経営が破綻した会社が残した、負の遺産。 その象徴とも言うべきビルが、4丁目に残されていた。 西條と功は、そこへ駆け込み、相手の出方を待った。 ビルは身を潜めやすかったが、それは相手にとっても同じ条件。 風の抜ける音、どこかの工事の音、工事用具にかけられたビニールシートが風にあおられて、はためく音。 それぞれの音の、原因を特定しつつ、犯人を待つ。 しばらく異音はしない。と、車が入って来る音がした。 西條の携帯が震える。 「行くぞ」 功が頷き、西條が援護射撃を行う。 「コウ!!」 その銃声に、自身の位置を示すかの様に、鳩村が大声を上げた。 「ハトさんっ!!」 功が、キューブの前へと駆け込んで来た時、鳩村がいきなり功めがけて、発砲した。 「鳩村っ!!」 と、大声を上げた。 その直後、功は鳩村の元へと無事に駆け込んで来ていた。 「コウ、お疲れさま」 安堵の表情の立花に、龍はほっとするも、弾丸の行方が気になり、目でその方向を見た。すると、銃をしまう西條と、小久保を引っ張って来る鷹山、大下が見えた。小久保は銃をはじき飛ばされ、手にかすり傷を負っていた。 「鳩村…」 龍が、恨めしそうな目で、鳩村を見た。 「お前、いっつもこんなことやってんのか!! 功に当たったらどうするんだよっ!!」 と、いきなり襟首を掴んで、締め上げた。慌てて功が、その手を引きはがす。 「当たるわけないじゃん! ハトさんの射撃の腕は、警視庁1なんだよ!」 と、そう言う功の髪の毛を、西條が引っ張った。首がかくんっと反る。 「あてて」 「俺もいるんだけど」 「ドックさんは2番目」 「ちっ」 その時、鷹山と大下が、功達のところへ小久保を連れて来た。 「さてと、小久保君。君が要の弟だってことは分かってるんだ。どうして豊田氏を殺したんだ?」 しかし、小久保は龍を睨みつけるだけだった。 「そんなに俺が憎いなら、俺だけ狙えばいいじゃないか。どうして功まで、巻き込むんだ!」 龍の恫喝が、ビルに反響する。 小久保が、苦々しげに、龍へと言った。 「あんた殺人犯にしたって、あんたは苦しまねぇじゃねぇか。あんたを苦しめるために、立花を利用したんだよ」 龍は、ふうっと、深いため息をついた。 「俺は安藤要の弟だということを、ひた隠しに隠して生きて来た。全て、あんたのせいだ!!」 「要するに、コウが羨ましいんだ」 西條もため息をつく。 「成功し、トップスターの兄を持ちつつ、自分はスカウトも断って、警官の道を選び、順風満帆に生きてるコウが」 「ガキの理屈だな」 鷹山も、小久保を蔑むような視線で、吐き捨てた。 「豊田氏のしつこい取材の最中、あんたはあんたの彼女の岬さんから、偶然立花のことを聞いて、さらに劣等感を募らせた。そして、おれたちみたいな、素晴らしい友人を持つ事も突き止めた」 大下は、「素晴らしい友人」にアクセントをつけて、話した。 「そんな時、思いあまって豊田氏を殺してしまったあんたは、とっさにコウをはめる事を思いついたんだ。で、彼女である岬さんに頼み、一服盛ったと」 鷹山が後をつぐ。 「とまあ、ここまでが、俺が考えた事件の顛末。おそまつさまでした」 と、龍が最後に締めた。 |