15.

経営が破綻した会社が残した、負の遺産。

その象徴とも言うべきビルが、4丁目に残されていた。

西條と功は、そこへ駆け込み、相手の出方を待った。

ビルは身を潜めやすかったが、それは相手にとっても同じ条件。
全ての神経を外へと、二人は集中させていた。

風の抜ける音、どこかの工事の音、工事用具にかけられたビニールシートが風にあおられて、はためく音。

それぞれの音の、原因を特定しつつ、犯人を待つ。

しばらく異音はしない。と、車が入って来る音がした。

西條の携帯が震える。

「行くぞ」

功が頷き、西條が援護射撃を行う。

「コウ!!」

その銃声に、自身の位置を示すかの様に、鳩村が大声を上げた。
鷹山と大下も、二人のフォローのために、建物の周囲に散開する。

「ハトさんっ!!」

功が、キューブの前へと駆け込んで来た時、鳩村がいきなり功めがけて、発砲した。
それを目の当たりにした、龍が、

「鳩村っ!!」

と、大声を上げた。

その直後、功は鳩村の元へと無事に駆け込んで来ていた。

「コウ、お疲れさま」
「ただ今ー」

安堵の表情の立花に、龍はほっとするも、弾丸の行方が気になり、目でその方向を見た。すると、銃をしまう西條と、小久保を引っ張って来る鷹山、大下が見えた。小久保は銃をはじき飛ばされ、手にかすり傷を負っていた。

「鳩村…」

龍が、恨めしそうな目で、鳩村を見た。

「お前、いっつもこんなことやってんのか!! 功に当たったらどうするんだよっ!!」

と、いきなり襟首を掴んで、締め上げた。慌てて功が、その手を引きはがす。

「当たるわけないじゃん! ハトさんの射撃の腕は、警視庁1なんだよ!」

と、そう言う功の髪の毛を、西條が引っ張った。首がかくんっと反る。

「あてて」

「俺もいるんだけど」

「ドックさんは2番目」

「ちっ」

その時、鷹山と大下が、功達のところへ小久保を連れて来た。

「さてと、小久保君。君が要の弟だってことは分かってるんだ。どうして豊田氏を殺したんだ?」

しかし、小久保は龍を睨みつけるだけだった。

「そんなに俺が憎いなら、俺だけ狙えばいいじゃないか。どうして功まで、巻き込むんだ!」

龍の恫喝が、ビルに反響する。

小久保が、苦々しげに、龍へと言った。

「あんた殺人犯にしたって、あんたは苦しまねぇじゃねぇか。あんたを苦しめるために、立花を利用したんだよ」

龍は、ふうっと、深いため息をついた。

「俺は安藤要の弟だということを、ひた隠しに隠して生きて来た。全て、あんたのせいだ!!」

「要するに、コウが羨ましいんだ」

西條もため息をつく。

「成功し、トップスターの兄を持ちつつ、自分はスカウトも断って、警官の道を選び、順風満帆に生きてるコウが」

「ガキの理屈だな」

鷹山も、小久保を蔑むような視線で、吐き捨てた。

「豊田氏のしつこい取材の最中、あんたはあんたの彼女の岬さんから、偶然立花のことを聞いて、さらに劣等感を募らせた。そして、おれたちみたいな、素晴らしい友人を持つ事も突き止めた」

大下は、「素晴らしい友人」にアクセントをつけて、話した。

「そんな時、思いあまって豊田氏を殺してしまったあんたは、とっさにコウをはめる事を思いついたんだ。で、彼女である岬さんに頼み、一服盛ったと」

鷹山が後をつぐ。

「とまあ、ここまでが、俺が考えた事件の顛末。おそまつさまでした」

と、龍が最後に締めた。
小久保は、がっくりと肩を落としていた。

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