学校のお話
6 ネスクリが憑依したもの
そこへ。
「待たせたな!」
ザンが戻ってきた。
「お、やっと戻って来…!!!…??」
トゥーリナが言葉を失っている。和也は、ザンの後ろから入って来た、ペパーミントグリーン色の髪をした男を見た。『凄い色の髪の毛…。』男は、トゥーリナに気付くなり、彼に襲い掛かってきた。
「あの時は、よくも…。ずっとお前に復讐したいと思っていた…。」
トゥーリナは後ろへ飛んで攻撃をかわし、
「ネスクリ!お前なんでここに…?」
「俺の城を襲った賊が、そいつだったんだ。何で肉体があるのかは、今聞こうと思ってる。俺の部下達で、そいつを知ってる奴は、すっかり怯えているからな。」
ザンが、軽く息を吐きながら言った。
「お前がそれを知る必要はない。今ここで俺が…、…!」
ネスクリがトゥーリナから離れた。すぐ後ろにターランが立ったからだ。「ターラン…。」
「…ねえ、ネスクリさん。今ここで、トゥーはどうなるの?」
「どうにもならない。ターラン、ここには子供が沢山いるんだ。お前は気にしないだろうけど、俺は非常に気にする。」
トゥーリナがターランへ言い、ザンも
「俺も子供の前で、戦って欲しくないな。それに、今のネスクリは、かなり強い。城が壊れるから、戦うなら外にしろ。」
「トゥーリナを襲った人を、許さなくちゃいけないの?」
「俺のものだぞ?こいつは、俺と戦いたがってるんだからな。」
「トゥーがそう言うなら、僕は我慢するね。」
ターランは微笑んだ。
「相変わらずなんだな…。」
「そうだよ、ネスクリさん。俺は、トゥー命なんだ。だから、もし、トゥーが敗れたら、俺があなたを殺してあげる。…いたっ。」
ターランは、トゥーリナとザンに後ろ頭をはたかれた。「何するのさ。」
「俺がそう簡単に負けるか!」
と、トゥーリナ。
「子供に物騒な言葉を聞かせるな!」
と、ザン。
「もしって言ったじゃないー。ぶつなんて酷いよ。」
「五月蝿い!」
「わー、怒らないで、トゥー。」
「…随分、情けなくなったな…。」
ターランがトゥーリナにすがりつくのを見たネスクリが、ボソッと言った。
「五月蝿いです。」
ターランは睨んだ。
「あのー。」
ザンの肩に座っているジャディナーが言った。
「何だ?」
「学校の話はしないんですか?」
「それは、百合恵達が戻ってきてからだ。ネスクリ、さあ、何故そうなったのか、説明しろ。」
ザンは言った。
「はい。ある日、俺は、前に取り付いていた人間が弱ってきて、新しい宿主を探していました。そして、若くて、体力が十分にありそうな若々しい男を見つけました。ほんの少しだけ、何かが違うという感覚がありましたが、早くしなければ、俺は死にそうでした。」
ネスクリは続ける。「禁を犯した俺は、正式な死を迎える事は出来ません。どうなるのかは分からないけれど、非常に強い恐怖を感じていましたので、少しの違和感など、気にしていられませんでした。」
「それで?」
「取り付いた瞬間、俺はそいつの中に、引きずり込まれました。いつもは肩の上にとどまっているだけなのに…。意識が途絶え、何も分からなくなりました。」
「…。」
「気が付くと、俺は何処かの部屋にいました。取り付いた奴の部屋だろうと思いました。俺は立ち上がり、壁の鏡を覗き込みました。」
「おい、それはおかしいぞ。取り付いた奴の体を、自由に動かしたって言うのか?」
「はい。今までは、取り付いた相手の意思無しに、勝手に体を動かせませんでした。でも、その時は何の疑問も感じませんでした。」
「何でだ?」
トゥーリナが言った。
「それを今から説明するんだ。馬鹿蝙蝠は黙ってろ。」
ネスクリは、トゥーリナを睨むと、続けた。「鏡には、俺が映っていました。霊のような俺でも、鏡に映るのですが、映っていたのは、実体の俺でした。暫く呆然としていました。俺はその取り付いた奴と、同化していたのです。」
誰かが、ほうっと息を吐いた。「着ていた服を全て脱いで、体を見回しましたが、驚いた事に、俺の体そのままでした。長い戦いでついた傷もありました。何もかもが俺でした。そして、取り付いた奴自身の気配が、まるでありません。…事態を完全に理解するのに、数日かかりました。」
「…それで…。」
「俺は、自分の肉体が、何らかの理由で人間界に合ったのではないか、とまで思いましたが、そんな筈はありません。事実、俺は生きていた頃より、遥かに強くなっていました。この肉体は取り付いた奴の物で、俺の物ではないのです。」
「うーん。」
「部屋を調べて確信しました。こいつは、人間ではありません。元から人間の筈がなく、妖怪でも、その他、俺の知っている、どんな生き物でもないと分かっていました。」
ネスクリは、自分の掌を見ました。「こいつは…こいつは、宇宙人です。」
「何だ、その落ちは。そこまで引っ張ってきて、それはねえだろう?」
ザンとトゥーリナとアトルは、馬鹿にした表情になり、だらけた。ジャディナーも呆れた顔をした。しかし、ターランは酷く真面目な表情になり、和也とディザナとリトゥナは面白そうな顔をした。
「ネスクリさん、部屋に、どの種族も使っていない文字がありましたか?」
「ああ、日記があった。俺が読める筈はないが、こいつの意識が何処かにあるのか、すらすら読めた。観光目的で地球に来たらしく、人間について、面白おかしく感想を書いていた。人間以外の存在にも気付いていて、妖精や悪魔にも会うつもりだったようだ。」
「妖怪には?」
「妖怪は、人間界にも住んでいるから、わざわざ会うつもりはなかったようだ。あくまでこいつの目的は、人間界の観光だからな。興味が沸けば、妖魔界にも来ていたかもしれないが。」
ネスクリの言葉に、ターランは考え込み、和也は驚いて言った。
「えっ、人間界って、僕が住んでる所でしょ?妖怪さんが人間界にいるの?」
ネスクリは和也を一瞥したが、何も言わなかった。変わりに、トゥーリナが答えた。
「アトルみたいに、人間と変わらない外見の奴や、変身出来るタイプの妖怪の中に、面白がって人間界に住む奴がいるんだ。」
「あ、じゃあ、正体は隠してるんだ。」
「ああ。人間は、自分達以外の知的生命体に対する…。」
そこまで言ってから、トゥーリナは和也がぽかんとしているのに気付き、簡単に言う事にした。「うーんと、要するに、宇宙人が見つかったら嬉しいかもしれないけど、人間は普通、世の中には、自分達しかいないと思ってるのさ。」
「動物がいるよ?」
「うーんとな、そういう意味じゃなくて、例えば人間は、悪魔や妖精が本当にいるなんて、信じていないだろ?」
「うん。あ、そうか…。」
和也は、難しいなあと思った。