ユニレンジャー・RYO(9)

 

「RYO、お前に見せたいものがある。私について来い」

戦闘員に散々こき使われたRYOを、今度はメデューサが連れだした。

RYOが連れて行かれたのは、秘密基地の地下駐車場。

新戦闘員を乗せたバスが到着したところである。

“何なんだ、こいつらは!”

RYOはバスから降り立った新戦闘員を見て絶句した。

痩せた身体、身なりも貧しく、ほとんどの者が裸足である。

「意外だったようだな、RYO。

 どうせ戦闘員など、極悪非道の輩とでも思っていたのだろう」

「・・・」

「だがな、彼ら戦闘員の中に、犯罪歴のある者は一人もいないんだ。

 いや、むしろ、貧しくとも、家族との小さな幸せを守ろうとする、

 心優しき者たちなのだよ」

「その心優しき者たちが、何でヒーローSM倶楽部の戦闘員なんかに」

ようやくRYOが口を開いた。

「ヒーローSM倶楽部の戦闘員・・“なんかに”か。

 お前などには分かるまい。

 私も・・、私も15年前、あのバスから降りた一人だった」

「お前も」

「そうだ。私も15年前に、戦闘員としてヒーローSM倶楽部に入団した」

「何故なんだ?!」

「私の国は貧しかった。内戦が長く続いたお陰でな。

 私の生まれたのは、その中でもさらに貧しい山間の山村だった。

 猫の額ほどの土地を朝から夜まで耕して、どうにか生きていけるだけの

 麦を収穫するのがやっとの生活だったが、私たちは幸せだった。

 これを見ろ」

メデューサは、色あせた一枚の写真を差し出した。

可愛い女の子が写っている。

「私の娘、私の命だ。

 生きていれば、お前と同じ歳になったはずだ」

「すると・・」

「殺されたよ、5歳の誕生日にな。

 政府軍に追われて、村に逃げ込んできた反政府軍の兵士が、

 娘を人質にして逃走しようとしたんだ。

 だが政府軍にとって、我々の命など、塵ほどの重みもないのだろう。

 娘もろとも、一斉射撃の的になった」

「そんな・・」

「私には分からなかった。

 政府軍も反政府軍も、ともに正義を主張していたのだ。

 正義を標榜する者たちによって、どうしてこんな事ができるのか。

 その答えを出してくれたのが、慎也様だったのだよ」

「諸君、『正義』とは何か。

 よく、『正義は勝つ』とか言われるが、それは違う。

 正義が勝つのではなく、勝った者が正義なのだ。

 我々は今、テロリストと呼ばれているのも、

 我々がまだ、最終的な勝利を収めていないからだ。

 我々が勝利を掴んだ時、我々はレジスタンスと呼ばれる」

翌日。

RYOが準備した講堂で、数十人の新入戦闘員を前に、慎也が訓辞を始める。

RYOはモニタールームで、その様子を見ていた。

部屋の中にはメデューサと虎仮面、そして左遷された長野博がいる。

慎也の訓辞が終わると、3人はRYOを講堂に引き出して、

新入戦闘員の前でさらし者にする手はずになっていた。

「ふぁ〜。いつまで喋っとんじゃい、この阪急ファンは。

 はよ、ユニレンジャーをボコボコにしようや」

大きなあくびをしながら、虎仮面が退屈そうに言った。

「もうすぐだよ。どうせ、この人の演説はワンパターンだからな」と

ふてくされ気味の長野博。

「要するに、こいつの言いたいのは『勝てば官軍』ちゅう事やろ。

 回りくどい奴やで」

「だ、だが、勝者が正義になるというのは真理ではないのか」

メデューサは虎仮面の単純明快な言葉に思わずうなずかされながらも、

虎仮面に反論した。

「こら、PL学園。アホな事言うなよな!」

「なっ、何で私がPL学園なんだ」

虎仮面は構わずに話を続ける。

