2.

TOP探偵社。新宿にある、中規模の探偵事務所である。
扱う仕事は、定番の浮気の調査から、ストーカー被害まで、多岐に渡っている。

そんな探偵社に勤める、大下勇次と、鷹山敏樹。

彼らはちょっとした事件から、鳩村たちと知り合いになり、時には同じ事件を追いかける、友人ともなっていた。

「やあ、鳩村、どうした、血相変えて」

二人は、鳩村よりも2歳年下である。が、呼ぶときは、苗字を呼び捨てている。

大下がいつもの調子で、軽く挨拶すると、鳩村は鷹山の腕を引っ張って、そのまま事務所の応接間に入った。
慌てて大下もその後を追う。

探偵業という職業柄、応接室は防音もしっかりしているのを知っていた。

「鷹山、ちょっと大下借りてていいか」

「鳩村?」

鳩村の真意を量りかね、二人は首をひねった。

「西部署の鳩村だと、動けないんだ」

「どういう、意味ですか」

いぶかしげに問う鷹山に、鳩村は今朝の事件についてかいつまんで話した。

「なるほどねえ」

大下が、頷く。

「だから、鷹山の位置が必要ってことか」

鳩村と鷹山はとても似ている。それを利用して、今回は自分が捜査に乗り出すつもりなのだ。

「お前の位置はどうすんだよ」

「休暇を取った」

「そうじゃなくて、絶対、マークするぞ。城西署は」

「お前に頼むかな」

口調は軽いが、眼が真剣だ。鷹山は大きく息をついた。

「・・・業務外だ」

「タカっ」

大下が鷹山をにらみつけた。その視線を横から受け取っているが、鷹山はそのまま鳩村を見据えていた。

「特別手当、もらうぞ」

「鷹山・・・」

ふっと笑みをもらしつつ、そう言ってきた鷹山に、鳩村は感謝した。


が。


「特別手当?」

探偵を雇う金額の相場は何となく知っている。
公務員である鳩村の給料はたかがしれている。特別手当てと改めて、思い直して、ちょっと血の気が引いた。

「旅行でも、行くかなー」

「おい・・・」

「北海道とか、いいよなー」

「鷹山?」

「夏に北海道、最高だねぇー」

「もしもし?」

「北斗星利用するかなー」

「戻って来ーいっっ」

腕を組んで、思考を北海道まで飛ばしている鷹山に、鳩村は慌てて呼びかける。

「お前ね、俺の給料考えろよ・・・」

「昔の俺たちよりは、取ってるはずだろ、鳩村巡査部長殿?」

わざわざ階級をつけるところ、かなり嫌味である。

「お前が犯罪者なら、速攻で殴ってるぞ」

「・・・冗談だよ」

鷹山が柔らかい笑みを返す。

「ようやく、あんたらしくなったな」

大下もそう笑う。

言われて、鳩村はハッとした。

「すまん・・・」

余裕がない、ということは、捜査をするにあたって、最大の壁だ。
最悪の手違いを起こしかねない。

「誰が手伝わないなんて言った? まかせとけ、城西署の目くらましなんて、お手のもんだ。でも、本当に旅行は行こうかな。悪りぃな、ユージ」

「ええーーーっ?」

「大丈夫、箱根の水原さんの所だよ」

「充分、大丈夫じゃないよ・・・。水さんの別荘って、天然温泉あるじゃん・・・」

大下はがっくりと、肩を落とした。

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