら、ここは問答無用で、逆らったひろみを200叩き。そして、泣こうが嫌がろうが、尻叩きながら魔法を教えるべき。」
「冷酷過ぎでしょ……。」
 わたしは冷や汗を流すが、ソレザは首を振る。
「それくらい出来なきゃ、1万回、つまり2時間近くも連続で尻を叩き続けるなんて無理だ。なのに、俺は、ついひろみの事を考えて、少し休んでからって考えてしまった。」
 ソレザは溜息をつく。「俺もまだまだ甘ちゃんだぜ。」
「1万回って、2時間も連続で叩かれないと達成しない数なんだ……。100叩きに1分もかからないって事を考えると、途方もないね……。」
 長すぎて、想像がつかなかった。
「10分で1200って事を考えると、小目標の千回は、ほんと、ごく僅かだな。1時間で7200回。」
「……あの、いつのまにか、連続で叩かれる事になってるけど、時間置いてとかじゃないの……? 朝に200、お昼に200とかみたいな感じで。」
 恐る恐る聞いてみた。
「最初はそうするつもりだ。千回もそうだぞ。小分けで叩いて、夜には朝から合計して千になるようにする。それを暫く続けて、慣れてきたら1回で千叩く。それを続けて、次は2千。そうやって増やしていって、最終目標が連続1万回だ。」
「思った以上に、遠大な計画だった……。」
「そりゃそうだろ。今んとこ、連続500だぞ。それを1万ってんだから、長期的にもなる。」
 ソレザが意地悪な顔になった。「魔法で、尻は真っ赤だが痣はない状態を維持するから、本当はやろうと思えば、今からでも出来なくはないけどな……。」
「ひっ。」
「でも、まだ1日累計千回も達成してないのに、無謀だよな。やっぱゆっくりやるか。」
 その言葉に、わたしはホッとした。「さて、それは置いといて。まずはさっき言った、逆らった200叩き。それから、叩きながらの魔法の勉強だな。」
「ご・500叩かれた後なのにそれって、今日で、累計千回達成するんじゃ……。」
「あ、そうだな。よし、じゃあ、連続千回の小目標の第一歩を刻む為にも、頑張ろうな。」
 ソレザはにっこり微笑むのだった……。


