1.

朝、単調な機械音で目を覚ました鳩村は、いつもの日課である、テレビのスイッチを入れ、ニュースを見ていた。とは言っても、見るというより、聞くに近いのだが。

「次のニュースです」

その局の看板の女子アナウンサーが、真面目な顔で、原稿を読み上げていた。

「今朝未明、渋谷区神南8丁目の路上で、男性が刺し殺されているのが発見されました」

「隣じゃん・・・」

鳩村は、食パンにマーマレードジャムを塗りながら、そう呟く。

西部署の管轄からは、若干外れているのに、不謹慎ながら密かに感謝した。

「なお、現場から逃走した若い女性を、城西署では重要参考人として、その行方を追っています。次のニュース・・・」

事件のニュースはここまでで、その後は芸能ニュースとなり、アナウンサーも笑顔でニュース原稿を読み上げていた。

コーヒーメーカーで入れた、コーヒーを飲もうとしたそのとき、テーブルの上に置いた携帯電話がけたたましくなり始めた。

二つ折りのその携帯を開き、発信元を画面から確認する。

 

『署』

 

ただ、一つの漢字で示されたその電話番号。あまりいい連絡ではないことを意味している。

鳩村は、舌打ちをして、その電話に出た。

まだみんなが集まる時間ではない。ということは、昨晩から今朝へかけての、宿直である山県からの電話を意味していた。

「おお、大将、おはよ」

いつもの口調で、のんびりと挨拶をする鳩村の言葉にかぶせるように、慌しく山県の声が聞こえてきた。

「城西署から手配写真が来たんだが」

「城西署?」

さっき聞いたばかりの署の名前。

「ああ、さっきテレビで見たよ。殺人事件があったらしいな」

「その犯人の写真なんだが、コウみたいなんだよ・・・」

「なんだって?」

「城西署では、手配の似顔絵が未成年の可能性もあるってんで、公表は控えてるんだが」

確かに、立花は見た目がそう見える。それが今回は幸いした。

「コウの携帯に連絡は?」

「それが、つながらないんだよ。持って歩いているはずなんだが。だから、ひょっとしたらお前のところに転がり込んでるんじゃないかと思って」

「来てないよ。龍のところは?」

「来てないって」

再びの舌打ち。

「似顔絵、そうとう似ているか?」

「コウを知ってるやつなら、10人が10人、奴だって答えると思うよ」

ならば、即日で立花が手配の人間だと分かるだろう。

そうなると、西部署は手が出せなくなる。

「・・・大将、俺・・・」

「休むか」

「ああ、課長に言っておいてくれ。ちょっとTOPに行って来る」

鳩村はそう言って、携帯を切ると、今日着ていこうとしていたスーツを仕舞い込み、麻のジャケットと、ジーンズをクローゼットから引っ張り出した。

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