宇宙刑事ディルバン(11B)

 

ダークパレスの司令室から、出撃するアルスの宇宙艦隊を見送る

イザベラとタッキー。

イザベラの手は、ずっとタッキーの股間を弄び続けている。

女に股間をオモチャにされるのは、当然ながら屈辱ではあったが、

昨日の皇帝マフーとの謁見で醜態を曝し、イザベラを怒らせている。

この後、腹いせに何をされるか分からないという不安の方が

今のタッキーには大きかった。

 

「ふう」

艦隊の最後の一隻がワープを終えると、イザベラは大きなため息をついて

タッキーの股間から手を放した。

「タッキー。お前、アルスがどうやって宇宙警察機構本部の所在を突きとめたか

 分かるか?」

「えっ?」

“そう言えばそうだ”とタッキーも思った。

本部の所在は極秘中の極秘だ。

タッキーも何度か本部に行った事はあるものの、

いつもどこかの支部からワープしていた。

ワープ装置は本部で操作され、どの辺りにワープするのかさえ

支部では把握できない仕組みになっていたのである。

「簡単な事だ。裏切り者がいるのだよ」

「裏切り・・」

「タケル・・、いやディルバンと言った方が分かりやすいか。

 名前ぐらいは知っているだろう」

「は、はい」

孤児の身から宇宙警察機構のエリート刑事にまでなった彼を

知らぬ者はいない。

たしか、今は地球で活動しているはずだとタッキーは記憶している。

「しかし、彼ほどのエリートが・・」

「彼ほどのエリートしか知らんのだろ、本部の所在は」

タッキーに返す言葉がなかった。

その通りだったのだ。

「たしかに奴の気持ちも分からぬではない。

 エリート刑事といっても、所詮は成り上がりだ。

 宇宙警察学校出身のお前なら、いずれは本部勤務だろうが、

 ディルバンは一生第一線の勤務だ。

 違うか?!」

それも事実だった。

「でも、だからといって・・」

「彼はこのダークパレスにいるのだよ。

 ここで何をしていると思う?。

 宇宙警察機構本部のバリアシールドを解除するパスワードを解読しているのだ。

 それをアルスに知らせれば、報酬として将軍の地位が約束されているそうだ。

 孤児のディルバンがいくら頑張ったとしても、

 宇宙警察機構でそれに匹敵する地位は得られないのではないか」

それもまた事実だった。

「一応、アルスらしく“敵を騙すには味方から”という事で地下牢に入っているが、

変身の為のブレスレットは渡されているから、

 その気になれば、いつでも脱出できる。

 パスワードを解読した後は、何も知らされていない戦闘員を倒し、

 通信センターに侵入して、アルスに連絡を取るつもりだ」

「うぅっ。何という事を・・。

 し、しかし、どうしてそれを・・」

「私がお前に教えるのか。そう言いたいんだね。

 私の美学の為・・、と言えば、お前は笑うかも知れない。

 だが、一昔前までは、悪にも悪なりの仁義ってものがあった。

 私は卑怯なマネをしてまで、何かを得ようとは思わないのだよ」

イザベラはそう言うと、タッキーにブレスレットを投げて寄越した。

「これからどうするかは、お前が決めるんだね。

ディルバンと対決するも良し、或いはディルバンの手下になって、

アルスの為に一役買うも良し。

 そうだ。これからディルバンに会いに行くか」 

「えっ。あっ、はい」

タッキーにとって、イザベラの話はにわかには信じがたかった。

だが、一方では筋の通った話でもある。

“ディルバンと会う事で、真偽がつかめるのではないか”

タッキーはそう思ったのである。

 

イザベラとタッキーは地下に降りた。

地下牢と聞いていたが、言葉からイメージされる暗い雰囲気はなく、

ほとんど一般の牢屋と同じ造りだ。

そこに、ディルバンことタケルがいた。

鉄格子が填っているものの、中のタケルは何ら拘束されていない。

これでは、脱出は容易であろう。

いや、その気になれば、すぐにでも脱出できるはずの状態だ。

“そうしないのは、パスワードを解読しているからなのか”とタッキーは思う。

「これはこれは、イザベラ様。それに、タッキー殿」

牢の前に置かれた椅子に座っていた男が、イザベラの姿を見て立ち上がった。

「アルスの参謀をしているヒーレッツだ。

 参謀自らが牢番か?」

イザベラはタッキーにヒーレッツを紹介しつつ、ヒーレッツには皮肉を浴びせた。

「イザベラ様こそ、今日はタッキー殿のショーの予定はないのですか」

皮肉が返ってくる。

この会話を聞いてか、タケルが牢の外に視線を向けた。

囚われの身にしては、やはり余裕が感じられる。

「こいつらは何者だ?」

「こちらは、皇帝陛下の王女イザベラ様。

 こっちが、宇宙警察学校を首席で卒業され、

 今はイザベラ様の副官を務めるタッキー殿」

ヒーレッツが紹介すると、タケルはむしろタッキーに敵意のある視線を

投げてきた。

「女の小姓か。宇宙警察学校も落ちたものだ」

「何を言うか!。裏切り者」

タッキーもやり返す。

そして、タッキーの手がブレスレットにかかった時、

タッキーはタケルの手もブレスレットにかかるのを見た。

“やっぱりだ。ブレスレットを渡されている”