 200回叩きで泣かされた後。
「魔法を使ってみろ。」
 ソレザが言った。
「教えてくれるって話では……。」
 700回も叩かれたお尻がとても痛いが、つい口答えしてしまうのは変わらないようだ。
「新しいのを教えてもいいんだけどさ。それより、魔法の出来が悪い理由を知りたいんだ。」
 ソレザは口答えと思わなかったようで、200回ぶたれずに済んだ。わたしはホッとしながら答える。
「分かったよ。」
 わたしは、この為に用意したんであろう、箱入りのボールへ向かって杖を振った。ボールは軽く浮き上がったが、すぐ箱に向かって落ちた。
「落ちるの早すぎだろ。持ち上げて、すぐに手を離したみたいじゃないか。」
 ソレザが呆れた声を出す。
「親もそんな反応だったよ……。だから言ったじゃん。才能ないんだよ。」
「つーか、下手な癖に、無詠唱とか止めろ。無詠唱は極めた人間がやるものだ。手を抜くな。」
「無詠唱って高度な技術じゃないの? 実はわたし凄いのかもって思ってたのに……。」
 創作では、無詠唱は凄い技術だった。有名な魔法学校の話では学年が上がってから習い、苦労して習得していた。異世界転生物では、チート主人公が出来て、凄いと周りから無駄にあがめられる技術だった。
「ただの手抜きだよ。慣れ切った魔法をわざわざ口に出して唱えるのがめんどいから、無詠唱にするだけだ。大体、凄い人間が、そんなショボい魔法しか出来ないのは何でだ?」
 ソレザが馬鹿にした顔で言ってきたが、確かにそうだ。高度な技術の魔法が出来るなら、それこそわたしは、チート主人公のように活躍していた筈だ。
「ぐっ……。魔法と無詠唱とは違う技術とか……。」
「諦めろよ。どんだけ自分に自信があるんだ。」
「碌な魔法が使えないわたしの、なけなしのプライドだったのに……。」
 涙が零れてきた。
「……それは悪かったな。泣かなくていいから、詠唱してみろ。」
 ソレザに軽く背中を叩かれた。
「うん……。」
 詠唱をして杖を振るう。ボールは浮き上がったものの、すぐに落ちた。先ほどと全く同じと言いたいが、気落ちしたのが影響したのか、浮いた高さが低かった。
「あー、思った通りだ。お前の親は、子育てのやる気がなかったんだな。」
「……え?」
 とんでもない事を言われてしまった。固まるわたしを気に留めず、ソレザは続ける。
「そういう親って、たまーにいるみたいなんだよな。転移者はランダム発生だから、来た時に、子供好き夫婦ばかりがいるとは限らない。血の繋がらない子供を育てたくない夫婦しかいなくて、仕方なく、そいつらの子供にされる場合があるらしい。」
「ええー……。」
「酷い話だが仕方ないな。」
「それは分かったけど。えーと。何でそう思ったの?」
「呪文がいい加減な上に、杖の振り方も変だ。それでも発動するのは、初級だからだな。小さな子供が、丁寧に正確にやるのなんて難しい。だから、初級魔法はいい加減でも、発動するようになってる。」
「……。」
「まともな親なら、大きくなってからきちんと教えこんで、修正する。なのに、お前の親は手抜きした。」
「わたしの問題じゃなかったんだ……。」
 長年の苦しみは何だったのか……。しかも呆れた顔をされたりしたのに……。早めに追い出されたのは、魔法が出来ないからではなく、厄介者とおさらばする為だったのだ。
「そうだ。だから言ったんだ。どうせ出来ないって言うのはまだ早いって。原因が分かってから言う事なんだ。」
「そうみたいだね……。」
「ただなぁ。ひろみの性格を考えるとなー。親だけを責められない気もしてくるんだよな。生意気で可愛くないから、きちんと教えたいと思えなかった可能性も……。」
「……どうしよう。否定が出来ない……。」
 ソレザからは散々口答えや逆らう事を叱られているが、親にも似たような態度を取っていた。嫌いだからではなく、納得のいかない事を言われると、反抗したくなってしまうのだ。でも、相手としては鬱陶しいだろう。
「まあ、お互いに悪かったって事かもな。厳しい親だったら、散々ひっぱたかれたかもしれないが、今頃、普通の魔法使いになってたろうな。」
「そっか。」
「まあ、その厳しい親の代わりに、俺が散々叩いてやるぜ。1万回は最終目標だが、別に達成したらそれで終わりじゃなく、続けて行く事だからな。」
「週1日の休みがあっても、毎日1万回も叩かれたら、治癒魔法があっても、死ぬと思う!」
 わたしは叫んだ。
「いや、さすがの俺も、そんなにはしない。毎日は千くらいじゃね。1万は月1の尻叩き祭の後夜祭にする予定。まだ分からんけどな。」
「そ・そう……。」
「さて、話は終わりだ。魔法の練習をするぞ。まずは、正しい呪文詠唱からだ。キチンと言えるようになるまで、10発ずつな。」
「ほんとこの人は桁が違う……。」
「20でもいいぞ。」
 ソレザに睨まれた。
「10でお願いします。」
 わたしは慌てて言った。


 夜。寝る時間。寝るんだから、さっさとベッドに潜り込みたい。なのに、わたしは、ベッドに座ったソレザの膝に乗せられていた。朝起きた後もこうなる。その状態で200叩かれないと、着替えたり、朝ご飯の支度をしたりも出来ない。
「寝ようよー……。」
「魔法を教える時に叩いたけど、千に130足りないんだ。だから130いくぞ。」
「ううー。って事は、魔法を教えられながら、170回も叩かれたんだ……。」
 ぱんぱんと連続で叩かれる。
「間違える度に10は少なかったな。明日は20にしよう。」
「多いー。」
「ひろみはそうやって愚痴るけど、結局は叩かれたそうにするんだよな。」
 ソレザが笑いながら言う。「だから、俺は心置きなく、数をどんどん増やせるし、1万も達成出来ると思ってるんだ。」
「……またしても否定が出来ない……。」
 理由があっても無くても、こんなに叩きまくるソレザと結婚できて、わたしは幸せだと言う事なのだろう。


20年5月27日
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