3.

西部署に戻った鳩村の前に、城西署の刑事が現れた。

一人は、年配の刑事。刑事らしいというより、見た目やくざみたいな感じのガタイのいい男。もう一人は、20代後半の、やさ男。

「鳩村英次巡査部長ですね?」

丁寧かつ、威嚇するように聞いて来たのは、年配の刑事だった。

「私は城西署刑事一課刑事、河瀬裕といいます。こちらは小久保竜二」

二人は、手帳を開いて身分を示した。

鳩村は、『来たか・・・』と、ため息をついた。

「・・・ああ。俺が鳩村だが・・・」

「用件は、お分かりですよね?」

河瀬からの軽い威圧。鳩村は気にせず、自分の机に向かう。

「立花巡査とは親しいそうで」

背中からの、河瀬の問いを受けつつ、引き出しを漁る。

「うちのメンツ、みんな親しいけど?」

「特に、貴方を慕っているそうではないですか」

「何がいいんだか、分かんないけど、よくついてくるよ」

部屋には、小鳥遊班長、山県、北条、平尾がいた。他の班のメンバーもいる。
そのメンバー全てが、鳩村と二人の城西署の刑事とのやり取りを、黙って聞いていた。

誰も、立花の事を疑ってはいない。

全ての人間から好かれている人間はいない。
立花の事を少なからず嫌っている人間もいる。だが、今回に関しては話は別だ。

『あの立花が殺人など犯すはずがない』

誰もがそう思っていた。

彼が人を恨んでいたとしたら、そんな簡単な手は使わない。
という意味でもある。
人生の空しさを噛み締めさせるような所まで、相手を蹴落とすに違いない。

 

立花がやらなくても、彼の兄がきっと、それをやるだろう。

 

「立花巡査から連絡があるかもしれません。申し訳ありませんが、見張らせて頂きますよ?」

河瀬の低い声が、静まり返った部屋に響く。それ以外の雑音は、鳩村の引き出しをがさがさやっている音だけだ。

「・・・まいったなあ・・・。箱根までついて来る気?」

「箱根?」

「これから旅行なんですよ。サングラス忘れちゃってね・・・。ここに入れておいたはずなんだけど・・・」

それまで黙っていた小久保が、口を開いた。

「同僚が大変な時に、旅行ですか。いいご身分ですねぇ」

鳩村の動きが止まる。引き出しからサングラスを引っ張り出し、小久保に視線を合わせた。

「どうせ、うちには捜査権はないんだ。それにあいつの事なんか、しったこっちゃないね」

淡々とした口調の鳩村に、河瀬も不快感を示した。

「あんた、それでも大門軍団の一員か?」

鳩村は、体を起こし、荷物を担ぐと、サングラスをかけた。

「過去は過去だ」

そう言い放つと、踵を返して、部屋から出て行く。二人は慌てて後を追った。

 

ドアが閉まり、まるで冷蔵庫の中のような空気を破ったのは、課長室から出て来た木暮だった。

「・・・痛いセリフだな・・・」

その独り言みたいな言葉へ、小鳥遊が頷き、答えた。

「自傷行為に近いですね・・・」

 

『鳩村、頼んだぞ・・・』

木暮は声を出さず、心でそう呟いた。

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