宇宙刑事ディルバン(16B)

 

カンカン、コンコン。

ジャニバンは物音に目を覚ました。

“ここは・・どこなんだ??”

少し目を開けてみる。

地下の巨大な空洞だった。

“なんだ・・この音は??”

見ると、先ほどのお化けキノコ達が巨大な十字架を作っている。

身体を起こそうとしたが、手足の自由が利かない。

足を見ると、ロープで縛られている。

手も後ろ手に縛られているようだ。

両手足を縛られて、地面に転がされているのだ。

“だが、ちゃちなロープだ。

 生身の人間ならともかく、瞬着した宇宙刑事をこんな物で拘束できると

 思っているのだろうか”

ジャニバンの思考を、背後からの言葉が遮った。

「気が付いたようだな、侵入者よ」

「誰だ、お前は」

ジャニバンは身体を回転させ、声のした方を見る。

中央に神官の服を纏った男、そして両脇に護衛らしいお化けキノコが立っていた。

「無礼者。大神官様に向かって、その口の利き方はなんだ!」

お化けキノコがジャニバンを蹴りつけた。

「乱暴はやめなさい。神は決して暴力を望まない」

大神官様と呼ばれた男の制止で、お化けキノコはジャニバンから離れた。

「侵入者よ、お前は何の目的でこの洞窟に入ってきたのだ。

 道に迷ったのなら、このまま地上まで送り届けよう」

悪い男ではなさそうだ。

「僕は宇宙刑事・ジャニバン。この洞窟に異次元砲があるはずだ。

 罪のない人の命を奪い、平和を乱す破壊兵器だ。

 僕はそれを破壊しに来た」

「何?。異次元砲?。

 そのような物は、ここにはないが・・。

 もしや、それはこれの事ではあるまいな」

洞窟の中が急に明るくなった。

そして、光に照らし出されたのは、かつて地球防衛軍の戦艦に搭載されていた砲台である。

たしか『波動砲』と呼ばれていたはずだ。

そして、波動砲の砲身の前には、ガミラスで開発されたワープ光線の発射装置がある。

“これが異次元砲の正体か”

波動砲から発射されたエネルギーをワープさせて、地球を攻撃していたわけだ。

「これが、お前の言う異次元砲なのか?」

「そうだ。これからこれを破壊する。

 君たちに迷惑は掛けない。このロープを解いてくれ」

ジャニバンの力を持ってすれば、力ずくでロープを引きちぎり、

異次元砲を破壊する事も十分に可能だ。

だが、相手が悪人でない以上、無用の争いはしたくはない。

しかし、大神官の反応は冷たかった。

「ダメだ。これは我らの守護神。

 指一本、触れる事はまかりならぬ!」

今までになかった、怒りと戸惑いが感じられる言葉だ。

「何故だ?。これは君の言う神などではない。

 どうして、これが神なのだ」

「えぇい、問答無用。黙らせろ!」

再びお化けキノコがジャニバンを蹴りつけた。

  

“もはや、闘うしかないか”

ジャニバンは両手に力を込めてロープを引きちぎり、足のロープも解いた。

立ち上がるとすぐにディルソードを手に、お化けキノコに斬りつける。

大神官を左右から護衛していた2人のお化けキノコは、ラリホーの呪文を唱える間もなく、

あえなく切り倒される。

「安心しろ。峰打ちモードだ」

それからも、ジャニバンは襲いかかってくるお化けキノコやスライムの大群を

次から次と倒していく。

だが、如何せん数が多すぎる。

しかも、ラリホーの呪文から十分に回復しないままでの戦闘は、

ジャニバンのエネルギーを激しく消耗させた。

ブレスレットのエネルギーメータを見る。

残り60万エナジー。

お化けキノコやスライムと闘うだけなら十分なエネルギーだ。

波動砲も30万エナジーあれば破壊できる。

だが、波動砲をバリアシールドで覆った上で破壊しないと、お化けキノコやスライムの

住みかであるこの洞窟が崩壊してしまう。

波動砲の持つエネルギーから計算して、バリアシールドには40万、

いや余裕をみて50万エナジーが必要だ。

合計80万エナジー、20万エナジーが不足だ。

“クソ、出直すしかないか”

  

ジャニバンは敵の隙をついて、地下道に駆け込んだ。

どうやら追ってはこないようだ。

走りながら瞬着を解除する。

瞬着を解くと、エネルギーは1時間に5万エナジーずつ回復する。

エネルギーの回復を待って、再び波動砲のある空洞に侵入する作戦だ。

その為には、戦いを避け、地下道に潜んでいなければならない。

回復まで4時間だ。

  

「少年よ」

突然の声にタッキーは声のした方を見た。

大神官だ。

“さてはルーラの呪文でも唱えたか”

