宇宙刑事ディルバン(13B)

 

「さぁ、いよいよショーの始まりだよ」

100人近い宇宙海賊や銀河マフィアの幹部を前に、

イザベラは誇らしげにショーの開始を宣言した。

まるで、自分が全てのお膳立てをしたかのような口振りだ。

ここは、皇帝マフーが臨席する時だけに使われる特別会議室。

100人も入れる適当な部屋がないからと言って、

イザベラが勝手に『宇宙刑事同士討ちショー』の観客席にしてしまったのだ。

部屋には巨大なモニタースクリーンが持ち込まれ、

タケルやタッキーの姿を映しだしている。

「しかし、イザベラ様。

 元々は二人とも宇宙刑事です。

 手を取って、ダークパレスを攻撃する可能性はないのでしょうか」

宇宙海賊の一人が、イザベラに質問した。

「んっ?。(そう言われてみれば・・)

 それについては、ヒーレッツから説明する」

突然の指名を受け、ヒーレッツが「やれやれ」という顔で立ち上がる。

「さっき説明したように、タケル(ディルバン)はタッキー(ジャニバン)を

 宇宙警察機構を裏切って、イザベラ様の副官になった裏切り者と思っている。

 事実、アルス艦隊の攻撃を知らせようとするタケルを

 タッキーが妨害するはずだ。

 一方のタッキーは、タケルを宇宙警察機構本部の所在を教え、

 今またバリアシールドを解除するパスワードをアルス艦隊に連絡しようとしている

 裏切り者と思っている。

 現にタケルは通信センターに向かうはずだ。

 この二人が手を取るのはどういう場合か、考えてみて欲しい。 

 タケルはタッキーに『自分はアルスに捕まって性的拷問を受け、射精させられた。

 その時、気持ちが良かったので心の緊張がゆるみ、

 本部の所在をテレパシーで知られてしまった』と告白しなければならない。

 タッキーも同様だ。

 『イザベラ様を逮捕しようとして、逆に痛めつけられて捕虜になり、

 とても勝てないと思って副官になった』と言わねばならないのだ。

 エリート刑事達に、そんな事が出来ると思うのかね」

「分かったね。作戦は万全なのだよ」

イザベラの言葉を聞きながら、ヒーレッツは席に着いた。

 

モニタースクリーンの中では、タケルが地下牢を警備する戦闘員を倒したところだ。

「んっ?」

イザベラが怪訝そうにヒーレッツに顔を寄せた。

「あやつ、通信センターに向かっていないではないか」

「はい。まず、地下牢に最も近い第七武器庫を襲う事になります。

 そこを襲い、ジャニバンや戦闘員を引きつけておいて、

 通信センターに潜入するよう、アドバイスしておきました。

 ですから、イザベラ様もタケルが第七武器庫を襲ったら、

 ジャニバンをそっちに向かわせてください。

 今はエネルギーを温存する為に変身していませんが、

 多勢に無勢ですから、そのうち変身する必要に迫られるはずです。

 二人の対決はタケルが連絡を取った後です。

 エネルギーを消耗したディルバンなら、ジャニバンでも倒せるでしょう」

 

ヒーレッツの解説通り、タケルは第七武器庫を襲った。 

 

ピー、ピー、ピー。

警報が通信センターにも鳴り響く。

「いよいよ来るか」

タッキーは身震いした。

イザベラからの連絡が入る。

「タッキー、ディルバンが地下の第七武器庫を襲った。

 そこは戦闘員に任せて、お前はすぐにそっちに向かえ」

意外な命令だった。

「し、しかし、イザベラ様。

 それは陽動作戦です。

 ディルバンの最終目的は、この通信センターではありませんか」

「何を言っている。これは命令だぞ!」

「ディルバンは必ずここに来ます。

 ここで迎え撃つべきです」

タッキーも引き下がらない。

ここで引き下がっては、何の為にこれまでの屈辱に耐えてきたのか分からない。

「えぇぃ、私の言う事が聞けないと言うのか。

 戦闘員、タッキーを連れて行け!」

“もっと他に言い方はないのか”と呆れるヒーレッツだが、

タッキーの敵というシナリオになっている手前、口添えは出来ない。

モニタースクリーンには、タッキーと戦闘員の争う姿が映し出されていた。

 

