宇宙刑事ディルバン(15B)

 

「どうにもまずい事になった・・」

タケルとタッキーがダークパレスを占拠して1時間。

タッキーの誘導でイザベラや宇宙海賊達の宇宙船団は

ダークパレスを離脱し、どうやらイザベラのホームグランドである

ダスター星系に向かうらしい。

ダークパレスを二人で守らねばならない二人にとっては、

とりあえず一安心というところだ。

だが、この隙に増援を集め、ダークパレスに戻って来るであろうアルス艦隊を

迎え撃つというもくろみは失敗していた。

ダークパレスを奪われた事を外部に知られたくないイザベラは、

脱出に際して、不必要とも思えるほど多くの通信妨害衛星を

ダークパレスの周囲に巡らせてしまったのだ。

その為、ダークパレスと外部との通信は完全に遮断され、

タケルとタッキーは孤立無援の状態になったのである。

「まずい事って、通信妨害衛星の事?。

 あんなの、ダークパレスの対空砲で破壊したら良いじゃない」

タッキーの問いかけにタケルは首を振った。

「いや、俺が地下格納庫を破壊した衝撃で、ここのエネルギーシステムが

 故障してしまった。これから修理するが、それまでは通信妨害衛星を

 撃ち落とすだけのエネルギーはない」

「それじゃ、すぐ修理にかかろう」

「その前に、君にはやってもらいたい事がある」

「えっ?」

「異次元砲の破壊だ。

 今は異次元砲もエンスト状態だが、エネルギーシステムが復旧すれば、

 異次元砲も発射可能になる。

 俺が地球で捕らえられた時、アルスは遠隔操作で地球から異次元砲を操作していた。

 だから、エネルギーシステムの復旧より前に

 異次元砲を破壊しておかなければならないんだ」

タケルによれば、異次元砲があると思われるのは、

ダークパレスに近い洞窟の奥深い場所。

エネルギーレコーダの分析から、その場所で大量のエネルギーが発生した事で

分かったらしい。

「洞窟の中には生命反応がある。おそらく下等生物だろうが

 気を付けて行ってきてくれ」

「うん。分かった」

エネルギーシステムの修理の為にダークパレスに残るタケルと別れ、

タッキーは一人、洞窟の中に入った。

中は思った以上に寒く、ずっと暗闇が続いている。

もうどれぐらい歩いたろう。闇と静寂が支配する不気味な世界だ。

ガサガサ。

「んっ?」

タッキーは何かが動く気配を感じて立ち止まった。

ザワザワ。

たしかに何かがいる。

ライトを向けてみた。

その瞬間、何かがライトを持つ手に当たった。

「うっ」

慌てて地面に落ちたライトを拾おうと手を伸ばすと、

今度はその手に何かが当たってきた。

野球のボールが手に当たった程度の痛みだが、

何者かが攻撃を仕掛けているのはたしかだ。

「瞬着」

タッキーはジャニバンに変身した。

ベルトの中に装備されていた照明弾を取り出して発射する。

照明弾は天井に食い込むように突き刺さり、

洞窟の中を明るく照らし出した。

そこにいたのは無数のスライムである。

スライム達は突然の光に一瞬たじろいだが、

次々にジャンプしてジャニバンに体当たり攻撃を仕掛けてくる。

「でぁー」「えいっ」

ジャニバンのパンチが、チョップが、キックが、

スライムを叩き落としていく。

中にはジャニバンの身体に命中するスライムもいたが、

瞬着したジャニバンにはピンポン玉が当たった程度の衝撃しかない。

「えぇい、面倒だ!」

ジャニバンは体当たりしてくるスライムを無視し、

スライムで埋め尽くされたような洞窟を走り抜けた。

グラッ。

突然、ジャニバンの足下が崩れた。

「えっ?」

すでに照明弾の光が届かないところまで来ていたので分からなかったが、

それは地面ではなく、スライムが折り重なっていただけの場所だったのだ。

足を取られて倒れるジャニバンを乗せて、スライムはコンベアのように

洞窟の奥へと進んでいく。

ジャニバンが運ばれたのは、地下にできた空洞だった。

スライムはジャニバンを放り出すと、引き上げていく。

代わって、ジャニバンの前に現れたのは、

人間と同じぐらいの大きさの巨大なキノコ − おばけキノコである。

お化けキノコはラリホーの呪文を唱えた。

眠りを誘う呪文だ。

「うっ、くそー」

タッキーは急いでディルシューターに手を伸ばしたが、

その一撃はお化けキノコを外してしまう。

ラリホーの呪文が先に効いてしまったのだ。

ジャニバンは眠ってしまった。