少女ザン

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  番外1 シィーとトゥー5(1)  

5 2の真ん中のお話1
 豪邸を買ったまでは良かったが、家事をやってくれるメイドが居ない事に、シーネラルは気づいた。妖怪なら誰でも持ってる特殊能力のお陰で、人間が使うどの言語でも、話す事も聞く事も出来るが、読み書きまでは無理だ。それで、日本人の生態について語ってくれた自称日本人に詳しい妖怪の家へ行き、メイド募集の方法について訊いた。親切な彼は、悪戯される事を考えて、予備付きで張り紙を作ってくれた。
「それを壁に貼っておくといい。で、やってきた女どもと話をつければ、和製メイドの出来上がりだ。」
「分かった。有難う。」
 シーネラルは頷いた。

 家に戻って、壁に紙を貼った。読めないが、何て書いてあるかは教えてもらった。
 “家政婦募集 委細面談”

「日本ではメイドを家政婦、お手伝いさんと呼ぶんだ。で、細かい事は話して決める。給料とか、住み込みか通いかとか。それでいいだろ?」
「そうだな。」
「あ、大事な事を言い忘れる所だった。」
 男は頭を掻いた。弾みで、人間風の耳が外れて落ちた。彼はそれを拾うと、鏡を見ながらそれをくっつけた。黒髪のかつらがずれて、青緑色の肌と藍色の髪の毛が見えていた。彼はそれに気付いてかつらの位置を直すと、やっと口を開いた。「日本人は…というか、人間は、失敗したら、尻叩きなんてないから。」
「じゃあ、どうやって躾けるんだ?」
「はやるな。来た女に言えばいいんだ。ここでは失敗したら、尻を叩くからと。」
「…。」
 シーネラルは、「そうじゃなくて、人間の躾について…。」と言いかけたが、止めた。そんな事はこれから調べればいいのだ。そうしたくて、人間界へやってきたのだから。

 紙がきっちり張り付いているのを確認したシーネラルは、家の中へ入った。
「髪、切るか。」
 長い髪がそろそろ鬱陶しくなってきている。この世界の彼は伝説の男ではないので、髪は定期的に切っていた。10年間人間界で暮らして来たが、髪は短くても無問題だった。髪の長さに左右されるほど、強い妖怪と戦う必要がない。人間界に住んでいる妖怪達は、人間を愛していたから、多数の死者が出るような迷惑行為はしないのだ。
 メイドを雇ったら、一番に髪を切ってもらおうとシーネラルは考えた。

 何日も待つ覚悟をしていたが、その日のうちに二人の女の子が来た。豪邸に住むぼろ青年が面白かったのかもしれない。
「舞って言いまーす。」
「白川です。」
 やけに明るい女の子と真面目そうな女の子。二人は偶然一緒になっただけで、面識はないそうだ。
「とりあえず、あがってくれ。家事には疎いから、汚いが…。」
「日本語がお上手ですね。良かったあ。英語なんてわかんないし。」
 舞が言った。

「うわっ。」
 声に出してしまってから、白川がはっとした。「す・済みません…。」
「別に。」
「え?何で謝るの?すっごい豪邸だもん。いいじゃない。わたしも出そうになったよ。」
 舞が不思議そうに言った。シーネラルと白川の目が合ったが、二人とも何も言わなかった。白川の声は、豪華さではなく、汚さに驚いたから出たのだ。声で分かりそうなものなのだけど、舞は気づかなかったようだ。「失礼なのかな?」
「気にしなくていい。それより、座ってくれ。」
 三人は座った。
「何人雇うおつもりなんですか?」
 舞が言った。「おっきいお家だし、一人じゃ無理ですよね。」
「特に決めていない。この家を維持するのにどれだけ必要なのか、俺には分からない。ただ、全部の部屋は使わない。俺の飯の支度なんかをやってくれれば。」
「えっと、掃除とご飯支度と、洗濯と…。」
 指折り数える舞。
「ご家族は?」
 白川が言う。
「俺だけ。増える予定はない。」
「住み込みか通いかは決めてあるんですか?わたし、通いがいいなと思ってるんですけどぉ。」
 舞はおどけて言う。「こーんな素敵な旦那様の前で、だらしないカッコ見せられないし。」
「ご主人様じゃないの?」
「なーに言ってんの、白川さん。奴隷じゃないんだよ?Hなのとかの見過ぎじゃない?」
 舞の言葉に白川の顔が紅潮する。
「俺は、名前で呼ばれてもかまわないが。」
「シーさん、とか?」
「飲み屋のママみたい。」
 今度は白川が突っ込んだ。舞がそれを聞いて笑い出した。
「はははは、やっぱり旦那様、だね。」
「そうみたいね。」
「通いでも住み込みでも好きにすればいい。」
 シーネラルは素っ気無く言った。「俺の世話さえしてくれれば、細かい事はどうでもいい。」



2005年03月23日
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