10.

「・・・なんだ、こりゃ」

高崎は、スタジオの前に大挙して押し寄せているマスコミの群れに、呆れ返った。

「・・・俺目当て、なんだろうなぁ・・・、やっぱ・・・」

いくら自分が、冤罪だと分かっていたとしても、公式発表はされているはずだし、自分は芸能人で、ハイエナどもからすれば、こんな金を生むようなネタを逃がす訳はない。
一気に力が抜けた。

仮面を外すしか、方法はないんだろうか。
今までのいい子いい子な仮面を。

と、いきなり腕を引かれた。瞬間、息を飲む。振り返ると、そこには坂上がいた。

「玲・・・」
「隆、裏から入ろう」
「ああ」

こっそりと、中に入る事に成功した。
ようやく、安堵のため息を吐き出すと、自分の楽屋へと向かった。
今日は、スタジオでの撮影だ。外の喧噪を気にせず、芝居へ没頭する事が出来る。

「あれ?」

高崎が、メイクをしてもらう時、疑問の声を上げた。

「どうした?」

「まてよ・・・」

マスコミは、木暮警視ががっちりストップをかけているはず。
じゃあ、なんで彼らがここにやって来た?

「ちょっと、メイクストップ」

高崎は、自分の携帯を取り出すと、鳩村へと電話をかけた。

「ああ、鳩村? 功のことなんだけど、公式発表した?」

『いや、藤堂さんも抑えてくれてる筈だが。どうした?』

「ん・・・。それならいいけど」

『そうそう、お前、暁のオーディション、事務所の勧めで受けたのか?』

「え・・・、それは俺が自分で決めたんだけど。どうして?」

『そのことを、被害者は調べていたらしいんだ。デキレースだったんじゃないかってね』

「冗談じゃないっ!!」

突然の大声に、坂上も、メイクの女の子も、一瞬にして凍り付いた。

「あの役は、俺が自分で勝ち取ったもんだ! そんな八百長・・・」

『なかった、と言い切れるか』

鳩村の静かな声に、今度は高崎が固まった。
ずっと、芸能界でやってきて、裏の黒い所も見えている。
自分だけが白だとは、決して言い切れない。
今の自分のことならば、白と言い切れる。だが、当時は事務所に所属し、その事務所が何かを画策していたとしても、断れる立場ではなかった。

「それが、今回の事件の背景なんだな・・・」

ぐん、と声のトーンが落ちた。

「安藤要の、関係者が、ホシなんだな・・・」

『隆、何考えてる』

「俺のせいで、功がまきこまれたんだな・・・」

『待て、隆!!』

「隆?」

鳩村の制止も聞かず、高崎は携帯を切った。坂上が心配そうに、鏡の中の高崎の顔を覗き込んでいる。
高崎は、その場に携帯を置いたまま、楽屋を飛び出して行った。
慌てて坂上が追うが、正門のマスコミも振り切り、そのままタクシーに乗って、街へと消えて行った。

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