「待て待て」

「止めるのだ」

その場はイザベラとヒーレッツに制止され、直接対決には至らなかったが、

司令室に戻る途中、タッキーはイザベラに抗議した。

「さっきは、『対決するも良し』と・・」

「たしかに言った。

 しかしな、地下牢にいる限り、ディルバンはアルスの捕虜なのだ。

 ヒーレッツまでいては、手が出せない。

 いずれあいつは脱走する。

 私はダークパレスの警備を任されているから、その時は奴を倒せるのだ」

「分かりました。必ず倒して見せます」

 

タッキーはディルバンの裏切りを確信した。

もちろん、イザベラがタッキーに味方するのは、下心があっての事だろう。

おそらく、ディルバンからの連絡がなかった為に、

アルスの攻撃が失敗するというシナリオを考えているのだろう。  

だが、今はともかくディルバンのアルスへの連絡を阻止しなければならない。

タッキーはイザベラのもとを去ると、自ら指揮して通信センターの警備についた。

 

その頃、司令室ではイザベラがヒーレッツと談笑していた。

「ふふふ、こうスムーズに事が運ぶとはなぁ」

「まったくです。

 宇宙警察学校出身のエリートでありながら、ダスター星系に配属されたタッキーが、

 その恨みから裏切ったという話、ディルバンも完全に信じたようで」

「これで、ディルバンが脱走して通信センターに行けば・・」

「それは必ず行きます。

 奴には、アルス艦隊の攻撃を本部に知らせるよう、言い含めていますから。

 そうなれば、宇宙刑事同士のバトルを生で見られるという段取りです」

「して、それはいつだ」

「3日後です。アルス艦隊の到着にあわせて連絡すれば、

 敵を待ち伏せできると言っておきました。

 事前に連絡すれば、敵に漏れる心配もあるので、

 必ず3日後にするようにとも言ってあります」

「タッキーが勝てば、アルスは攻撃に失敗して失脚。

 ディルバンが勝っても、アルスは捕虜の脱走の責任を取らされる。

 もちろん、お前は病気療養の為にここに残っただけで、

 捕虜の警備に責任はない事になるのだがな。

 ははは。どちらが勝つ事やら」

 

「フン。バカな女だ。

 捕虜が脱走したら、責任を取るのは警備を担当したイザベラだろうが」

ヒーレッツは自分の部屋に戻ると、心の中でつぶやいた。

「それに、アルスは3日あれば宇宙警察機構本部を攻略できると言っていた。

 ディルバンとジャニバン、どちらが勝ったところで後の祭り。

 イザベラが失脚して、アルスの天下になるんだよ」

今回のヒーレッツの企ては、アルスの命令によるものではない。

ヒーレッツの独断である。

「アルスはたしかに名将だ」とヒーレッツも思っている。

それは、ディルバンの捕獲作戦を見ても分かる事だ。

ディルバンの捕獲は、アルス一人でも十分に出来た。

だが、アルスはディルバンに100%の力で戦えないようにしただけで、

最後の勝利は四天王に譲っている。

それが部下の自信になり、アルスに対する信頼や忠誠心に繋がる。

イザベラには出来ない事だ。

しかし、そうやってアルスのもとに集まった将軍や参謀の

何と多い事か。

現役の銀河連邦軍の将軍の中にも、アルスを信奉するものもいる始末だ。

これでは少々の手柄を立てたところで、アルスに認められるのは難しい。

まして、宇宙警察機構本部の攻撃は、アルスが陣頭指揮を執るだろう。

側近の将軍や参謀も、全員が出撃した。

そんな連中と一緒にいるよりも、ここでイザベラの失脚を画策した方が

出世の可能性は大きいというものだ。

 

ディルバンとジャニバンが対決すれば、どんな結果になるにせよ

ダークパレスもある程度の被害を受ける。

その責任を取らされてイザベラは失脚。

そして、自分はアルスに認められて・・。

さてさて、どんな褒美をいただける事か。

ヒーレッツは3日後の事を思い浮かべ、笑いをかみ殺した。