「副官坊や、イザベラ様がお前に行ってこいとおっしゃってるんだ。

 さっさと行って、ディルバンをやっつけて来いよ」

「そうだ、そうだ」

通信センターからタッキーを連れ出そうとする戦闘員。

彼らはタッキーを完全に舐めきっている。

イザベラに銀河系を連れ回され、行く先々で晒し者にされるタッキーを

彼らは見ている。

そればかりか、ダスター星系では、自分達もタッキーをリンチにかけているのだ。

「舐めるな」という方が無理かも知れない。

「ダメだ!。ディルバンは必ずここに来る。

 そこを迎え撃つんだ!」

「うるせぇんだよ。行けと言ったら、さっさと行ってこい!」

必死に抵抗するタッキーだが、戦闘員も引き下がらない。

彼らも、やはりディルバンは恐ろしい。

これまでに、幾人もの猛者がディルバンに挑んで倒されてきた。

そんなディルバンを相手に、先陣を切ろうとする者などいない。

ジャニバンが闘って勝てるとも思えないが、ディルバンも無傷ではないはずだ。

弱ったところを自分達でやっつけようと考えていたのである。

 

一方のタッキーとしては、言う事を聞かない戦闘員など、

いっそジャニバンに変身してやっつけてしまいたいところだ。

しかし、ディルバンとの対決を考えると、無駄にエネルギーを使いたくはない。

その迷いが、タッキーに凶と出た。

1対1ならタッキーにも敵わぬ戦闘員だが、何と言っても質より量だ。

タッキーは抵抗も虚しく、戦闘員に組み伏せられてしまう。

「ヨシ。地下まで直通のエレベータがあったな。

 あそこに坊やを放り込んでしまえ」

「おー!」

戦闘員は暴れるタッキーの両手両足を抱えて、エレベータへと向かう。

「おい、ちょっと待て」

エレベータの前まで来た時、戦闘員の一人が進み出た。

「さっきから考えていたんだが、どうやらこの副官殿は

 ディルバンと闘うときのことを考えて、エネルギーをケチっているようだ。

 おそらく変身して、俺たちを蹴散らさないのはその為だろう」

「それで?」

「先んずれば人を制すという事もある。

 変身は早いほうが良い」

「だから?」

「エレベータに放り込む前に、変身せざるを得ないようにしてやるのさ」

 

「やめろー」

タッキーの悲痛な叫びがエレベータホールに響いた。

何と、戦闘員達はタッキーに早く変身させようと、服を脱がし始めたのだ。

「おい、坊や。先輩刑事の前に、戦闘員に素っ裸にされた姿を見せたくないだろ。

だったら、さっさと変身するんだな」

タッキーの抵抗は先ほどにも増して激しかったが、やはり多勢に無勢だ。

タッキーはアッという間に、素っ裸にされてしまう。

「ギャハハ。お前、宇宙警察学校を首席で出たんだってな」

「まさか、俺たちみたいな雑魚戦闘員に素っ裸にされるとは思わなかっただろう。

 良いザマだぜ」

「さぁ、いつまでもチンチン丸出しでいたくなかったら、

 さっさと変身して、ディルバンをやっつけてくるんだな」

惨めな姿を曝したタッキーに、戦闘員の容赦ない罵声が浴びせられる。

「まぁ、俺たちも応援してるからよぉ。

 頑張ってくれや」

「おっ、そうだ!。ディルバンとは初対面だろ。

 まずは、第一印象で相手を威圧しないとな」

戦闘員の一人はそう言うと、両手両足を押さえられて身動きできないタッキーの

股間をしごき始めた。

「なぁ、ディルバンに『どうだ!』っていうモノを見せてやろうぜ」

「た、頼む。止めてくれ!」

タッキーの懇願も戦闘員には逆効果にしかならない。

宇宙の底辺で生きてきた戦闘員にとって、恵まれた環境に育ち、

エリートとして歩み始めたタッキーは雲の上の存在だ。

毛並みの良さは、端整な顔立ちにも現れている。

その美少年が雲の上から引きずり降ろされ、一糸纏わぬ姿にされて、

自分達に許しを請うているのだ。

「言う通りするから、止めてくれ!」

止めるはずがなかった。

戦闘員はタッキーが勃起してもなお、手を休めない。

周りを取り囲んだ戦闘員も、ディルバンの事など忘れたかのように、

恥辱に顔を歪めたタッキーの姿に堪能している。

 

「あっ、あっあぁー」

ついにタッキーは、戦闘員の手で射精させられた。

大量の精液が、タッキーの身体とその周囲に飛び散ったのと同時に、

今まで戦闘員を振り解こうとしていたタッキーの両手足の動きが止まった。

戦闘員が押さえていた手を放しても、タッキーは大の字のまま動こうとしない。

しばらく戦闘員も動かなかった。

戦闘員にも“まずい事をしてしまった”という想いはある。

成り行きでやってしまった事だ。

「おい、なかなか元気の良いところを見せてくれたじゃないか。

 お前ならディルバンにも勝てるぞ」

さっきの戦闘員の言葉にも、どこか言い訳めいたところが感じられる。

しかし、覆水盆に返らずだ。

「ヨシ。せっかく元気の良いところを見せてくれたんだ。

 今度はディルバンにお前の元気を見せてやれ」

戦闘員はそう言うと、床に垂れた精液をブーツで踏んで、

精液の付いたブーツをタッキーの身体に擦りつける。 

「ははは、こりゃ良い。

 僕はこれだけ元気なんですってところを見せてやれ」

この場を取り繕うように、他の戦闘員も追従する。

タッキーの手足に胸が、そして美しい顔が精液の付いたブーツで

踏みにじられていく。

さらに股間を踏みつける戦闘員もいた。

「ヨ、ヨシ。もうこれぐらいで良いだろう。

 さぁ、ディルバンをやっつけてくるんだぞ」

戦闘員は再びタッキーの両手足を持ち上げると、

「せぇのー」と掛け声をかけて、エレベータの中に放り込んだ。

 

