8.

田園に着いた三人は、早速当日の様子を尋ねた。
店長と、数名のウェイトレスは、鳩村も顔見知りだった。

「えーと、あの日のシフトは、私と塩田君と、岬君だったね」

店長が、カウンターの中で、思い出すように少し視線を上に向けた状態で答えた。

「はい」

カウンターの中にいた、鳩村も顔を知っている女性が、その言葉に頷いた。ネームプレートには、『塩田』とあった。

「岬さんという人は、どういう人ですか?」
「女性で、三ヶ月前からバイトに入ってきている人。おとなしい感じで、きゃしゃな感じかな。今は、一昨日から旅行だっていうんで、休み取ってますけど」
「当日の立花の様子はどうでしたか?」

大下が、メモを取りつつ、質問を続ける。それに塩田が答えていた。
店長は、カウンターの中での作業ばかりで、客席は見えていないとのことだった。

「立花くんは、モカを頼んで、あの一番奥の席で座って携帯をいじってましたけど・・・」

塩田は、一番後ろで控えている、龍の方をちらちら見ている。
店内は、三人と、店長、塩田さんの五人しかいない。それを確認すると、塩田が口を開いた。

「高崎さん、ですよね」

と言った。鳩村と、大下が一瞬固まる。だが、龍はその問いにも、動じていない。

「だったら、どうするの?」
「いえ、立花さんとのこと、知ってますから」
「君だけ?」
「いえ、この店の店員全員知ってます。立花さんは、あんな事する人ではないです。だから、信じてますから、がんばって下さい」

「ちょっと待って」

鳩村が、塩田の言葉に間髪入れずに口を挟んだ。

「全員、コウが龍の弟だって、知ってるの?」
「ええ。西部署の方、結構ご来店されますし」
「その岬って新しい子も、その事は」
「知ってると思います」
「どこに旅行するか、聞いてますか?」
「北海道だって言ってました」

と、龍が話を戻した。

「で、そのあと功は?」
「えっと、私もちょっと仕事があったんで、店長とカウンターの中にいたんですよ。そしたら、レジの操作の音がして、岬さんがありがとうございましたっていうんで、帰ったんだなと思ったから、ちょっと覗いたんですよ。そしたら、立花さんが二人の男の人と肩を組んで、車に乗るところだったんです。今思うと、ちょっと、様子がおかしかったかな・・・」
「そのコーヒー、誰が功に持っていったんだ?」
「岬さんです」

三人の視線が一瞬交錯する。

「その子の、住所わかるよね。写真もあるかな?」

 

三人は、田園を出た。

龍が腕の時計を見る。

「やべぇ、ちょっと戻らなくちゃ」
「送るよ」
「いや、いい。そっちはそっちで続けてくれ。俺は俺のルートで探る。俺絡みだとしたら、功に申し訳ないし」

「隆」

鳩村が、珍しく本名で龍を呼んだ。龍は、サングラス越しに鳩村に視線を送る。

「無茶するな。お前が無茶すれば、俺以上に悲しむ人が沢山いるだろ」

その台詞に、龍はわずかに微笑んだ。

「・・・まあ、桁違いだろうね」

そう言い残すと、タクシーを止めて、そのままその場を立ち去っていった。

と、大下の携帯が鳴りだした。

「はい、大下。・・・・タカ?」

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