宇宙刑事ディルバン(12B)

 

「ヒーレッツ様。イザベラ様がお呼びです」

イザベラの戦闘員が、自室で休んでいたヒーレッツを呼びに来た。

「くそっ、今度は何の用なんだ!」

ヒーレッツは露骨に嫌な顔をした。

ディルバンvsジャニバンの対決は明日に迫っていた。

しかし、このところのヒーレッツは少しお疲れである。

頻繁にイザベラの呼び出しを受けるからだ。

一昨日は「世紀の一戦に宇宙海賊達を招待するのだ」と言い出され、

連絡係をやらされた。

計略が漏れる心配があると言っても、聞き入れるイザベラではない。

お陰で、ダークパレスには続々と宇宙海賊達が集まってきてしまった。

昨日は昨日で、宇宙海賊達に「勝者を賭けさせろ」と命じられて、

トトカルチョの手筈をさせられる始末だ。

「僕の人生の最大の汚点はね。姉上の弟として生まれた事なんだよ」と言った

アルスの言葉が思い浮かぶ。

この点についてだけは同情を禁じ得ない。

司令室のイザベラは上機嫌だった。

ヒーレッツの憂鬱に気づく様子は全くない。

「おぉ。来たか、ヒーレッツ。

 実はな、お前に頼みがあるのだ」

ヒーレッツの胃が痛くなった。

「宇宙海賊どもに、明日の勝者を賭けさせているのだが、

 どうにもジャニバンに分が悪い」

「それはそうでしょう。

 ディルバンはそれなりの実績を積んだ刑事ですが、

 ジャニバンは新人も同然ですから」

「バカ者!。そんな事では、アルスの参謀は務まっても、私の参謀は務まらないぞ」

ヒーレッツは心の中で「務めたくもないですけどね」と思った。

「いいか。私が捕まえたジャニバンが、アルスの捕まえたディルバンに

 負けるという事はだ。

 三段論法では、私がアルスより弱いという事ではないか」

「それで、ジャニバンに勝たせろと・・」

もはや反論する気もないヒーレッツ。

「当然ではないか」

イザベラは平然と言ってのける。

「それは、やろうと思えば出来ますよ。

 しかし、本当にそれでよろしいのですか?。

 ディルバンがジャニバンに負けて、宇宙警察機構本部にアルス艦隊の攻撃を

 連絡できなかったとしたら、待ち伏せ攻撃は出来なくなりますよ」

今度はイザベラの顔が凍った。

何とか言葉を探しているようだが、言葉は出ない。

「バ、バカ者。それはお前が考える事だろうが。

 いいか。ディルバンはアルスの攻撃を連絡する。

 戦いはジャニバンが勝つ。

 その線で策をまとめてくれ!」

ヒーレッツは自室に戻って胃薬を飲んだ後、今後の事に思いを巡らせた。

いっそ、イザベラの命令など、放っておこうかとも思う。

ヒーレッツにとってはどっちが勝っても良いのだ。

捕虜であるはずのディルバンとジャニバンが暴れて、

ダークパレスに被害を与えてくれさえすれば良い。

捕虜の管理を怠ったとしてイザベラが失脚して、

自分はアルスから有能な参謀として認められる事になるのだ。

だが、最後にイザベラの言った言葉が耳に残った。

「うまくいけば、お前にヤバン星の管理を任せても良いぞ」

一般には、疲弊した土地に未開発種族が住んでいるだけの星と思われているが、

ヒーレッツの得た情報によれば、超貴金属ダイヤモニウムの鉱脈がある。

あの星を支配する事など、たやすい事だ。

住民を奴隷として使ってダイヤモニウムを採掘すれば、

巨万の富を得る事が出来る。

「ふふふ、運が向いてきたかも知れないぞ」

ヒーレッツの胃から痛みが消えていた。

アルス艦隊が出撃して、3日目の朝。

宇宙警察機構本部との戦いは、すでに明暗が決まっていた。

戦い初日の奇襲で、主力艦隊を失った宇宙警察機構本部のエリート達は

それだけで一気に戦意を喪失し、何とか身の安全を確保するよう、

アルスとの交渉に奔走する始末だ。

脱走者も多かった。

3日目になっても組織的な抵抗を続けていたのは、

シンをリーダーとするダークギルGメンだけという有様である。

無論、タケルがそれを知る由もない。

タケルは自分の失策を取り返すべく、地下牢を出た。