宇宙刑事ディルバン(7B)

 

ジャニバンにディルシューターを突きつけられながらも、

イザベラは笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

「動くな!。撃つぞ」

「撃ってごらん、坊や。

 人に向かって撃った事、あるのかい?」

なかった。せいぜい威嚇射撃だ。

「大丈夫なの?。そんなで」

イザベラはジャニバンの心を見透かしたように微笑みかける。

「頼りないのねぇ。戦闘員として、やっていけるのかしら」

「誰がお前の戦闘員なんかになるか!」

だが、イザベラはジャニバンを無視して、

死闘に疲れ果てて座り込んでいる50人の宇宙犯罪者に顔を向けた。

「お前達の中で、この刑事さんと闘おうという者はいるか?!。

 勝ったら私の副官に取り立ててあげるよ。

 給料も普通の戦闘員の何倍にもなるんだけどね」

イザベラは一同を見回したが、誰も自分から立ち上がろうとはしない。

「フン。頼りない連中だねぇ」

イザベラは再びジャニバンに向き直った。

「じゃぁ、これで決まりだね。

 お前が私の副官だ。 

 私の前に跪いて、私の足にキスしてもらおうかね」

「ふ、ふざけるな!!」

ジャニバンの中で何かが弾けた。

力を込めてディルシューターの引き金を引く。

銀色のビームがイザベラに襲いかかった。

だが、ビームはイザベラの手の平に当たって、四散してしまう。

まるで、夏の光から手で顔を隠すような仕草で、

ビームをはね除けたのだ。

“まさか?!”

ジャニバンは手にしたディルシューターに目を向けた。

エネルギーゲージは確かにMAXを示している。

が、ジャニバンがイザベラから目を背けた一瞬、

イザベラの手から赤いビームが放たれた。

「うっ」

ビームは正確にディルシューターに命中し、それを弾き飛ばしてしまう。

「くそっ!」

ジャニバンはディルソードを抜いて、イザベラに襲いかかった。

ジャニバンのディルソードが何度も振り下ろされる。

しかし、イザベラはいずれも間一髪のところで、それを避けた。

「ふふふ、私の副官になるには、それぐらい元気じゃないとね」

イザベラはまるでジャニバンをからかって、楽しんでいるかのようだ。

「おいおい、坊ちゃん刑事。しっかりしろよ」

スタンドの観衆からもヤジが飛ぶ。

観衆も宇宙犯罪者か、或いは故郷の惑星を石もて追われるようにして

流れてきた者達ばかりだ。

宇宙刑事がいいように弄ばれる光景を喜んでいる。

だが、イザベラは観衆の様子を見ると、“遊びは終わりだ”と言わんばかりに、

ジャニバンのディルソードをかわすと、ジャニバンの腕を掴み上げた。

“人の為に何かをする”というのが嫌いな性格なのだ。

「うぅっ」

イザベラに腕を締め上げられ、思わずディルソードを落としてしまうジャニバン。

さらにイザベラはジャニバンの後に回り、もう一方の手でジャニバンが腰に付けていた手錠を取り上げた。

後ろ手にジャニバンに手錠を填める。

「さぁ、宇宙刑事を逮捕したよ。

 これでも、この坊やと闘おうという者はいないのかい?」

イザベラは再び50人を見回した。

今のジャニバンは武器を奪われ、後ろ手に拘束されている。

しかも50対1だ。

1人が立ち上がると、つられるように次々と立ち上がる。

イザベラは満足げに微笑むと、ジャニバンの背中を押して、

ジャニバンを50人の方に押しやった。

「坊や、怖くないかい。

 こわ〜いオジサン達が、君を苛めようとしているよ。

 お姉ちゃんが止めてあげようか?」

スタジアムに笑いの渦が起きる。

「くっ、誰が!」

「ふふふ。良いんだよ、無理しなくても。

 お前が私の副官になると言ったら、いつでも止めさせてあげるからね」

イザベラがそう言い残してスタンドに戻ると、50人の宇宙犯罪者達は

ジリジリとジャニバンに躙り寄った。

少しずつ後退するジャニバンは、スタジアムのフェンスまで追い詰められる。

「いくぜ、ガキンチョ刑事!」

1人目が飛びかかる。

「デャー」

ジャニバンのキックが腹部に炸裂した。

腹を押さえて崩れ落ちる男を目の前にして、

次の攻撃が続かない。

 

かつて地球の剣豪が十数人の刺客に襲われた時、

剣豪は人が一人しか通れないような狭い路地に逃げ込んで、

刺客を迎え撃ったという。

こうすれば、剣豪と戦うのは常に先頭の一人だけというわけだ。

 

フェンスを背にしたのはジャニバンの作戦だった。

宇宙警察学校の古典戦術論で聞いた、この話を思い出したのである。

少なくとも、フェンスを背にしていれば、

背後を衝かれるはずはない・・はずだった。

だが、ジャニバンの敵はスタジアムの50人だけではなかった。

スタンドの観衆も悪党揃いだ。

そのうちの1人が、背後からジャニバンを押さえつけた。

観衆やフェンスの高さなど、状況を十分に考慮していなかった

ジャニバンの不覚である。

一瞬、本能的に振り返ったジャニバンは、敵に背中を見せる事になる。

次の瞬間、ジャニバンは強烈なキックを背中に見舞われた。

これから始まる50人掛かりのリンチの、それは最初の一撃であった。