その頃、イザベラはモニタースクリーンの前で茫然自失の状態になっていた。

『自分の捕らえたジャニバンは、アルスの捕まえたジャニバンより強い。

だから、自分はアルスよりも強い』という、「イザベラの三段論法」が

跡形もなく崩れ去ろうとしているのだ。

集まった宇宙海賊達も重苦しい雰囲気を感じている。

“どうせイザベラのやる事だ。インチキをしてでもジャニバンに

勝たせるだろう”というのはお見通し。

「さすが、イザベラ様。凄い宇宙刑事を捕虜にしたものですなぁ」という

世辞を用意して集まってきたようなものだ。

それが、ディルバンと闘う以前に、戦闘員に素っ裸にされ、

挙げ句に射精までさせられたのでは、もはや言うべき言葉もない。

 

一方、タケルも焦りを感じていた。

彼の策によれば、武器庫を襲って戦闘員やジャニバンを誘き出し、

その隙に、通信センターへ侵入する事になっている。

しかし、ジャニバンは現れる様子もなく、戦闘員の数も少ない。

「くそっ。敵は陽動に乗ってこなかったか」

タケルは作戦の変更を決めた。

時間に余裕はない。

「瞬着!」

タケルはディルバンに変身する。

一気に通信センターを襲うつもりだった。

ダークパレス内部の見取り図は、ヒーレッツから手渡されている。

通信センターの近くに直通するエレベータがあるはずだ。

が、見るとそのエレベータは、地下に向かって降下し始めたところだ。

「フン。遅いんだよ、坊や」

ディルバンは吐き捨てると、近くの階段を駆け上がった。

 

エレベータにいたのは、戦闘員達によって射精の辱めを受けたばかりのタッキーである。

戦闘員がエレベータを操作したのか、エレベータは地下でドアを開けたまま停止した。

だが、タッキーは出てこない。

タッキーは戦闘員の手で放り込まれたまま、大の字で素っ裸を曝していた。

目にはうっすらと涙も浮かんでいる。

イザベラに捕まって以来、宇宙各地を連れ回され、

素っ裸を曝して見せ物にされる屈辱に耐えてきたのは何の為か。

起死回生のチャンスを前にして、またしてもこの醜態である。

所詮、自分は悪徳役人の子。

宇宙刑事となって正義を行うなど、身の程知らずであったという事か。

ふと、宇宙警察学校の教官の言葉が思い出された。

「宇宙海賊ってのはなぁ、金を払えば捕まってくれるってモンじゃねぇんだぞ。

 敵と戦う時は、誰も助けてくれねぇ。

 お前のように、周りからチヤホヤされて育ったお坊ちゃんに、

 宇宙刑事が務まるのかよぉ」

この教官はタッキーが嫌いだった。

何かというと「親父に助けてもらうわけにはいかねぇんだよ」と言われてきた。

この教官を見返してやるのが、タッキーの目標の一つだった。

それが今、脆くも崩れようとしている。

“これで良いのか”

急に、背中に床の冷たさが伝わってきた。

“このままで良いはずがない。

 どんなに辛くても、苦しくても、それに耐えて戦い続けなければならないんだ!”

 

タッキーは立ち上がってエレベータを出た。

第7武器庫に向かう。

しかし、そこにはすでにディルバンの姿はなかった。

「やはり通信センターだ」

タッキーが思う間もなく、また警報が鳴り響いた。

「ディルバンです!。ディルバンが通信センターに現れました!。

 我々では、とても持ちこたえられません。早く来てください!!

 うわぁぁぁ!!!」

悲鳴に似た声もスピーカーから流れてくる。

いや、最後は悲鳴そのものだ。

「ヨシ、すぐに行くぞ」

タッキーは階段を駆け上がった。

“頑張っていてくれ”

駆けながら、タッキーは自分を何度も辱めた戦闘員達に祈った。

“そうだ。彼らは今、結果的にではあるけれど、正義の為に闘っているんだ。

 彼らもそれを知れば、きっと正義に目覚めてくれるに違いない”

タッキーは暗い宇宙の中に、一筋の光を見たような気がしていた。