学校のお話

5 収束

 そして、ザン達は…。
「でも、有名人だからってそれだけで、部下にするなんて…。」
「誰がそれだけで部下にしたと言ったんだよ?勝手に決めんな。」
「そ・そうですよね。」
 ザンにギロリと睨まれ、ネスクリは焦った。
「もちろん、使えるからに、決まってるだろ。どっかの馬鹿が壊しちまったが、最高級の義手と義足を買ったから、それが妨げになる事もないしな。」
「ごめんなさい、ザン様…。」
 ネスクリは俯いた。ザンはお金に関して、無頓着だ。あまりにも気にしなさ過ぎで、ネスクリが彼女の部下になった頃、お城の財政状況は逼迫していた。そのザンがこういう言い方をするとは…。
「稼いでもらうからな。」
「!あ・有難う御座います!一所懸命に働きます!」
 頬を紅潮させたネスクリを見たリーロは、
「ザン様、冗談じゃないですよ!何でこんな死に損ないを!」
「誰が死に損ないだ!」
「リーロ、お前は知らないだろうが、こいつは使えるんだ。こいつをトゥーリナが殺しちまった時、俺は途方にくれた。こいつの後釜に座れる奴なんているわけがなかったからな。」
「で・でも…。」
「リーロ、お前、本当はギンライ様の所が良いんだろう?帰ればいいじゃないか。俺がいれば、お前なんか、何の役にも立たないんだから。」
 ザンに認められたネスクリは、調子に乗って言った。
「…ネスクリ、いい加減にしろよ。城中の奴を傷つけたお前を、俺が許したと思っているのか?人間界へいる間に、俺の性格を忘れたんじゃないか?」
 ネスクリは、ぞくっとした。ザンの表情は、冷酷そのものだった。彼女は続ける。「俺は、部下は可愛いけど、他の奴は何とも思ってないんだぞ?今の所、お前は賊だ。…この意味は分かるだろ?」
「は・はい…。」
「なら、黙れ。」
 ネスクリは慌てて頷いた。ザンは満足げに微笑むと、不満で一杯のリーロを見た。「リーロ。“今”のお前の上司は誰だ?」
「…ザン様です…。済みません…もう逆らいません…。」
 リーロは顔をしかめながら言った。
 『ザンは恐ろしい女なんだ…。行きたくなかったら、ここにいても良いんだぞ?』優しく言ってくれた、ギンライの顔が思い浮かんだ。正気でいる時間が減った彼に、変わらず尽くしたリーロ。ギンライはとても感謝してくれていた…。
 『ギンライ様の言う通りにしていれば、良かったかもな…。』ふと、思った。
「外にいる奴等が心配しているだろうし、ペテル達を放っておけないから、俺はまず、城が安全になったと伝える。その後、さっき言った通りに、ネスクリは俺とトゥーリナの城へ行くんだ。」
「はい、ザン様。」
「皆はお前を怖がっているから、俺の部屋へ入ってろ。」
「分かりました。」
 ネスクリは返事をすると、ザンの部屋へ入って行った。

「じゃ、ペテルさんとリーロさん以外の人達は、無事なんですね。」
 トゥーリナの言葉を聞いたディザナは、ほっと胸を撫で下ろした。「亡くなった人がいなくて良かった…。」
「本当ですわね。」
 アトルが言う。彼女自身、部下の人達はどうでもいいのだけど、友達のディザナが悲しむ姿を見たくなかったのだ。
「なあ、リトゥナ。百合恵とソーシャルは、何処へ行ったんだ?」
「ソーシャルちゃんが悪い言葉を言って、お母さんがお仕置きしに連れて行っちゃったよ。」
「そうか。別にここでも良いような気がするけどな。…しかし、ソーシャルの奴は、どうしてああなんだろう…。」
「お父さんが、優しいからじゃない?」
「うーん。女の子ってどう扱って良いのか、分からないんだよなー。下手に厳しくするのは壊れちまいそうだし…。」
「お祖父ちゃまに聞いたら?」
「あ、成る程。」
 トゥーリナは納得した。
「トゥーリナさんのお父さんって、どんな人?」
 和也は言った。
「口煩いし、すぐ手を上げるやな奴さ。でも、俺にとっては、いい親父なんだ。体と心が病気中で、ちょっとやっかいだけどな。」
「大変なんだね。」
「良いのさ。今まで出来なかった親孝行が出来るからな。」
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