宇宙刑事ディルバン(14B)

 

“今、戦闘員達がディルバンと闘っているはずだ。

早く行かなければ”

宇宙の正義を信じ、人の良心を信じて、タッキーは階段を駆け上がる。

通信センターのあるフロアに着いた。

廊下を駆け抜ける。

“もうすぐだ。あの角を曲がれば!”

 

しかし、角を曲がったタッキーは、眼前の光景に唖然とした。

何人もの戦闘員が倒されて寝そべっているのは分かるとしても、

残りの戦闘員は通信センターの前にたむろしているだけだ。

中にはタバコを吸っている者すらいる。

「何をやっているんだ、お前ら!」

「何をやっているんだ、お前!」

タッキーと戦闘員が同時に叫んだ。

戦闘員達もフリチンのまま駆けてきたタッキーに唖然としたのだ。

「俺たちにディルバンと戦えって言うのかよ」

「エネルギーをケチってばかりいないで、早く変身しろ、バカ」

数に勝る戦闘員の罵声が飛んでくる。

「それで、ディルバンはどうしてるんだ」

「中にいるよ。通信してんじゃないの」

「止めるんだろ。早く行って来いよ」

戦闘員は投げやりだ。

「ヨシ。俺が突っ込むから、お前らもついてこい」

・・と言ってもついてくる連中ではない。

「嫌だね。一人で行けばぁ」

「えぇぃ、面倒だ。こいつを中に放り込んでしまえ!」

「わっ!。何をするんだ!。やめろ!」

哀れ、すっかり戦闘員に舐められたタッキーは、

またも戦闘員に両手両足を持ち上げられ、通信センターの中に放り込まれる羽目になる。

  

一方、通信センターで宇宙警察機構本部との更新を試みていたディルバンも

突然、放り込まれたタッキーには驚いた。

何せ、タッキーは素っ裸であるばかりか、全身ザーメンまみれである。

宇宙警察機構を裏切り、イザベラの副官に成り下がったエリート刑事として

いずれは闘わねばならないと思っていた相手が、

まさかそんな格好で現れようとは、夢にも思わなかったのだ。

タッキーと戦闘員の間では見慣れた光景でも、ディルバンには新鮮だったというわけだ。

しかし、そこは百戦錬磨であるとともに、様々な難事件を解決に導いた実績のある

宇宙刑事である。

惨めな姿で放り込まれたタッキーを見て、おおよその経緯は理解できた。

“宇宙警察学校で習ったようにはいかなかったって事だな。

 敵に捕まって散々にいたぶられた挙げ句、今度は騙されて俺の邪魔をしに来たか。

 宇宙詐欺師・ヒーレッツらしいよ。

 俺も騙されるところだった”

だが、今のディルバンにはタッキーに構っている時間はない。

タッキーはまだ、ディルバンが裏切ったと思っているのだ。

 

タッキーは起きあがると、すぐに瞬着のポーズを取った。

「しゅんちゃ」

“く”しようとしたその瞬間、ディルバンのブラスターから放たれた一条の光が、

タッキーのブレスレットに命中した。

「うわぁっ!」

腕を押さえるタッキー。

「心配するな。エネルギーはセーブしておいた。

 今はお前の相手をしてやるヒマはないんでね。

 チョット待っていてもらうよ」

ディルバンはそう言うと、武器庫から奪ったバズーカを壁に向けて発射した。

「ひぇー」

轟音とともに壁に大きな穴が開く。

外にたむろしていた戦闘員の何人かが吹き飛ばされた。

ディルバンはその穴から外に出ると、戦闘員にブラスターを向ける。

「悪いな。ドアを開ける時間がなかったんだ。

 それより、生き残った運の良い奴。

 お前ら、最後まで生き残りたかったら中に入れ。

 チョット手伝ってもらう」

何を命じられるのかと、互いに顔を見合わせていた戦闘員だが、

ディルバンにブラスターを突きつけられては嫌とは言えない。

「おい、そこのガキを縛り上げておけ。

 いいか、一仕事終わるまで、身動きできないようにするんだぞ」

渋々入ってきた戦闘員達にディルバンはロープを放り投げた。

“タッキーを縛り上げる。

 なぁ〜んだ、そんな事か”

