鷹山と、大下、それに鳩村は、TOPの本部事務所に来ていた。 『それが返っていいんだよ』 と、水原慎介は、いつか鷹山たちに、にやっと笑って答えた事がある。 わけありな人たちでも、きままに立ち入る事が出来るように、本部はそういう場所にしたのだと。 その言葉の通り、新宿分所は主婦、OLでも大丈夫なように、マンションの一室に、まるでカモフラージュでもするかのように存在している。 そして、渋谷の応接室の、木製のテーブルの真ん中に、不自然に一枚のコインが埋め込んであった。 鳩村が、テーブルに施されたコーティングの上から、コインをなぞる。 「・・・フランスの、古い硬貨だな・・・」 大下がお茶を持ち込んで、そう言った。 「ちょっと、辛そうだったから、詳しい話は聞けなかったけどね」 鷹山もそう言う。鳩村は、納得したように、頷いた。 「で、竜さんからの頼みで、ちょっと調べていたんだけど」 鷹山が、鞄からファイルを引っ張り出した。 「豊田が調べていたのって、龍じゃないんだ」 ファイルに挟まれていた手帳を開いて、そう言った。 「龍の、出世作、覚えてるか」 あごに指を置いて考えている大下を横目に、鳩村が正解を言う。 「暁。それのオーディションに受かって、準主役を勝ち取ったんだ」 『暁』。内容は、よくある青春ドラマ。学校が舞台で、先生が一年を通して、生徒と向き合って行くという、まるで金八先生みたいなドラマだった。龍の役どころは、クラスのリーダーとして、悪ガキどもも引っ張って行くような、お山の大将みたいな感じだった。 「その、オーディションに関することを、調べまくっていたようだ」 鳩村が手帳を受け取ると、ぱらぱらと読み出した。その肩越しから、大下も手帳の文字に目を走らす。 「かいつまんで話すと、実質、龍ともう一人の戦いだったらしい。実力も伯仲、演技テストでも、甲乙つけがたい勝負だったそうだ。当時、同じオーディションを受けた人の話だとな」 鳩村は、鷹山を見つつ、自分の顔に、妙に距離の近い大下の顔を押しのけた。 「子供か、お前は」 そのまま、手帳も渡す。大下は手帳を受け取ると、面白そうに読み始めた。 「そのもう一人って?」 大下が手帳から目を離して、補足する。 「確か、シャブ中がメンバーから出て、結局解散してるなぁ」 好きと嫌いは紙一重らしい。 「とにかく、そうなると、事務所の力関係がものを言ったらしい。当時、要はどこにも所属してなかった。龍は、大手のジェニスにいたんだろ」 鳩村が頷く。 「そうなれば、結果は歴然。・・・・というのが、普通だよな。ところが、豊田はそう思ってなかったようだ」 大下が頷くが、鷹山が首を振った。 「テーマはそこじゃない」 鷹山は、ふと表情を暗くした。 「精神病院」 「そのオーディションで落ちたものの、彼もその番組に出ることになった。が、彼はそれを拒んだ。かなりプライドの高い人間で、準主役には、自分こそふさわしい、高崎なんてポッと出の人間になぞ、勤まる訳はない。そう言って去ったらしいが、放送見たんだろうな。かなり打ちのめされたらしい。そのまま、バンドも鳴かず飛ばずとなって行き、ストレスから覚せい剤に手を出し、バンド解散。さらに悪い事に、そのバンドの一人が他のメンバーと組んだバンドが売れて行く。で、段々精神のバランスを崩して行って、今じゃ弟の顔も判別出来ないそうだよ」 「弟?」 鳩村が、怪訝そうな顔で聞く。嫌な予感がする。 「ああ。豊田が出会った安藤の関係者って、弟らしい」 |