ユニレンジャー・RYO(13)

 

 

♪バースかっ飛ばせ、バース ライトへ、レフトへ、ホームラン

バシッ。

「うわっ」

♪若虎若虎・掛布、打て打て・掛布 若虎若虎・掛布、打て打て・掛布

バシッ。

「ぎゃー」

拷問室には虎仮面の歌声と、振り下ろされるバットの音、

そしてシオンの悲鳴が続いて、かれこれ数時間になる。

楽しそうな虎仮面とは対照的に、一向に進まない虎仮面の拷問に

慎也はいらだっていた。

その時、拷問室のドアが開いて、後ろ手に縛られ、

足かせを填められたRYOがメデューサに連れられて現れる。

「慎也様、お決まりのパターンかと思いますが、RYOを人質にして、

 シオンに白状させましょう」

「うん。あの調子じゃ、シオン君に白状してもらうまで、

 いつまで待てば良いか分からんからね。

 まぁ、ユニレンジャー君には情けない役回りになるが、何事も経験だ」

慎也の許可を取り、RYOを連れてシオンに近づくメデューサ。

だが、今度は長野博が一枚のメモを手に、拷問室に入ってきた。

「慎也様、大変な事になっていました。

 ステルスミサイルですが、すでに発射のタイマーがセットされておりました」

「な、なに!」

「ご安心下さい。発射タイマーは解除してあります。

 それから、シオンの部屋から、こんなメモが見つかりました」

長野博は数字が羅列されたメモを慎也に手渡した。

「どうやら、ミサイルの着弾地点を経度と緯度で示していると思います」

「で、その場所はどこなんだ?」

「先進諸国の主要都市が含まれています。

 日本の場合は、兵庫県の西宮市になる見込みで・・」

「西宮やて?!」

長野博の報告を聞いていた虎仮面は、慌てて長野博のところに来ると、

手からメモをひったくった。

「日本国兵庫県西宮市甲子園町1−47。

 アホか、お前は!。

 こら、オシン。これは甲子園の住所やないか。

 テメェ、ぶっ殺したる!!」

虎仮面は血相を変えて、シオンに襲いかかろうとする。

「や、やめろ」

メデューサが止めに入る。

長野博や吉岡毅志も加わり、ようやく虎仮面を押しとどめた。

その時だ。

「ミ、ミサイルは発射しなければなりません」

シオンが重い口を開いた。

拷問室にいた全員の動きが止まる。

「どういう事なんだね、シオン君」

慎也の言葉に応えて、シオンは真相を話し始めた。

30世紀の歴史によれば、人類は20世紀の終盤から100年に及ぶ

大戦争の時代に入る。

世界の人口の9割を失う戦争の後、22世紀になって人類は

全ての人々が平和に暮らせる社会を作る事に成功する。

だが、シオンがロンダースを捕らえて30世紀に戻った時、

時間保護局のコンピュータは20世紀の異変をキャッチしていた。

起きるべき戦争の兆候が見られないのだ。

コンピュータのシュミレーションによれば、

20世紀で大戦争が起きなかった場合、

99%の確率で22世紀に大戦争になる。

そして、より強力な武器で争われる22世紀の戦争では、

人類は確実に死滅するというのだ。

そうなれば、当然それ以後の人類も生存しない事になる。

シオンは時間保護局の密命を受け、「ヒーローSMクラブ」に身を置いて

戦争のきっかけとなるミサイルの開発を進めていたというわけである。

「ほ、ほな何かい!。お前ら30世紀の人間は、

 自分らが生き残る為には、阪神に滅べ言うんかい!!」

「それはやむを得ない事なんです。

 気象の関係で、ウイルスが拡散するには、ちょうど良い場所になるんです」

「アホか、このクソガキ。アッサリぬかしやがって。

 滅ぼされる前に、お前を大阪湾に沈めたる!。

 淀川の水は冷たいんやぞ」

再び虎仮面がシオンに襲いかかろうとする。

制止しようとする3人も虎仮面のバカ力にはかなわない。

メデューサが振り飛ばされ、壁に叩きつけられた。

その瞬間、元々はメデューサの蛇の化身であるRYOの手錠・足枷が消滅した。

「ユニカッター」

自由を取り戻したRYOは、シオンを天井から吊したロープを切り落とす。

「クロノチェンジャー」

シオンもタイムグリーンに変身した。

「フン。変身したところで、ガキはガキじゃい。

 カーネルサンダっ」

シオンめがけて電撃波を浴びせようとする虎仮面。

だが、一瞬早く、虎仮面の手にメデューサの蛇が巻き付いた。

「メデューサ、虎仮面を放してやれ。

 シオンから聞きたい話は聞いた。

 もう用はない」と慎也。

しかし、メデューサは慎也を見据えながら、シオンをかばうようにシオンの前に立った。

「な、何のまねだ、メデューサ」

「慎也様、お考え下さい。シオンのミサイルで、100年後に平和な世界が来るのです。

 私の娘のように、戦乱で命を失う者のいない平和な世界が・・、

 我々の正義が達成されるのです」

「バカな。私の命は後せいぜい40年だ。

 22世紀の事など、知った事か」

「それで、クレージーゴンに暴れさせ、兵器産業株で一儲け。

 どうやら慎也様は、金儲けの事しかお考えにないようですね。

 ならば慎也様、お手向かいさせていただきます」

メデューサの口笛を合図に、戦闘員が拷問室に乱入し、

慌てて慎也をガードする吉岡毅志と長野博を取り囲む。

一方、虎仮面は手に巻き付いた蛇を、もう一方の手でねじ切っていた。

「おい、オシン。結局、自分らが生き残る為に、わしらを犠牲にしようっちゅう事やな」

「分かって下さい、虎仮面さん。

 何十億かの人の為に、その後の数千兆の人の命を危険にさらすわけにはいかないんです」

「ケッ。自分で平和を乱して、何がタイムレンジャーじゃい。

 お前のその根性、俺のバットで叩き直したる」

「タイムレンジャーの仕事は、平和を守る事ではありません!。

 歴史を守るのがタイムレンジャーの任務です」

「そうか。口で言うても分からんちゅうんなら・・、

 カーネルサンダー!」

虎仮面の指から電撃波が放たれる。

だが、電撃波がシオンに届く寸前、メデューサが身体を楯に、シオンをかばった。

「ぎゃー」

その場に倒れ込むメデューサ。

「だ、大丈夫ですか。メデューサさん」

「私に構うな。ミサイルを・・、ミサイルを発射するのだ」

「わ、分かりました、メデューサさん。

 必ず平和な世界を作ってみせます」

シオンは拷問室を飛び出し、ミサイルのコントロールルームへと駆けだした。