ユニレンジャー・RYO(6)

 

出張から戻った慎也の司令室で、長野博が留守中の業務報告をしている。

「なるほど、RYO君も大人しくなったか」

「はい。今では戦闘員の良いオモチャになっています」

「ふ〜ん。何か魂胆がありそうだが・・。

 まぁ、良いだろう。

 ところで、新しい怪人の開発はどうなった?。

 完成しているんだろうね?」

「は、はい。名前は虎仮面と申しまして、

 一応、出来たのは出来たのですが・・」

とたんに長野博は口ごもった。

「虎仮面?。タイガーマスクか」

「はぁ。いえ、まぁ似て非なるものと申しますか・・」

「どうしたと言うんだ?。その虎仮面とやらを・・」

慎也の言葉が終わらぬうちに、ドアの向こうから虎仮面の歌声が聞こえてくる。

 ♪六甲おろしに颯爽と 蒼天駆ける日輪の

  青春の覇気 麗しく 輝く我が名ぞ 阪神タイガース

ドアが開き、バットを持った虎仮面が現れる。

甲子園のマスコットに似た、間の抜けた顔立ちだ。

「一番・センター真弓。只今、参上しました」

慎也の顔が険しくなる。

一方の長野博は真っ青だ。

「慎也様、見ましたか。バース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発。

 ほんま、あの時は気持ちがスカ〜っとしましたわ」

だが、そんな様子には構わず虎仮面はしゃべり始めた。

「あっ、あぁ。ピッチャーは槙原だったねぇ」

一応、話を合わせる慎也。

しかし、額には血管が浮き出ていた。

「川藤に柏原、それから弘田。

 職人芸を見せてくれる、えぇ連中でしたわ。

 それと、池田やゲイル、それに伊藤も良かったけど、

 ピッチャーは、やっぱり山本和行ですわなぁ。

 ・・・」

虎仮面が独演会を終えて退室すると、慎也は顔面蒼白の長野博に視線を送った。

「な、何ぶんにも予算が・・」

慌てて言い訳をする長野博。

「まぁ、良い。枯れ木も山の賑わいと言うからね。彼も何かの役に立つだろう。

 それより、君には新しい仕事についてもらうよ」

「はっ?。あの、左遷・・・ですか?」

「ははは。それは君の受け取り方次第だよ。

 人間、自分に適した仕事をするのが一番だからね。

 まぁ、人生いたるところ青山ありさ」

 

翌日、慎也の傍らには新しく副官に抜擢された吉岡毅志の姿があった。

二人は某中小都市を映したモニタースクリーンを見ている。

のどかな田園風景が、画面いっぱいに展開されていた。

が、突如、黒い陰が風景を覆ったかと思うと、画面が激しく左右に揺れる。

巨大ロボット・クレージーゴンが飛来したのだ。

突然の来襲に慌てふためく住民たち。

ギギィー。

クレージーゴンは不気味な機械音を響かせながら、町の中心部へと進撃を始める。

田園地帯はその巨大な足で、無惨に踏みにじられた。

しかし、クレージーゴンが町の中心を襲ったなら、被害はその程度では済まない。

おそらく、住民の避難も間に合わないだろう。

「デヤー」

その時、空からもう一体の陰が飛来した。

光の巨人・ウルトラマンティガだ。

避難の足を止め、両者の対決を見守る住民たち。

だが、その期待は裏切られる。

ティガの跳び蹴りがクレージーゴンにヒットした。

しかし、その効果はクレージーゴンをわずかに半歩ほど後退しただけだ。

続いて繰り出されたパンチは、堅い装甲の前に全く通じない。

逆に、クレージーゴンのパンチ一発で、ティガは仰向けに弾き飛ばされる始末だ。

なおもクレージーゴンは、長い右腕で倒れたティガの足を掴むと、

ティガの身体を高く吊り上げた。

宙吊りにされたティガは、自由になる両手でビームを放ったが、

これまた何の効果もない。

クレージーゴンは宙吊りのティガに、今度は左手で殴りかかる。

次第に弱っていくティガの姿が、住民たちを失望させた。

やがてクレージーゴンは、“こんな弱い奴、相手にならない”とばかり、

ゴミを捨てるようにティガを放り投げた。

ようやく体の自由を取り戻したものの、散々に殴りつけられたティガの消耗は著しい。

水田の中に投げ捨てられ、泥まみれになりながらも

両手で身体を支えて立ち上がろうとするのが精一杯だ。

クレージーゴンは満身創痍のティガになおも襲いかかる。

巨大な足で、ティガの後頭部を踏みつけたのだ。

膨大な重量の前に、ティガの顔面は水田の中に没していく。

その時だ。

ドドーン。

クレージーゴンの背中で、爆発があった。

防衛隊のミサイルが命中したのだ。

空には戦闘機が編隊を成している。

戦闘機は次々に急降下すると、空対地ミサイルを放っていく。

何せ的が大きいだけに、ミサイルは百発百中だ。

ティガの頭から足をあげ、長い右手を振って戦闘機を威嚇するクレージーゴン。

しかし、先制攻撃を受けた時に、何らかのダメージを負ったのか、

その動きには精彩がない。

やがて、背中のジェットエンジンから火を噴くと、空に舞い上がって逃走した。

 

クレージーゴンが逃走すると、司令室のモニターテレビに一人の軍人が現れた。

防衛隊参謀の木村拓也である。

「いやぁ、慎也君。上出来だったよ。

 これでバカな国民も、平和平和と唱えているだけでは、平和は守れないと悟ったろう」

「仰るとおりです、閣下。

 次は洋上でタンカーでも襲わせましょうか。

 相手が怪獣やロボットでは、憲法9条には抵触しません。

 シーレーン防衛目的の出動もできますし、近隣諸国を襲わせて、

 国際協力の名の下に海外派兵も可能です」

「ははは、君もなかなかのやり手だね。

 今回のギャラは明日にでも振り込んでおく。

 これからも宜しく頼むよ」

モニターテレビから木村拓也が消えると、画面は再びティガを映し出した。

泥まみれでうつ伏せに倒れ込み、顔面を水田にめり込ませた惨めな姿である。

「こいつ、いつまでぶっ倒れてるつもりなんだぁ」

「邪魔なんだよなぁー」

そんな住民の声も聞こえてくる。

防衛隊を引き立てる為のやられ役にされたかつてのライバル・ティガの姿に、

心に芽生え始めた優越感を否定できない吉岡毅志。

「吉岡君。君はしっかり頑張ってくれよ」

「はっ」

慎也の言葉に、吉岡は姿勢を正して敬礼を返した。