「龍、ちょっと隠れてろ」 鳩村は、サイレンが近づくのに気付き、龍を隠れさせた。 「暁のオーディションは、本当にデキレースだったんだな」 関口は、落ち着きを取り戻していた。 サイレンが目の前で止まり、どかどかとうるさい足音が響き、四人の男が現れた。 「鳩村さん・・・? 争う声の主は貴方だったんですか?」 と、鳩村は関口を見た。小久保達も、関口を一斉に見た。 「ああ、違うね。うちのアイドルのストーカー対策について、ご教授願ってた所、少し意見が食い違ってね」 「それなら、いいんですがね・・・」 小久保はちらりと、鳩村を見た。 「全く、後輩が後輩なら、先輩も先輩か・・・」 と、捨て台詞を吐くと、一緒に来ていた制服共々、引き上げて行った。 「とっさに、まあ、上手い事言うもんだ」 ようやく、力が抜けたのか、椅子の中で崩れる様にしている関口に、鳩村はまた苦笑した。 「あの男・・・」 龍が、そう呟いた。 「どうした?」 鳩村が言う。そんな鳩村越しに、関口を見た龍は、 「社長、いいんだよぉ、訴えても。俺は痛くも痒くもねえよ」 と言い放つと、事務所を後にした。鳩村も、関口を振り返りすらせず、ドアを閉めた。
外に出た龍は、電球の切れかかっている街頭の下にいた。 「お前、自分の力すら信じられなくなったんじゃないだろうな」 と、携帯のバイブレーションの音が微かに響いた。 「ドック、どうだコウは?」 言ってしまってから、慌てて龍をみやった。 「しまっ・・・」 『龍がそこにいるのか?』 鳩村の両耳から、西條と龍の言葉がサラウンドの様に響く。 龍が鳩村の携帯をもぎ取ろうと突進して来たのに合わせ、左に躱してそのまま、後頭部に一撃入れた。 「鳩・・・」 龍が意識を飛ばす直前、龍は鳩村を恨めしそうに一瞥して、目を閉じた。 「おっとと・・・」 受け身が取れないままに崩れ落ちそうになった龍を、鳩村が受け止め、そのまま道路に横たえさせた。 「やあ、ドック」 でも、少し心配になって、龍の寝顔を見下ろした。別に傷はついていないようで、ほっとする。 『ああ、コウは無事だ。少し喉が痣になってるけどな。親父が大丈夫だって太鼓判押してくれたから、平気だよ』 鳩村が一つ大きく息をついた。それなら、安心だろう。 しかし。 「内部犯か・・・。やっかいだな」 いきなり、上着の裾をぎゅっと掴まれ、鳩村は驚いて、横たわっている龍を見た。 「お前・・・」 龍は、後頭部を痛そうに押さえつつ起き上がり、鳩村の横へ座り直した。 「きっちり落とせたと思ったのにな」 『何だ、龍、起きたの?』 西條の声に、鳩村が携帯を龍へと向けた。 「おはよう。ちょっと仮眠しちゃった」 『なあ、龍。いいアイデア出たら、ハトに出してやってくれな』 龍は、鳩村を見た。それを見て、鳩村は携帯を自分へと戻した。 「ドック・・・?」 と、西條は一方的に切った。 「ドラマティックなエンディングか・・・」 鳩村が空を見上げると、ビルの隙間から、空が白々と明け始めていた。 「あ・・・、そうか・・・」 龍が、その空を見上げ、次の瞬間、鳩村の横顔に視線を投げた。 「ドラマティックな、エンディング、資料揃ったら、脚本書くぜ」 と、いつもの調子で、鳩村に笑顔を投げかけて来た。 |