戦闘員達の顔に安堵の表情が広がる。

「うっ、どういうつもりだ。やめろ!」

あまりの成り行きに驚くタッキーだが、戦闘員達は数を頼りにタッキーを押さえつけると、

手際よく両手両足を縛り上げていく。

「へへへ、ディルバンの旦那。

 どうです、こいつにもう一発白いのを出させてみやしょうか?」

そう言う戦闘員の手は、すでに床に転がされたタッキーの股間を掴んでいる。

イザベラの配下の戦闘員が、一応はその副官であるタッキーを縛り上げ、

さらにいたぶるのは理に合わないが、常に目の前の強者に媚びようとするのが

彼らの習性かも知れない。

「良いのか、そのガキも宇宙刑事なんだろ」とディルバン。

「へぇ、それはそうなんですがね。

 泣く子も黙るダスター星系で、俺たちを捕まえようなんて心得違いをするもんで、

 逆にとっ捕まって、銀河中をストリップ巡業する羽目になったっていう

 お坊ちゃんなんでさぁ」

“やはり”と、ディルバンは先ほどの自分の考えが正しかった事を確信した。

「もうそれ以来、すっかり大人しくなって。

 でもまぁ、イザベラ様の邪魔をしようとしたんだ。

 普通だったら、殺されたって文句を言えるわけがない。

 それがこの美形のお陰で、イザベラ様のペット同然とはいえ、

 こうして生きていられるだけの奴でさぁ」

戦闘員はその証拠とばかりに、タッキーの股間をしごいて見せた。

たしかにタッキーは抵抗するでもなく、目を閉じ、唇を噛み締めたまま、

されるがままになっている。

 