「今年の巨人を見てみぃ。金で集めた選手で勝って、あれが正義か。

 テレビの視聴率かて落ちとる言うやないか。 

 だいたい勝ったモンが正義や言うたら、阪神なんかどないなるねん。

 極悪非道の集団なんかい。

 えぇか、正義っちゅうのはな、もっと心にジ〜ンとくるモンなんや」

「まぁ、その話はその辺にしておけ。

 もうすぐ話が終わる。

 正義のヒーロー・ユニレンジャーをお連れしようぜ」

長野博はそう言うと、RYOの首輪に繋いだ鎖を引いて、

RYOを引き立てた。

講堂では、慎也の訓辞が終わり、副官の吉岡毅志が演壇に立っていた。

「それでは諸君。慎也様のお言葉を証明しよう。後ろを見たまえ」

新入戦闘員の視線が集まる中、長野博に引き連れられたRYOが講堂に入ってくる。

素っ裸にされ、首輪を填められた上に、首輪の鎖を引かれての入場だ。

後ろ手に縛られているので、チンポも丸出しである。

「これが正義のヒーローと呼ばれたユニレンジャーだ。

 よく見たまえ、あの惨めな姿を」

新入戦闘員の視線を浴びながら、RYOが引き立てられた。

「こら、しっかり歩かんかい。

 みんな、見とるんやぞ」

隣では虎仮面がRYOの尻をバットで叩きのめしている。

RYOは散々ないたぶりを受けながらも、視線は講堂の中を見渡していた。

オークションの参加者を探していたのだ。

彼らを一網打尽にする為の忍耐である。

彼らがいないところでユニレンジャーに変身しても、

巨悪を捕らえる事はできない。

だが、RYOが壇上に引き上げられた時、RYOは講堂の2階席に

オークションに参加した面々の姿を発見した。

もう耐える必要はない。

RYOの心の中で何かが弾けた。

「ユニチェンジャー!、セットアップ」

RYOが叫ぶと、RYOの身体からまぶしい光が発せられる。

光が消えた時、そこにはユニフォーム・サッカーパンツ・スパッツ・ソックス・

シューズをフル装備したユニレンジャーの姿があった。

「今まで、よくもやってくれたな。

 何倍にもお返しさせてもらうぜ」

そう言うと、まず両手に力を込めて、両手を縛っていた縄を引きちぎる。

続いて、自由になった手で首輪の鎖を引きちぎった。

「そうか。こういう事か。

 どうも君の様子がやけに従順過ぎると思っていたんだよ」

慎也は2階席に合図を送る。

すると、オークションの参加者は2階から下に次々に飛び降りた。

下に降りた時、彼らは戦闘員の姿になっている。

「来賓の前で恥はかきたくないからねぇ。

 君も、少し我慢が足りなかったのかな」

「くっそー」

ユニレンジャーは出鼻をくじかれた形になった。

しかし、もう後には引けない。

「フン。雑魚しかいないのは残念だが、取りあえず今までの借りは返させてもらうぜ。

 さぁ、どっちから来るんだ。蛇女に万年最下位仮面。

 何なら、まとめて相手してやっても良いんだぜ」

「ふふふ。だったら、まとめて相手になってもらおうかねぇ」

メデューサの合図で、戦闘員がユニレンジャーを取り囲む。

「早い話が質より量って事だろ」

「さぁ、どうかね。戦闘員の家族は、戦闘員からの仕送りで飢えを凌いでいるのだよ。

 つまり、戦闘員には家族の生活がかかっているんだ。

 お前のような、安直なヒューマニズムの為に戦っている

 坊ちゃんヒーローとはワケが違うんだよ」

「うっ」

ユニレンジャーは言葉に窮した。

戦闘員を倒すなど、ユニレンジャーに変身したRYOにとってはたやすい事だ。

だが、倒した戦闘員の家族はどうなるのか。

戦闘員は少しずつにじり寄ってくる。

ユニレンジャーは壁際まで追いつめられた。