タッキーは躊躇した。

ここで再び瞬着すれば、またエネルギーを使ってしまう。

「心配するな。私はお前と闘うつもりはない」

「しかし・・」

「分かっておる。異次元砲の事だな。

 お前はあれを破壊できたのに、わしらの事を考えて思いとどまってくれた」

「どうして、それを?」

「私は心を読む事ができるのだよ。少しだがね。

 だからお前を信じる事にした。

 今からする話を聞いてもらいたい」

「う、うん」

「この洞窟には、昔からお化けキノコとスライムが住んでおった。

 しかし、これが仲の悪い連中でな。争いが絶えなかったのだ。

 そこで私は、両方の上に君臨する物を作った。それが神なのだ。

 むろん、本物の神であるはずもない。ただの石像だ」

大神官はこの洞窟での思い出をたどるように、話を始めた。

「だが、彼らはそれを神と信じた。

 争いを起こすと、神の怒りに触れ、この洞窟もろとも生き埋めになると信じたのだ。

 以後、争いはなくなり、平和に暮らすようになった。

 ところが、あの地下の空洞に目を付けた者がおった。

 宇宙詐欺師・ヒーレッツだ。

 あの男は魔導師を使い、ラリホーマの呪文でわしらが眠らされている間に、

 石像を運び出して、あの機械・・異次元砲だったか・・を置いていったのだ。

 そして、私より先に叔母やキノコやスライムを目覚めさせ、

 『これが新しい神だ。これからは、これを神として守るのだ』と教え込んだ。

私が目覚めた時には、すでに連中はあの機械を拝んでおったよ」

大神官は苦々しい想いを顔に浮かべながら、話を続ける。

「神がいなくなれば、また争いが起きる。私は異次元砲を新しい神だと言う事にした。

 そうするしかなかったのだ。

 実際、動かない石像よりも、時々光を放ち、轟音を響かせる異次元砲は効果的だった。

 お化けキノコやスライムは、新しい神をより恐れたからな」

「なるほど。ヒーレッツらしいやり方だ。

 平和に生きているあなた方を敵に回すとなると、宇宙警察も手が出しにくい。

 しかし、だとすると僕はあなたの敵になるのでは?」 

「そういう話になるやも知れぬ。だがな、元を質せばつまらぬ諍いを繰り返す

 お化けキノコやスライムに原因があるのだ。彼らも、神などいなくとも

 平和に生きる事の大切さを知らねばならない。

 まして、あの異次元砲とやらが、罪なき民を苦しめているとすればなおさらじゃ」

「でも、神と崇める物がなくなったら・・」

「争いが起きるだろうな。その時は滅べば良い。

 所詮、平和に生きる事の出来ぬ者には生きる資格はないのだ」

 

しばらくの後、タッキーは地下道を異次元砲のある空洞へと戻っていた。

異次元砲を破壊する段取りは、大神官と済ませてある。

地下道を逃げ回っていても、いつかは発見されて戦いになる。

そこでエネルギーを使えば、必要なエネルギーの回復が遅くなる。

エネルギーが回復したとしても、異次元砲を破壊するには、

それを神と信じて守っているお化けキノコやスライムと戦わねばならない。

エネルギー消費を最小限に押さえ、異次元砲に近づく方法を授かったのだ。

 

タッキーの前方で、何かが動く気配がある。

お化けキノコの一団だ。

「うわっ!!」

タッキーは大声を上げて、逃げ出した。

「いたぞ!」

「こっちだ!」

追いかけてくるお化けキノコとの差は瞬く間に縮った。

お化けキノコの一人がタッキーにタックルする。

倒れたタッキーの背中に、スライムの集団がのしかかる。

「うわぁ、やめてくれ。

 エネルギーがなくなって、もう戦えないんだ。

 大人しく帰るから、見逃してくれ」

許しを請うタッキー。

だが、お化けキノコはそんなタッキーを縛り上げた。

「ふん。最初からそう言っていれば良かったものを。

 大神官様も、お前にはたいそうお怒りなんだよ」

「そう。お前を神の前で火あぶりにせよとの仰せだ。

 だがな、若造。大神官様は慈悲深いお方だ。

 素直に詫びれば、許してくださらん事もない。

 ともかく、大人しくする事だ」

 

言われるまでもなく、タッキーは大人しく空洞まで連れて行かれ、

彼らが作っていた十字架に磔にされた。

神、すなわち異次元砲の御前まで、戦うことなく進んだのだ。

磔のままエネルギーの回復を待ち、エネルギーが回復すれば、

大神官が異次元砲を破壊する機会を与える算段になっていた。

 

お化けキノコもスライムも、2人の間にそう言う話ができているとは、

まったく気づいていない。

しかし、ここに2人の計略に気づいた者がいた。

ダークパレスから離脱し、宇宙艇のモニターで異次元砲の様子を観察していた男、

ヒーレッツである。

「フッ。神官め、余計な事をしてくれる。

 それにしてもジャニバンの奴、この前は、ダークパレスに入り込む為に、

 イザベラに宇宙を引き回されて、晒し者になったばかりだというのに。

 まるっきりワンパターンだな。

 作者(慎也)の発想も枯渇したというわけか。ははは」 

しかし、笑ってばかりはいられない。

異次元砲の管理はヒーレッツの役目なのだ。

「ジャニバンめ、思い知らせてやる」