ユニレンジャー・RYO(8)

 

「こら、何をグズグズしているんだ。

 メデューサ様は『床を舐めろ』とおっしゃってるんだぞ」

戦闘員の足が、RYOの頭を床に押しつける。

「お、お許し下さい、メデューサ様。

 そればかりは・・」

必死に懇願するRYO。

だが、そんなRYOのチンポを別の戦闘員が踏みつけた。

「お前、自分の今の格好が分かってるのか。

 いつまで正義のヒーローのつもりなんだよ」

貶され、罵倒されながらも、RYOは懇願を続けた。

ユニレンジャーに変身すれば、こんな戦闘員はおろか、

メデューサを倒す自信もある。

慎也を捕らえる事もできるだろう。

だが、「ヒーローSM倶楽部」に集まる陰の大物たちを捕らえるには、

次のオークションまで待たねばならないのだ。

その為には、今は耐えねばならない。

「お願いです、メデューサ様。

 僕もヒーローと呼ばれた男。

 それが丸裸にされ、首輪を填められ、こうして引き回されているんです。

 どうか、そんな僕を哀れと思って、情けをかけて下さい」

RYOはメデューサの足下にひれ伏して訴えた。

「フン。情けない奴。

 こんな男の相手などしておれんわ。

 戦闘員、床を舐めるのは勘弁してやれ。

 ともかく会場の準備だ」

すると、メデューサはRYOが意外に思うほどあっさり

RYOの床舐めを諦めた。

そればかりではない。

戦闘員がRYOに言いがかりを付けようとしても、

「余計な事をせず、作業を優先させろ」と言って制止したりもする。

広い講堂を掃除し、イスや机を並べる。

それを一人でやらねばならないRYOにとって、それが重労働であったのは

言うまでもないが、メデューサのお陰で、RYOは戦闘員にいたぶられる事もなく

作業を終える事が出来た。

作業を終えたRYOは、戦闘員に引き連れられて退室する。

「どないしたんや、婆さん。

 えらいRYOに親切になったやんか。

 お前、まさかあの坊主に惚れたんとちゃうやろな」

一部始終を講堂の隅で見ていた虎仮面が、メデューサを揶揄した。

「バカを言うな」

「そやけど、俺やったら絶対、お前みたいに許してやらへんけどな。

 逆らうんやったら、ボコボコにしたる」

「あいつ、怒りの目をしていたんだよ。

 今、あいつを怒らせるわけにはいかんのだ」

「なんでやねん。あんな弱っちい奴、いてもたれや」

「分からんのか、虎仮面。

 奴は慎也様の商品なんだ。傷物にするわけにもいかんだろ」

「けっ。何で、阪急ファンなんかの片棒担がなあかんねん。

 アホらしなってくるわ」

虎仮面は吐き捨てるように言うと、講堂を出て行った。

「チェッ。どいつもこいつも、おもろない連中ばっかりやないか」

虎仮面は愚痴りながら、食堂に入った。

酒でも飲もうと思ったのだ。

食堂では、シオンが一人でプリンアラモードを食べている。

「ふん。ガキを相手にしてもつまらんわ」

虎仮面は一人つぶやくと、厨房に向かって

「おーい!、酒や。酒、持って来い!」と大声で怒鳴った。

が、厨房の中をよく見ると、RYOが食事の準備をさせられている。

「こら、ジャガイモの皮はな、こうやって剥くものなんだよ」

「お前、チンポの皮は剥けても、イモの皮は剥けないのか」

相変わらず、戦闘員にいびられているようだ。

「おい、気が変わった。酒はええから、RYOを連れて来い。

 お前みたいな女々しい奴見たら、無性にどつきたくなるんや。

 RYO!、こっち来て、喧嘩しようぜ」

虎仮面は厨房を覗き込みながら、再び大声を出した。

戦闘員にとって、虎仮面はまさに招かれざる客である。

ここで虎仮面に暴れられては、自分たちにもお叱りがないとも限らない。

戦闘員の一人が虎仮面に近づくと、

「虎仮面様。RYOには今、食事の準備を命じております。

 何とぞ、ご辛抱いただけないでしょうか」と虎仮面をなだめた。

「おぉっ。お前、ええ根性しとるなぁ。

 ほんなら何か、お前が俺の相手しようっちゅうワケやな」

「あっ、いえ、決してそういう事では・・」

「そんなら、引っ込んどれや!。

 RYO、話はついた。さっさと出てこんかい」

凄味を効かす虎仮面に、戦闘員はタジタジである。

ユニレンジャーであるRYOにとって、力だけの虎仮面など、

メデューサよりも倒しやすい相手だ。

しかし、ここでユニレンジャーに変身してしまえば、

今までの忍耐がムダになってしまう。

「と、虎仮面様。僕など、とても虎仮面様の力には太刀打ちできません。

 どうかお許し下さい」

RYOは厨房の床に土下座すると、額を床にこすりつけて懇願した。

だが、それで納得する虎仮面でもない。

「われ、阪神ファンをナメとんのかい。

 来いっちゅうたら、来たらどないや!」

来いと言いながら、自分が厨房に入っていこうとする虎仮面。

その腕をシオンが掴んで、虎仮面を制した。

「虎仮面さん、乱暴はいけません」

「なんや、お前は」

「僕ですか?。僕はシオンといいます。

 そんな事より、ユニレンジャーさんはすっかり虎仮面さんに

 恐れを成しているじゃないですか」

「そやから何やねん。

 俺はな、こういう女々しい奴を見ると、どつきたくなる性分なんや」

「そうなんですか?。

 でも、それじゃ猛虎魂が泣きませんか?」

「んっ?」

「例えて言えばですよ。虎仮面さんは阪神タイガースだとすると、

 メデューサさんは・・、まぁPL学園ぐらいでしょうかね。

 でも、ユニレンジャーさんは、そのメデューサさんにも勝てなかったから

 せいぜい山形県あたりの代表校ってとこでしょうね。

 甲子園に出れて、ヒーロー気分になっていたら、

 いきなりPL学園にやられてしまったわけですよ。

 そんな高校に、阪神が試合を申し込むわけないですよね」 

「おっ、おぉ。そらそうやがな。

 お前もアホやなぁ、今のは冗談やがな、冗談」

「あっ、やっぱりそうだったんですか。

 王者・阪神はもっと大きな敵を相手にしないといけませんよね。

 ユニレンジャーさんは、明日の入団式で、

 新入戦闘員やオークションに参加する皆さんの前で

 さらし者にされた後、奴隷として売り飛ばされちゃうんですから、

 そんな人なんて、相手にできませんよね」

「もちろんや。うん、そうやそうや。

 お前、ボーっとした顔しとる割には分かっとるやないか」

「♪六甲おろしに颯爽と〜、蒼天駆ける日輪の〜」

虎仮面は上機嫌で去っていった。

RYOは厨房の床にひれ伏したまま、心の中でシオンの機転に感謝していた。

虎仮面との衝突を回避してくれたばかりではなく、

明日の入団式にオークションの参加者も出席するという

情報まで伝えてくれたのだ。

「明日までの辛抱です、ユニレンジャーさん」

RYOにはシオンの声が聞こえたような気がした。