その様子をモニターしているイザベラには、もう言葉はない。

自分が捕らえたタッキーがこれほど弱いとなると、面目丸つぶれである。

「ヒーレッツ。こ、これはどういう事だ」

怒りの矛先がヒーレッツに向けられる。

宇宙海賊の前で怒鳴ってみたところで、恥の上塗りにしかならないのだが、

イザベラとしては、自分以外に「責任者」を見つけたいのだ。

「はぁ、それは・・」

ヒーレッツとしても、言い訳のしようがない。

ドーン。

轟音が鳴り響いた。

警報ブザーも鳴り始める。

「地下倉庫にディルバンが時限爆弾を仕掛けたようです。

OBNガスが流出しています」

戦闘員の一人が叫んだ。

「なっ、何だ?。そのOBNガスというのは?」

「は、はい。これは地球星でとれるババァイヤという果実に含まれる

 チホウという成分を用いて・・」

「えぇい。作り方など聞いてはおらんわ。

 どんなガスかと聞いているのだ!」

「はい。OBNガス、別名オバンガスと申しまして、

 女性の老化を急速に早める効果を持っております。

「な、何だと!」

イザベラの顔色が変わった。

銀河一の美貌を自認するイザベラにとって、オバンガスの効果はまさに脅威だったのだ。

「ただ、男性には無害でして・・」

「バカ者!!。余計に悪いわ!。

 だいたい、何でそんな物がここにあるんだ」

「アルス様がアマゾネス星を攻略する時に・・」

「あ、あのバカが!。いったい、何という物を作ってくれるんだ!。

 いや、もうそんな事はどうでも良い。

 撤退だ。ダークパレスを離れるぞ」

「はぁっ?。しかし、先ほども申しましたように、

 男性には無害ですので・・」

「お前、私一人だけ逃げろと言うのか。

 そんな事をしてみろ。

 皇帝陛下に何と言われるか。いや、あのバカアルスが何と言い出すか!。

 とにかく、ここを離れるのだ。総員待避、さっさとしろ!!」

一人で逃げては格好が悪いというイザベラのワガママだ。

だが、宇宙海賊にとってもヒーレッツにしても、

それは必ずしも最悪の事態ではない。

もともと宇宙海賊はイザベラに対する“お付き合い”で集まってきただけだ。

「帰れ」と言われれば、それに越した事はない。

ヒーレッツにしても、建て前としては療養の為にダークパレスに

残っていただけだ。

ディルバン〜監視する責任もない。

ダークパレスを放棄するのも、あくまでもイザベラの命令によるものだ。

アルスには事情聴取を受けるかも知れないが、

これ以上、イザベラやタッキーに付き合うよりはマシである。

 

総員待避の命令は、通信センターにも届いた。

タッキーの股間を弄んでいた戦闘員は、“どうしましょうか”という目で

ディルバンを見た。

「逃げたいんだろ。かまわんよ。みんなと一緒に行くんだな」

ディルバンの言葉が終わらぬうちに、戦闘員は宇宙港に向かって駆けだしている。

通信センターに残ったのはディルバンとタッキーだけだ。

いや、もうすぐダークパレスは2人だけになる。

「派手にやられたもんだな、坊や」

ディルバンはタッキーに歩み寄った。

「うるさい、裏切り者め!」

「ははは、俺はお前が裏切ったと教えられたがな。

 連中、俺たちに同士討ちをやらせるつもりだったらしい」

ディルバンはタッキーのロープを解いた。

「いいか、坊や。詳しい説明をしている時間がない。

 俺の細工で、イザベラ達はダークパレスを放棄して脱出するはずだ。

 ここに残る者はいないだろう。いてもほんの一握りだ。

 だが、一度にたくさんの宇宙船が発進すれば混乱が起きて、連中の脱出が遅くなる。

 お前は宇宙港の管制センターに行って、連中の宇宙船がスムーズに発進できるように

 誘導するんだ」

「それで。それでアンタはどうするんだ?。

 アルスに本部の防御シールドを解除するパスワードを教えるつもりだろう」

「なるほど。おまえはそういう風に騙されていたという事か。

 本部が難攻不落といわれているのはな、その所在を徹底的に隠してきたからだ。

 本部の連中は、それに安心しきっている。

 だから、防御シールドなんて物はないんだよ」

「信じられない。

 だったら聞かせてもらうが、徹底的に隠してきた本部の所在が

 どうしてアルスに分かったんだ?。

 アンタが教えたんじゃないのか!」

ディルバンはため息をついた。

それは自分の恥をさらす事になる。

「そう、俺がしゃべった。

 地球でアルスの罠にかかって捕まり、四天王に性的拷問を受けたんだ。

 最後に射精させられた時、アルスは俺の心の中を読んで、

 所在を突きとめたというわけだ」 

「それを信じろと言うのか」

たしかに言葉で信じろと言うのは無理かも知れない。

ディルバンは腰のディルシューターを抜くと、タッキーの前に置いた。

「アルス艦隊の襲撃は、さっき本部に連絡しておいた。

 お前の言うシールドはないが、アルス艦隊を待ち伏せすれば

 万一にも陥落してしまうような本部じゃない。

 それに、ダークパレスがこっちの手に落ちたとなれば、

 すぐにでも引き返してくるはずだ。

 今度はここでアルス艦隊を迎え撃つ」

「2人でか」

「バカな。その為の増援をこれから要請するんだ」

ディルバンはそう言うと、通信パネルの前のイスに座った。

「もし、俺が信用できないのなら、それで俺を撃つんだな。

 その時は、良く狙って撃つんだぞ、坊や」

タッキーはディルシューターを手にして立ち上がった。

「悪いが、背中から撃つわけにはいかない。

 管制センターはどこにあるんだ?」

「フッ。この一つ上のフロアだ。

 そうそう。敵が残っているかも知れない。

 変身した方が良いな、坊や」

「あぁ。それから、僕は坊やじゃない。

 タッキー、いや宇宙刑事ジャニバンだ!」