宇宙刑事ディルバン(8B)

「うわぁぁー」

両足を引っ張られたジャニバンが、大股開きの状態でスタジアムの中央へと

引きずられる。

ジャニバンの胸に付けられた小型マイクが、悲鳴をスタジアム中に響かせた。

「ほほほ。なかなか言い声で泣いてくれるじゃないか。

 私の副官になれば、泣かされずに済むものを」

マイクを手にしたイザベラが、スタンドからジャニバンを揶揄する。

スタジアムに笑いの渦が起きた。

「誰がお前の手下なんかになるか!」

「げへへ、そうこなくっちゃな。

 お前がアッサリ降伏したら、俺たちのお楽しみは終わりなんだ」

「そういうこった。せいぜい頑張ってくれよ」

ジャニバンのマイクから、荒くれ者達の下品な言葉も聞こえてくる。

「そうか。まぁ、良いだろう。

 未熟者ほど見栄を張りたがるものだ。

 ここで嬲り殺されるより、私の副官として活きた方が賢明と思うが」

イザベラは笑いながらリンチの開始を命じた。

リンチが始まった。

最初は蹴りだ。

倒れたままのジャニバンに群がったアウトローが

散々にジャニバンを蹴りつける。

下手に起き上がられれば、反撃の可能性もあったからだ。

まずはジャニバンの体力の消耗を狙ったのである。

荒くれ達の汚いブーツによって、ジャニバンは蹴られ、踏みつけられた。

バトルスーツの防御機能が衝撃を和らげてくれるものの、完璧ではない。

少しずつバトルスーツのエネルギーが低下するにつれ、

受ける衝撃が増してくる。

やがて、ジャニバンのバトルスーツが青白い光を放ち始めた。

「んっ?」

「えっ?」

エネルギーが切れたのだが、それまでジャニバンを痛めつけていた荒くれ達には

何が起きたのか分からない。

いくら宇宙の無法者と言っても、宇宙刑事の変身が解除されるまでの

ダメージを与えた事のある者など、ほとんどいないのだ。

「こ、こいつ、自爆するつもりじゃねぇのかよぉ」

「げっ」

1人の言葉で、ジャニバンを取り囲んでいた無法者の輪は

瞬く間に広がっていく。

光が消えると、すでにジャニバンの姿はなく、

変身を解除されたタッキーが倒れていた。

バトルスーツはブレスレットの中でエネルギーがチャージされ、

24時間でMAXの120万エナジーまで回復するが、

瞬着に20万エナジーのエネルギーを使う為、最低でも4時間は変身できない。

今のタッキーは、バトルスーツを身につけた宇宙刑事・ジャニバンではなく、

白のTシャツにジーンズの上下、赤いバッシュを履いた普通の少年なのだ。

「ヨシ。立たせろ」

イザベラの命令で、両脇を抱えられたタッキーが立ち上がる。

足も散々に蹴られた為に、自分では立っていられない状態だ。

「どう、私の副官になる決心がついたかい。

 お前が素直に私の副官になっていれば、こんなに苛められずに済んだものを」

「だ、だれがおまえなんかの!」

「ふふふ。頑張るねぇ。

 お前がそうやって頑張る理由を当ててみようか。

 お前はスタジアムに飛び出す直前に、緊急連絡ボタンを押した。

 たしか、緊急事態が発生した時の連絡用で、

 すぐに援軍が来る事になっている。

 1人ではやられる事が分かっていながら私に刃向かい、

 リンチを受けながらも耐えているのは、援軍が来るまでの時間稼ぎ。

 そうだろ?」

図星だった。

「おかしいねぇ。

本当なら今頃、完全武装の警察隊が突入してきても良いはずなのに」

言われてみればそうだった。

いかにも遅すぎる。

「ここの宇宙警察なんて、そんなものなんだよ。

 諦めて、私の副官になるんだね」

「嫌だっ!」

タッキーの吐き捨てた言葉で、リンチの第二幕が開いた。

タッキーの手錠が外された。

それまで散々に痛めつけられてきたタッキーに、

もはや手錠は必要なかったのだ。

円を描いてタッキーを取り囲む無法者達。

「おらおら。早くかかって来いよ」

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

無法者達に囃し立てられながらも、タッキーは立っているのがやっとの状態だ。

タッキーは力を振り絞るように無法者に向かっていくが、

パンチは虚しく空を切り、勢い余って倒れ込んだ。

「情けなねぇ野郎だなぁ」

「立てよ、こら!」

髪を掴まれ、両手を持たれて立ち上がるタッキー。

両手を左右に広げた大の字の状態に立たされた。

「でへへ。立つのがやっとだぜ、こいつ」

「いやいや、立派に勃ってるんじゃねぇのかぁ」

タッキーの正面に立った1人が、いきなりタッキーの股間を掴んだ。

「あっ、わぁー」

蹴りを入れたいところだが、足が上がらない。

無抵抗のまま、股間を握られるタッキー。

「んっ?。お前、宇宙刑事なんだろ。

 だったら、こういう時でもシャキッとしろ!」

タッキーの股間を掴んだ男は、さらに力を込めて握りしめる。

「おい。やめろ、やめろ。

 そんなに強く握って、潰れちまったら元も子もなねぇ。

 こういうのはなぁ、こうやって優しく撫でてやるもんなんだよ」

別の男が股間を握っていた男の手を払いのけ、

タッキーの股間を撫で始めた。

「あっ、あぁぁぁ」

タッキーの喘ぎ声がスタジアムに響く。

「へへへ。刑事さん、感じてやがるぜ」

スタジアムに詰めかけた大観衆の前、ほとんど抵抗も出来ぬまま、

無法者達によって辱めを受けるタッキー。

だが、それを快く思わない者が1人いた。

イザベラである。

“下卑の者が何をするか!”

イザベラにとって、タッキーはこれから自分のペットとなるべき美少年である。

それを卑しい無法者の手で汚されるなど、認めるわけにはいかない。

このような展開を予想していなかった。

もっと早くタッキーが屈服すると思っていたのだ。

「やめろ!。やめないか」

イザベラの突然の怒りに、タッキーを取り囲んでいた無法者達もたじろいだ。

「もう一度だけ言う、タッキー。

 意地を張って、ここで嬲り殺されるか。

 それとも、私の副官としてダークパレスに行くか。

 二つに一つだ」

“ダークパレスに行く”

先ほどはなかった言葉をイザベラが口にした。

イザベラはタッキーにエサを投げたのだ。

“このままタッキーが屈服しなければ、いずれ嬲り殺しだ。

 無法者の言う通り、元も子もない。

 だが、「副官になる」と言えば、副官としてダークパレスに入る事が出来る。

 ここは屈服を装って、敵の本拠地に入った方が良い”

イザベラの投げたエサに、タッキーが食いついた。

「イザベラ様の副官になります」

タッキーの両手を取っていた無法者が手を放すと、

タッキーは崩れるように膝をついた。

「イザベラ様の副官にさせて下さい」

それは、イザベラの前に跪いたようにも見えた。