夜。留置場は快適だった。

意外に、心地いいもんなんだな。こりゃ、舞い戻ろうとする奴が多いのもわかるな・・・、と立花は思った。

 

妙に息苦しくて、目が覚めた。

 

それもそのはずだ。

自分の上に男が覆い被さって、顔まで掛けられた毛布越しに、首を絞めているのだから。
手の感覚から、その人物が男だという事だけ、わかった。

 

油断し過ぎていた。
警察署内部だから、という安心感があった。

両手は、男の両足の下敷きになり、首元の手を振り払う事も出来ない。

 

だが、男にも油断があった。
立花がきゃしゃな男だ、という認識しかなかったのだ。

立花は自由の効く足で、かろうじて男のの背中を蹴り飛ばす事に、成功した。

男は不意をつかれ、立花の上から吹き飛ばされた。

立花は顔の上にかかっていた毛布を、思い切り取り払い、男の顔を確認しようとした。

だが、男はすでに逃走していた。

 

立花は、思い切り咳き込んだ。新しい空気が、いままで塞がれていた気道から、一気に肺に流れ込む。
喉がひりひりする。 中も、外も。

留置場担当の警官が、立花の異様な様子に、慌ててやって来た。

「どうした?」


このまま、ここにいたら、きっと殺される・・・。
犯人は、内部の人間しかあり得ない・・・。


「い・・・、医者に・・・、西條医院へ・・・・」

 

そう言うと、立花はその場に倒れ込んだ。

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