宇宙刑事ディルバン(13A)

 

 シンが懲罰室で苦しんでいる同時刻、ワープ航法で亜空間を疾走する一隻の宇宙船

があった。七色の原色の光が渦巻く亜空間の中にあって、漆黒に塗装されたその宇宙

船の姿は舟の形に切り抜かれた影のように見える。

 船体を埋めつくす無数の砲座やミサイル発射口を見るまでなく、船体の両横に大き

く描かれた髑髏マークがその宇宙船の正体を何よりも如実に物語っていた。

 宇宙海賊『黒蠍団』旗艦シャドースコルピオ……それがこの宇宙船の正式名称であ

る。全銀河の中でも最凶最悪と言われる宇宙海賊の旗艦は、今まさに宇宙警察機構本

部を目指しているのだった。

 

「まだ到着しないのか!?他の者達に遅れを取る訳にはいかんのだ!もっとスピード

をあげろ!!」

 メインブリッジ内にいる海賊団の女団長ベロニカが激を飛ばす。『銀河の三大醜女』

に数えられる醜悪な顔を怒りに歪ませるベロニカに、部下の海賊団員たちも戦々恐々である。

「ベロニカ様、本艦は現在最大船速で航行中でございます。これ以上速度を上げると

エンジンが暴走してしまいます!」

 完全に激昂し鬼気迫る表情でまくしたてる女団長をなだめようと必死の海賊団員だ

が、当のベロニカの興奮は治まる様子もなく、殺気に満ちた形相で団員を睨み付ける。

「おだまり!!つべこべ言わずに速度を上げるのよ。目的地に到着さえすれば艦の故

障などいくらでも直せるわ。私に殺されたくなかったらすぐに命令通りにしなさい!」

 ベロニカの言葉が単なる脅しでないことを十分に承知している団員は駆け足でコン

ソールまで行くと、直ちに速度を上げるべく作業にとりかかる。

 宇宙船が加速するGを体で感じ、満足したベロニカは右手に握られた封筒に視線を

落とした。

 ロウで封印されている、いかにも古風な封筒は半日前にベロニカの元に届けられた

ものだった。差出人の名前はダークギル帝国の王子アルスである。通信などを使わず

に、わざわざ使者を差し向けて直接封筒を届けるあたりがあの少年らしいな、とベロ

ニカは思った。そして、初めて封筒の内容を読んだ時の驚きと興奮を改めて思い出す。

 封筒の中に入れられていたのは招待状であった。それも宇宙警察機構本部を制圧し

た戦勝祝賀パーティーだという。そしてベロニカを最も驚かせたのはパーティーのメ

インイベントの内容だった。

 

 『白銀の鷹エルデバンの公開処刑』

 

 この文字を目にした時、剛胆で知られる女海賊も手の震えが止まらなかったものだ。

「ふふふっ、待っていなさい宇宙刑事エルデバン。遂にお前と再会できる時が来たわ・・・」

 女海賊は自分の左目を被う革製の眼帯を指先で撫で上げると、ヒキガエルそっくり

な醜い顔を笑顔に歪ませた。

 

 

 

 アルスが黒蠍団到着の報を受けたのは、ちょうどシンに射精許可を出した直後だった。

「ふんっ!随分と早いご到着だね。パーティーの開催まであと一日以上もあるじゃな

いか……まぁ、辺境の宇宙海賊風情に社交界の礼儀を求めても無駄と言う訳か・・・」

 せっかくのお楽しみを中断させられ、さすがのアルスも不機嫌顔である。

「まったくでございます。しかも、あの女ときたら許可が下りる前に勝手に入港した

挙げ句、戦闘員の制止を振りきってこの部屋に向かっている模様です。顔も下品の極

致なら行動にも品性の欠片もありませんわね」

 報告に来た四天王のライラも不愉快さを隠せない様子だ。彼女もまた他の宇宙刑事

への調教作業を中断させられたのだから無理もない。戦闘に勝利した後に、敵兵の中

から好みの男を捕らえ、いたぶり、陵辱するのが彼女たち四天王の最大の楽しみなのだ。

 だが、今一番哀れなのはエリート宇宙刑事のシンであろう。快楽地獄からやっと解

放される喜びに打ち震えていた矢先に、ふたたびお預け喰らってしまったのだ。

 今、こうしている間にも体の恥ずかしい部分にたっぷりと塗り込められた媚薬がジ

ワジワと心身を責め上げていく。

「くっ、ふうぅぅん・・・」

 エリート宇宙刑事は猿ぐつわを噛まされた口から切ない喘ぎを漏らし、身をよじら

せる。噴火寸前の股間の疼きを無理矢理押えこまれ、快楽と苦痛のアベレージは限界

寸前であった。

 アルスはシンの痴態に視線を戻すと、いつもの冷たい微笑みを浮かべる。

「ベロニカの目的は間違いなく君だろうねぇ。身に覚えがあるだろう?シン君」

 シンはアルスの問い掛けに、自分の身に迫る更なる地獄を予感せずにはいられなかった・・・